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15.風変わりな決闘
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「ああ、福田は負けると思ってないし、当然受けた。このときになって初めて、相手の要求する対戦方式がちょっと変わっていると知らされるんだが」
「変わってるも何も、道場破りに対しては何でもありでしょ。決まっている。まさか志貴斗のルールを要求してきて、福田さんがそれを受け入れたとかじゃないでしょうね」
「もちろん違う。よそ者二人は2対2の何でもありをしたいと言い出したんだとよ」
「2対2? 集団同士の喧嘩みたいなイメージか? あ、でも、タッチしないと攻撃権はないのかな」
「その辺、福田も聞いたらしい。答はタッチとかは一切関係なし。とにかく2対2でやりたいという話だった。ルールは今やっているガチンコトーナメントに準じてくれればいいってことだった」
「相手のその二人だとし、うちからは? 福田さんが行くのは当然として」
「残っていた若い奴らの中では一番タッパのある木下を従えることにしたそうだ」
木下はまだバトルロイヤルでしかリングに上がったことがない。正式デビューは遅くとも来シリーズには行われるはず。
「ここから先は映像なんかがある訳でなし、その場にいた面々も当事者になっちまって、冷静に語れる状況じゃないんだが。断片的に聞いた話だと、福田が食い止められている間に、木下が掴まってぼこぼこにやられた。連中があまりにも執拗に痛めつけるものだから、福田も頭に来て、でかい方の耳や目を攻撃して脱出し、救援に行ったんだが、志貴斗の連中からすれば今回の取り決めでは耳はともかく、目への攻撃は反則だ。そちらがそう来るなら遠慮しない、言質を取ったと言わんばかりに、木下の腕を折った。そのあとは他の練習生がリングに飛び込んで来て収拾が付かなくなった」
「おかしいですよそれ。人数から言っても、こちらが二人を袋だたきにしておしまいでしょう」
疑問が拭えない。
「高松さんの話だと、志貴斗の奴らは妙に喧嘩慣れしていたというんだ。ぼろぼろの木下を盾にして、俺ら側の突進を防いだ上で、キャリアの浅い順に一人ずつ掴まえては壊して行きやがった。新たに二人がやられたところで、福田が冷静さを少し取り戻して提案した。一対一でやって、結果はどうあれこの場は収めようぜ。ルールはおたくらのところでいいやと。
井関って奴はそれでもかまわない風だったらしいが、でかい方がサミングをされていきり立っていた。何でも、2対2の決着がまだだとか口走って、福田に対して二人掛かりでやるつもりだったようだ。福田は突進してきた相手を、密かに習い始めたっていうパンチで、顎先をかすめるようにヒットさせて昏倒させた。脳みそを揺らすってやつだな」
関節技主体だった福田が打撃も習い始めていると聞いて、小石川は嬉しくなった。鶴口にリベンジするためかなと思えた。
「はからずも志貴斗は動けるのが井関だけになり、ちょうどいいってことでそいつと福田とで試合を始めた。志貴斗ルールなんて言ったって、裁ける奴がいないんだから、結局はいつもの道場破りとやるときと一緒だ。細かな反則をお互いに織り交ぜながら、体格に勝る福田がグラウンドで上を取るも極めきれない状況が続いたそうだ。というか、この辺は話半分で聞くべきかもしれんな。うちの若い連中は当然福田びいきの目で見てるだろうし、総合格闘技の奴らは下からでも極める技術が高い。で、長引いた。グラウンドでのほぼ膠着した状態が延々と。三十分とも四十分とも聞いている」
「それって、誰かが割って入って水入りにしないとだめなんじゃ」
「だが、そういう役割のできる人間が場にいなかった。歳で言やあ高松さんだが、格が足りない。最低限、社長のはっきりした後ろ盾がいる。誰か一人でいいから、社長のいる巡業先か、あるいは敵方の獅子吼んところでもいい。電話して収拾を付ける方向に持って行くべきだったんだ。まあ、俺もその場にいなくて、今だからこそ言える判断だが。後に事態を知った社長から行けと言われて飛んできたが、ずっとぶるっていた。志貴斗の連中が大挙して押し掛けてきてたらどうするべって。そんなことにならなくてほっとした」
悪役で試合では小狡い面も見せる鬼頭であるが、根は正直者だ。
「なかったことを心配しても無駄骨ですよ。それよりもことの顛末を早く」
「ああ、そうだったな。福田と井関は足の取り合いになって、どちらも動くに動けなくなっていた。そうして三、四十分も長引くと、伸びていた奴も目を覚ますってもんだ」
「ああ……。みんなで見張ってなかったんですか。それか、拘束するとか」
「してなかった。若いのが見張っておかなかったのもミスだが、たとえ見張っていても止められたかどうか分からんぐらいの勢いがあったと言っている。回復したそいつはあっちゅう間にリングに躍り込んで、福田を踏み付けた。何度もな。福田は対処しようとしたが井関が手放さなかったせいもあったのかなあ。そのままリアルなストンピングを頭を中心にもらい続けた。高松さんを含めた総出ででかいのを止めたときには、ぐったりして動かなかったらしい。井関の足を極めようとしていた腕がそのまんまだったから、簡単には引き剥がせなくてな。搬送するのに時間が掛かったそうだ」
「……それで今の容態は」
小石川は知らず、恐る恐るといった口ぶりになっていた。
続く
「変わってるも何も、道場破りに対しては何でもありでしょ。決まっている。まさか志貴斗のルールを要求してきて、福田さんがそれを受け入れたとかじゃないでしょうね」
「もちろん違う。よそ者二人は2対2の何でもありをしたいと言い出したんだとよ」
「2対2? 集団同士の喧嘩みたいなイメージか? あ、でも、タッチしないと攻撃権はないのかな」
「その辺、福田も聞いたらしい。答はタッチとかは一切関係なし。とにかく2対2でやりたいという話だった。ルールは今やっているガチンコトーナメントに準じてくれればいいってことだった」
「相手のその二人だとし、うちからは? 福田さんが行くのは当然として」
「残っていた若い奴らの中では一番タッパのある木下を従えることにしたそうだ」
木下はまだバトルロイヤルでしかリングに上がったことがない。正式デビューは遅くとも来シリーズには行われるはず。
「ここから先は映像なんかがある訳でなし、その場にいた面々も当事者になっちまって、冷静に語れる状況じゃないんだが。断片的に聞いた話だと、福田が食い止められている間に、木下が掴まってぼこぼこにやられた。連中があまりにも執拗に痛めつけるものだから、福田も頭に来て、でかい方の耳や目を攻撃して脱出し、救援に行ったんだが、志貴斗の連中からすれば今回の取り決めでは耳はともかく、目への攻撃は反則だ。そちらがそう来るなら遠慮しない、言質を取ったと言わんばかりに、木下の腕を折った。そのあとは他の練習生がリングに飛び込んで来て収拾が付かなくなった」
「おかしいですよそれ。人数から言っても、こちらが二人を袋だたきにしておしまいでしょう」
疑問が拭えない。
「高松さんの話だと、志貴斗の奴らは妙に喧嘩慣れしていたというんだ。ぼろぼろの木下を盾にして、俺ら側の突進を防いだ上で、キャリアの浅い順に一人ずつ掴まえては壊して行きやがった。新たに二人がやられたところで、福田が冷静さを少し取り戻して提案した。一対一でやって、結果はどうあれこの場は収めようぜ。ルールはおたくらのところでいいやと。
井関って奴はそれでもかまわない風だったらしいが、でかい方がサミングをされていきり立っていた。何でも、2対2の決着がまだだとか口走って、福田に対して二人掛かりでやるつもりだったようだ。福田は突進してきた相手を、密かに習い始めたっていうパンチで、顎先をかすめるようにヒットさせて昏倒させた。脳みそを揺らすってやつだな」
関節技主体だった福田が打撃も習い始めていると聞いて、小石川は嬉しくなった。鶴口にリベンジするためかなと思えた。
「はからずも志貴斗は動けるのが井関だけになり、ちょうどいいってことでそいつと福田とで試合を始めた。志貴斗ルールなんて言ったって、裁ける奴がいないんだから、結局はいつもの道場破りとやるときと一緒だ。細かな反則をお互いに織り交ぜながら、体格に勝る福田がグラウンドで上を取るも極めきれない状況が続いたそうだ。というか、この辺は話半分で聞くべきかもしれんな。うちの若い連中は当然福田びいきの目で見てるだろうし、総合格闘技の奴らは下からでも極める技術が高い。で、長引いた。グラウンドでのほぼ膠着した状態が延々と。三十分とも四十分とも聞いている」
「それって、誰かが割って入って水入りにしないとだめなんじゃ」
「だが、そういう役割のできる人間が場にいなかった。歳で言やあ高松さんだが、格が足りない。最低限、社長のはっきりした後ろ盾がいる。誰か一人でいいから、社長のいる巡業先か、あるいは敵方の獅子吼んところでもいい。電話して収拾を付ける方向に持って行くべきだったんだ。まあ、俺もその場にいなくて、今だからこそ言える判断だが。後に事態を知った社長から行けと言われて飛んできたが、ずっとぶるっていた。志貴斗の連中が大挙して押し掛けてきてたらどうするべって。そんなことにならなくてほっとした」
悪役で試合では小狡い面も見せる鬼頭であるが、根は正直者だ。
「なかったことを心配しても無駄骨ですよ。それよりもことの顛末を早く」
「ああ、そうだったな。福田と井関は足の取り合いになって、どちらも動くに動けなくなっていた。そうして三、四十分も長引くと、伸びていた奴も目を覚ますってもんだ」
「ああ……。みんなで見張ってなかったんですか。それか、拘束するとか」
「してなかった。若いのが見張っておかなかったのもミスだが、たとえ見張っていても止められたかどうか分からんぐらいの勢いがあったと言っている。回復したそいつはあっちゅう間にリングに躍り込んで、福田を踏み付けた。何度もな。福田は対処しようとしたが井関が手放さなかったせいもあったのかなあ。そのままリアルなストンピングを頭を中心にもらい続けた。高松さんを含めた総出ででかいのを止めたときには、ぐったりして動かなかったらしい。井関の足を極めようとしていた腕がそのまんまだったから、簡単には引き剥がせなくてな。搬送するのに時間が掛かったそうだ」
「……それで今の容態は」
小石川は知らず、恐る恐るといった口ぶりになっていた。
続く
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