十二階段

崎田毅駿

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容疑の拡大と再びの絞り込み

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「この三人と、あなた達を除いた十三人の中にいると思う」
「あのー、話をややこしくするつもりはないんだけど」
 出川が片手を挙げ、申し訳なさげに発言する。
「女子ってことは考えられない?」
「女子が、何で? 当時、私のために事件を起こす理由がないでしょ」
「いや、その、凄く仲のいい友達だったとか、今じゃかなり線引きが曖昧になっているよね、性別の。当時もあったかもしれないなー、なんて」
「同性愛って言いたいのね。私は違うけど」
「柏原さんが違っても、相手が一方的に思うことはあるんじゃないかな」
「……少なくとも、私にはそういうのは感じられなかった。サインて言っていいの? 恋愛感情として好きなら、それと分かるサインを出そうとするもんじゃないの?」
「いや、自分も分かんないよ。とにかく、名前が挙がっている男子を疑うだけでいいのかってこと」
「出川、それを言い出したら、他のクラスにも目を向けなきゃ行けなくなるな。大変だぜ、これは」
 僕の指摘に、出川は「そうだね、そうなる」と応じて、黙り込んだ。
「常識で量るなら、犯人は自らの名前を書く訳がない。たとえ十八人の中に紛れ込ませる形だとしても。だけど、この犯人にそんな常識が通用するのかどうか。犯人はその存在を、柏原さんに知ってもらいたい節も見受けられるから」
「大崎君の分析はよくできている気がするけれども、結論としては何も分かっていないに等しいんじゃない? どちらでもあり得るってことなんだから」
「そう言われると辛い」
 思わず、苦笑いを浮かべた。役に立ちたい気持ちはあるのだが、この件を迂闊につついたら、ひょとしたら僕にまで害が及びはしないか? まさかとは思うけれども、この差出人は柏原さんの義父が殺された事件の真相を知った上で、わざとその犯人だと称している、とか。
 ただ、僕に対する脅迫なり牽制なりだったら、僕に直接送り付けてくるものだ。そうじゃないってことは、真相を知らない可能性の方が圧倒的に高いか。
 あれこれ想像してしまい、思考の筋道が乱れる。
 ふと気付くと、三人とも遅れがちな食事だったが、一番遅いのは自分だと分かった。ややスピードを上げつつ、話を進める。
「差し当たって決めておかなくちゃいけないのは、このことを桧森達に話すかどうかだと思う」
「そうなのよね。迷って、とりあえず二人にだけ話そうと」
「君の義父の事件に触れる必要が生じるから、反対だな」
 出川が案外強い調子で即断した。
「友達になって間がない相手に打ち明けるには、重たいと思うよ」
「……かもね」
 納得しかけた様子だったが、お冷やのグラスを握ってから「でも」と付け足した柏原さん。
「桧森君から言われてた、次が送られてきたら知らせてくれっていう約束はどうしよう?」
「うーん、内容を伏せるのは無理があるし、来てないことにするのも後々まずいかも」
「――柏原さんて今、実家を離れてるんだよね?」
「ええ」
「留守のときに家族が来て、郵便受けに問題の封筒を見付けたが、気味が悪いから処分した、ってことにでもできないかな」
「娘宛といえども、勝手に捨てたり開封したりする人じゃないんだけどな、母は」
 僕の提案に柏原さんは難しい顔をした。
「ま、しょうがないか。必要な嘘だと思って」
「そういえばこの郵便の件、お母さんには言った?」
「いいえ。二通目が届いたばかりっていうのもあるけれど、母に心配掛けたくない」
「そうか」
 判断を尊重するほかない。
「じゃあ、桧森達に言う作り話では『お母さんが郵便を処分したときにも、打ち明けなかった』という設定にしておかないとね」

 夕食後、ファミレスを出て駅まで戻った。柏原さんを送るためだ。
 通学手段は、僕は私鉄とバスで、柏原さんは駅まで電車、そこからバス。出川は最近までバスだったのが、バイク通学になっていた。ちなみにだが、金欠なのにバイトが決まらないと嘆いている。
「二人ともわざわざありがと」
 改札機の手前まで来て、振り返った彼女が言った。ちょこんとお辞儀する姿がかわいらしい。
「用心に越したことはない。気を付けなよ」
「そうそう。最寄り駅で降りたあとも注意するように」
「はいはい。二人も気を付けてよ。特に出川君。バイクなんだから」
「平気平気。自分は昔と見た目は変わっても、中身はびびりのまんま。当然、バイクも超安全運転なんだ」
「最低速度違反にならないように気を付けろってことだな」
 僕が混ぜっ返すと、出川は後頭部に手をやった。
 彼女の乗ったJRが定刻通りに出たのを見届けてから、僕らは駅を離れた。今度は出川に付き合って、駐車場まで行く。
「あの封筒の文章だけど、やっぱりクラスの男子の誰かだと思う」
 短い道中、出川が切り出した。僕もその話をしたかった。
「だよな。小学校時代なんて、クラスが違っただけでも結構疎遠になる。他のクラスの異性に目を留めるなんて、あんまりない」
「同感。ましてや、その子のために罪を犯そうなんて、別のクラスの連中には無理」
 自分達は特別なんだとでも言いたげな口ぶりで述べてから、出川は乾いた笑い声を漏らした。
「容疑者扱いは嬉しくないけどな……」
「ファミレスでしてた話、どうする? 本気で考えてみるか、片っ端に電話作戦」
「うん。近況を尋ねるふりをして、北海道や香川に旅行していないか聞けるよな。中には、どちらかに住んでる奴だっているかもしれない」
 間違いなく十八人の中に犯人がいると確定したら、同窓会の名目で呼び付けるのもありかな、なんて考えが浮かんだが、言葉にするのはやめておいた。犯人と対面したとき、僕自身の立ち位置が安全なのか、そちらの方が心配だ。「おまえこそ小仲さんの義理の父親を殺したんだ!」なんてことにならないとは言い切れない。差出人がどこまで知っているのか分からないのは、非常に不気味だった。
「いきなり俺達二人が勝手気ままに電話を掛けたら、重複するだろうしおかしくなるから、やるんならちゃんと計画を立ててからにしよう」
「そうだな。桧森の反応も見たいしな」
 そんな具合にして、電話作戦も先送りになった。
「じゃ、また明日」
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