十二階段

崎田毅駿

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意外が続く

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「ほー、意外。体育会系かアウトドア派だと思っていたよ」
 僕は正直な印象を述べた。桧森とは大学に入ってから知り合いになったが、体育の時間(コマ数は少ないとは言え)では何でもそつなくこなしていたし、入学後間もなく行われた学生会主催の球技大会でも、飛び入り参加者の寄せ集めチームなのに大活躍していた。
「俺がその手の部に所属していない時点で察してくれよ。文武両道ってやつ。ちょっと違うか? ははは。とにかく任せてくれないかな。ワンダーフォーゲルから取り戻して、改めて活動申請するには部員五人が必要なんだ」
「うーん。ま、私もミステリドラマとか映画は好んで観る方だし、外のみんながいいって言うのなら、協力する」
 態度表明の早い村田さん。何だかんだか言って、桧森に多少なりとも惹かれているのかもしれない。
「自分も推理小説なら、通学の電車の中でよく読んでいるから。怖がりな方なんだが」
 出川も賛同。
 僕は内心、迷っていた。推理小説の類が特に好きという訳じゃないけれども、面白そうなのをテレビでやっていたら観るし、小学生のある時期までは、ホームズ物やルパン物もよく読んだ。ただ、あの事件以降は、心理的に距離を置こうという意識が働く。
 それは柏原さんも同じじゃないだろうか。いくら義理の父から解放された事件とは言え、家族が殺される体験を経て、推理研に入ろうと思えるだろうか。
 ここで先に僕が「賛成」を表明すると、柏原さんにプレッシャーを掛けて仕舞いかねない。無言の圧力ってやつで、本心では嫌なのに、意に反してじゃあ私もとなる可能性、なきにしもあらずだろう。
 そんな意識が働いて、僕は柏原さんの口から意見が出るのを待った。できれば、出川が変に気を利かせて小学生時代の事件を話題に持ち出さないことを祈る。
「私は……」
 柏原さんはそれだけ言って、ストップしてしまった。勿体ぶっているのではなく、迷っているような。
「あれ? どうかした?」
 聞いたのは村田さん。急かすのではなく、促すような響きが声に感じられる。
 柏原さんは言い直すという合図みたいに、唇を舌で少し湿らせた。
「推理研て、調べるようなことはしないんだよね」
「うん?」
 声に出して反応したのは桧森。
「調べるとは、どういう意味かによる」
「探偵みたいに物事を調べるのは?」
「なるほど、そういうのか。普通はしない。ま、フィクションの世界になら、推理研やミス研の看板を出して活動しながら、事件の謎解きばかりやってるような部はいくらでもあるみたいだが。仮に探偵活動をする研究会だとしても、某かの特権が与えられる訳じゃなし」
「うーん、それじゃ違うのかな」
「トミー、何か思うところがあるのなら、言った方がいいんじゃあない?」
 村田さんが言葉にはっきり出して、促した。ちなみに「トミー」とは、村田さんが柏原さんを呼ぶときの愛称。常にではないので、初めてこの呼び方を耳にしたときは、どこかに欧米人男性がいるのかと思い、きょろきょろさせられた。
 いや、今はそんな些末なことよりも。
 もしかすると柏原さん、義理の父親が死んだ事件について、話すつもりか? 当然であるが、犯人は捕まっていない。
 僕は背中とシャツの間に、多少の汗が浮かんで滲むのを意識した。
「実は今、おかしなメッセージを受け取っているの」
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