十二階段

崎田毅駿

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精神的タイムスリップ

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 柏原さんか……でも、僕の中ではやっぱり、小仲さんだけど。
「あ、念のために聞いておかなくちゃ。二人は名前、変わってないわよね?」
 くりくりとした瞳で問われ、僕も出川もそれが彼女のジョークと気付くのに、五秒ほども要してしまった。情けない。
 三人でひとしきり笑っていると、予鈴が鳴り響いた。僕は出川と共に移動を開始しつつも、彼女に聞いた。
「次のコマ、出なくちゃいけないのがあるんだった。今日、あとで会える?」
「うーん、とりあえず、お昼は学食を探してくれたらいると思う。いなかったら、あそこ」
 先程までいた場所を指差した。
「分かった」
 僕と出川は坂をダッシュする羽目になった。けど、何となく幸福感もあった。

 お昼になって、学生食堂を訪れると結構な混雑ぶりだった。この分では、小仲さんを簡単には見付けられないだろう。
 それどころか、出川さえ姿が見えない。この直前の授業は別々だったので、当たり前なんだが。
 まさかあいつ……。
 探す内に、妙な想像を巡らせた僕。トレイを持って列の最後尾に付いてからも、想像を広げてしまう。
 出川の奴、直前の授業を自主的に早めに切り上げ、小仲さんに確実に和えるよう、教室まで出向いたんじゃないか? いや、彼女が何を取っているのか分からないのだから無理か。でも、食堂の前で待ち構えていたら確実だ。今頃は、一つテーブルを囲んで、一緒に食事をしてるんじゃないか。そういえば、あいつが言っていた初恋って、小仲さんのことでは?
 なんて風に、まるで中学生みたいな子供っぽい嫉妬込みの空想をしていると、後ろから肩甲骨の辺りをぽんと叩かれた。
 出川か他の男友達かと思って振り返ると、小仲さんだった。
「あれ? 今来たの?」
「そうよ。大崎君、チキンサラダパスタ一人前をお願いね。席は何とか確保しておくから」
「え? あ、了解した」
 列の最後尾に付くより、少しでも前にいる友達を見付けて、自分の食べたいメニューを一緒に取ってくれるよう頼む、このやり口は当たり前のように流布している。もちろん僕は、女子に頼まれたのは初めてだ。
 およそ五分後、僕は頼まれたパスタと自分用のチャーハンのホワイトソースがけをトレイに載せて、小仲さんのいる席を探した。
「――大崎君、こっち!」
 声のした方を見て、彼女の姿を確認。周りの人の動きに気を付けながら、その二人掛けの丸テーブルを目指した。
「お水は汲んでおいたから」
「あ、サンキュー」
「出川君は一緒じゃないのね」
「うん。姿が見えない」
「三人以上で使えるテーブルを探したんだけど、空いているところが見付からなくて、どうしようかと思ってたんだけど、取り越し苦労だったか」
 苦笑交じりに息をつく小仲さん。財布から代金を取り出し、僕のトレイの中に置いた。
「思い出話は一杯あるけれども、とりあえず食べよっ。いただきます」
 そう言って手を合わせた彼女だったけど、すぐに怪訝そうに眉を顰めた。何事かと思いつつ黙って見ていると、皿を持ち上げまでする。
「お箸がない」
「えっ。フォークがあれば事足りると思って、取らなかった。ごめん、取ってくる」
 いいよいいよ自分で云々という小仲さんの声が耳に聞こえたけれども、僕はさっと席を立って、箸を取って戻った。
「ありがとう。優しいんだね、昔と変わらず」
「いや、これくらい大したことないし、当たり前だろ」
 口ではそう答えながら、内心では優しいと言われて少し浮かれる。何だろう、小学生時代に気持ちが戻ってしまった感じがする。事件のことすら忘れてしまえそうなくらいに、当時の空気に浸る。
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