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崎田毅駿

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2.犯行模様

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『早く出した方を生かしてさしあげます』
 機械的に変換された声が、スピーカーを通じてさして広くない部屋に響き渡る。
『お互いに好き同士なのでしょう? 相手の身体を見ながらやれば、すぐなんじゃないですか』
「そんなこと……できる訳がない」
 くぐもった機械声に、男が反応した。スピーカーからの声とは対照的に、ボリュームは小さく、疲れ切った間がよく出ていた。
 男の年齢は二十歳。手足は自由だが、身ぐるみ剥がれ、椅子に座らされた姿勢のまま、首輪で拘束されている。首輪は革製で、しかも中にはチェーンが通してある。常人が素手では絶対に破壊できない。
 男の右脇腹やや背中寄りのところには、二つの小さな点、刺し傷があった。そうと知らずに見れば、なかなか気付けないくらいのサイズだ。男は水泳をやっていただけあって彫刻の像のように均整の取れた身体をしていたが、簡単に捕らえられてしまった。テーザー銃の不意打ちを食らって、電気を流されてはかなわない。
『ほう、無理。それは体力的な意味で? 電気ショックから回復すればできると』
「違うっ。……自分が助かるために、そんなことできるかって、そう言ってん、だ……」
 乱れがちな呼吸でどうにか言い切ると、男――西山功志にしやまこうし
『ふむ。――お友達、いや、恋人はああ言っていますが、横川よこかわ君の方はいかがですか』
 機械声は、西山の正面に座らされた同年代の男に問うた。彼、横川雅人まさひとも同じように首輪をされて、立派な肉体をさらけ出している。こちらの方は水泳ではなく趣味の筋トレで作り上げたもの。パワーはあるが、やはり電気ショックの餌食となり、この始末である。
 二人の間には透明な仕切りが設置してあった。何層にも重ねたアクリルで、水族館の巨大水槽で用いられるような代物だ。人間が素手で壊せる物ではない。
「僕は、どちらでも、いい。早く、今の状態から解放、されたい」
 身体に似合わず、か細い声で絞り出すようにして言う。横川、西山両名とも丸二日何も食べていないのだが、衰えは急速かつ顕著に出ているのは明らかに横川。徹底した管理の下、栄養を摂取していた身にとって、スケジュール通りにならないことは思いの外ダメージが大きいらしい。
『どうやら、しごく元気すらほとんどなさそうです。恋人があんな体調だし、ここは西山君ががんばって出す、この一択ではありませんか』
「だから、できねえって言ってるだろ、さっきからずっと」
『聞いていますよ。でもやらないと、二人とも命はありません。そのことをお忘れなく』
「……」
『念のため言っておくと、二人ともしなかったから同時に葬ってあげようなんて、甘いことはしませんので。しなかったらしなかったで、殺す順番をこちらで決めて、粛々と実行するのみです。その前に、ちょっと特殊な道具を使って精液を採取するので、手間が掛かるくらいのこと』
「何が目的だ」
 残っている気力を集めて、声を張った。そんな風に強く感じられる西山の問い。
「俺達から精子を採って、バンクに売って一儲けか? 俺達程度の身体の持ち主なんてゴロゴロいて、高値にはならないと思うがね」
『その通り。もしそんな目的なら、命を奪わずに、このまま飼い続けてずっと搾取し続ける』
「だったら、何なんだよっ。あれか? 同性愛嫌悪で、俺達を辱めようってはらか」
『人間のやることすべてに、筋道の通った説明が付けられるなんて思わない方がいい。だがまあ、今の質問について返答するなら、ノー。自由な恋愛、大いに結構。さて、話をしても不毛なようだね。強制的にでも出してもらう。拷問は好むところじゃないが、致し方あるまい』
「ど。どうするつもりだ」
『肉体になるべく傷が付かない方法が望ましい。となると、やはりあれでしょう、電気』
 機械声の発したその単語には、西山だけでなく、ぐったりしていた横川までもが大きく身震いをした。拘束される直前の、あの衝撃が記憶に蘇ったに違いない。

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