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罪な罰 その2
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携帯端末のカメラ機能で写真に撮れば早い、と分かっていても高杉がそうしないのは、かつて校内での使用禁止の規則に反したことをやったのがばれて、しばらく端末を取り上げられた過去があるからに違いない。
「諏訪馬流転がツイートしたって、朝の番組でやっていた。着替えながらメモったから、正確じゃないが、だいたい合っているはず。えー、『少し前に世間をお騒がせしましたが、あのことの罰が当たったのかな。反省して、しっかり治したあとは、本業に力を入れていきます』だってさ」
どうだ?と見得を切る風な高杉。対する真鍋さんを筆頭とする女子達は、微妙な顔つきになった。「世間をお騒がせした」件への反応だろう。僕もあんまり詳しくないながら、大まかなことは知っている。
それは、諏訪馬流転が同じ年頃の女優の家――マンションの一室に“お泊まり”したというもの。かつてドラマで共演した経験が何度かあり、その頃から仲よさげであると噂が立っていた。そんな二人がいい歳した大人になり、一晩泊まっていくなんてことをすれば、当然泊まるだけじゃ済まないだろうという流れになったんだけども、諏訪馬も女優も男女の関係である可能性を徹頭徹尾、強く否定した。演技の勉強をするためであり、苦手なところをお互い補い合っていたと言い通したのだから、ある意味あっぱれだと感じた。
諏訪馬流転及びくだんの女優の人気ぶりや事務所の力もあってか、“お泊まり”騒動はいつの間にか鎮静化していた。まるでなかったかのように収まっていたのが、自らツイートしてぶり返すなんて。
「こんな、罰が当たったみたいな言い方をするからには、“お泊まり”の一件も嘘をついていた、後ろめたさっていうか罪悪感があったんじゃないか。ま、自業自得っていうか、因果応報っていうか」
「何よ高杉。石動紅緒のファンだったんだ?」
そうそう、女優は石動紅緒だった。
それはさておき、高杉があまりに諏訪馬をくさすものだから、女子達に石動紅緒ファンと思われたようだ。まあ、それも無理ない。
「ちげーよ」
高杉が短く否定したそのとき、僕の視界を影が横切った。それは真っ直ぐ、高杉に向かって行ったかと思うと、いきなり頬に平手打ちをした。あまりに突然な出来事に、何が何だか分からない。呆然とするあまり、高杉の頬の叩かれた、乾いた音があとになって聞こえて来たような気さえした。
何せ、平手打ちをしたのはクラスで一番大人しい、女子の狭山樹さんだったのだから。
「な? おい、どういうこと?」
叩かれた高杉は、痛みよりも困惑が遙かに上回っているようで、ほっぺたをさすることすらしていない。ただただ、狭山さんを見送るばかり。
そう、叩いた当人は、すーっと陽炎のような存在感の希薄さで、教室の外に出て行こうとしている。逃げると言うよりか、こんなところにはいられない!って雰囲気が漂う。誰も止められない。高杉の声も届いていないみたいだ。
廊下を足早に抜けると、彼女の姿は見えなくなった。見えなくなったところで、ようやくみんな、疑問を口々にし始める。
「え? 何だったの?」
「高杉君、何か悪いこと言ったっけ」
「そりゃあ、諏訪馬流転の悪口を……」
「でもさ、狭山さんてそこまで諏訪馬流転のこと、好きだ、ファンだって言ってた?」
「うーん、記憶にない」
教室にいる誰もが、狭山さんが高杉の頬を叩いた理由が分からないでいた。
いや、今はそれよりも、出て行った彼女を追い掛けるべきなのでは? だいたい、学校はこれから始まるってのに、狭山さんはどこへ行こうというんだろう?
「諏訪馬流転がツイートしたって、朝の番組でやっていた。着替えながらメモったから、正確じゃないが、だいたい合っているはず。えー、『少し前に世間をお騒がせしましたが、あのことの罰が当たったのかな。反省して、しっかり治したあとは、本業に力を入れていきます』だってさ」
どうだ?と見得を切る風な高杉。対する真鍋さんを筆頭とする女子達は、微妙な顔つきになった。「世間をお騒がせした」件への反応だろう。僕もあんまり詳しくないながら、大まかなことは知っている。
それは、諏訪馬流転が同じ年頃の女優の家――マンションの一室に“お泊まり”したというもの。かつてドラマで共演した経験が何度かあり、その頃から仲よさげであると噂が立っていた。そんな二人がいい歳した大人になり、一晩泊まっていくなんてことをすれば、当然泊まるだけじゃ済まないだろうという流れになったんだけども、諏訪馬も女優も男女の関係である可能性を徹頭徹尾、強く否定した。演技の勉強をするためであり、苦手なところをお互い補い合っていたと言い通したのだから、ある意味あっぱれだと感じた。
諏訪馬流転及びくだんの女優の人気ぶりや事務所の力もあってか、“お泊まり”騒動はいつの間にか鎮静化していた。まるでなかったかのように収まっていたのが、自らツイートしてぶり返すなんて。
「こんな、罰が当たったみたいな言い方をするからには、“お泊まり”の一件も嘘をついていた、後ろめたさっていうか罪悪感があったんじゃないか。ま、自業自得っていうか、因果応報っていうか」
「何よ高杉。石動紅緒のファンだったんだ?」
そうそう、女優は石動紅緒だった。
それはさておき、高杉があまりに諏訪馬をくさすものだから、女子達に石動紅緒ファンと思われたようだ。まあ、それも無理ない。
「ちげーよ」
高杉が短く否定したそのとき、僕の視界を影が横切った。それは真っ直ぐ、高杉に向かって行ったかと思うと、いきなり頬に平手打ちをした。あまりに突然な出来事に、何が何だか分からない。呆然とするあまり、高杉の頬の叩かれた、乾いた音があとになって聞こえて来たような気さえした。
何せ、平手打ちをしたのはクラスで一番大人しい、女子の狭山樹さんだったのだから。
「な? おい、どういうこと?」
叩かれた高杉は、痛みよりも困惑が遙かに上回っているようで、ほっぺたをさすることすらしていない。ただただ、狭山さんを見送るばかり。
そう、叩いた当人は、すーっと陽炎のような存在感の希薄さで、教室の外に出て行こうとしている。逃げると言うよりか、こんなところにはいられない!って雰囲気が漂う。誰も止められない。高杉の声も届いていないみたいだ。
廊下を足早に抜けると、彼女の姿は見えなくなった。見えなくなったところで、ようやくみんな、疑問を口々にし始める。
「え? 何だったの?」
「高杉君、何か悪いこと言ったっけ」
「そりゃあ、諏訪馬流転の悪口を……」
「でもさ、狭山さんてそこまで諏訪馬流転のこと、好きだ、ファンだって言ってた?」
「うーん、記憶にない」
教室にいる誰もが、狭山さんが高杉の頬を叩いた理由が分からないでいた。
いや、今はそれよりも、出て行った彼女を追い掛けるべきなのでは? だいたい、学校はこれから始まるってのに、狭山さんはどこへ行こうというんだろう?
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