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罪な罰 その1
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月曜日、学校に着くと、朝から一つの話題で持ちきりだった。
甘いマスクで人気絶頂の男性アイドルにして歌手、タレント、俳優でもある諏訪馬流転が、癌に罹っていたことがスクープとして土曜に報じられ、本人の所属する芸能事務所も日曜に記者会見を開いて事実だと認めたのだ。
「あーん、ショック~」
真鍋さんが彼女の席で、手を拝み合わせて嘆いている。勉強をやるにしても規則を守るにしても真面目で固い印象のあるのに、芸能のこととなると人が違ったみたいになる。
「発見が早かったから、完治の見込みは充分あるとか言ってたよ。もう知ってるだろうけど」
真鍋さんと仲のいい一人、多田さんが言った。真鍋さんに比べればこの話題から一歩引いていて、友達が暴走しないかを見守っている様子。
「うん、それはいいんだけどさあ。治療に専念てことは、秋に予定されていたドラマ、お流れだよね」
「ああ、『発想転換探偵』の新シリーズ」
コペルニクスとあだ名される数学者にしてパズル作家の主人公が探偵役を務める、人気のミステリドラマだ。もう第三シリーズまで制作され、秋からは第四弾が決定とされていたっけ。言うまでもないけど、コペルニクス探偵役を演じるのが諏訪馬流転である。彼抜きにして『発想転換探偵』は作れないだろう。
「それは我慢するしかないでしょ」
「分かってるんだけどね~、でも」
他の女子も加わり、やんややんやと話題に興じるおしゃべりの輪が広がっていく。と、そこへ高杉が「うっせーな」と一声を入れた。確かに彼の席は女子のおしゃべりの輪に近く、特にうるさく感じるかもしれない。けれど、それにしたって今の言い種はちょっと。
ほら、一瞬、しんとなっちゃったじゃないか。そして間髪入れず、女子達の総口撃が始まった。黄色い声が重なり合って、何を言っているのか聞き取れない。
密かに心配する僕・人見海斗の心の声が届くはずもなく、高杉は声を大にして、さらに続けた。
「朝っぱらから、ほとんど関係のないイケメンの話を延々として、大丈夫か。どうかしてんじゃあねえの」
「あんたねえ……」
真鍋さんが呆れ口調で応戦する。怒りのレベルが多少抑え気味なのは、高杉のことをよく知っているからかもしれない。
「人気者を話題にするのは当然でしょうが。男のジェラシーほどみっともないものはないわよ」
「こういうときだけ男女の違いを出してくるなよ」
いつもに比べれば、結構効果的な切り返しをした高杉。たまたまかな?
「男女差別とか関係ない。人気者や有名人を話題にするのは、その人達が気になる存在だからよ」
「同調圧力ってやつじゃね?」
おっと、続けざまにきれいに打ち返した。今日は絶好調じゃないか、高杉。真鍋さん、珍しく詰まったぞ。
「だいたいさ、本人が言ってたぜ」
高杉は得意顔になって、言葉を重ねた。明らかに調子に乗っている。
「本人て、諏訪馬流転が? 何を」
「俺ん家は学校に近いから、ぎりぎりまでネットで情報収集できるの、知ってるよな」
学校では携帯端末を持ち込むのはかまわないが、使用は原則的に禁じられている。なので、遠くから来る真鍋さん立ち寄りも、高杉のような家の近い生徒の方がより新しい情報を持っていることは往々にしてある。
「新しく記者会見でもあったの?」
「本人が語ったとか?」
色めき立つ?女子達。高杉は勿体ぶって、「ちょっと違うな」と前置きし、制服の胸ポケットから紙切れを取り出した。わざわざ手書きでメモをしてきたみたい。
甘いマスクで人気絶頂の男性アイドルにして歌手、タレント、俳優でもある諏訪馬流転が、癌に罹っていたことがスクープとして土曜に報じられ、本人の所属する芸能事務所も日曜に記者会見を開いて事実だと認めたのだ。
「あーん、ショック~」
真鍋さんが彼女の席で、手を拝み合わせて嘆いている。勉強をやるにしても規則を守るにしても真面目で固い印象のあるのに、芸能のこととなると人が違ったみたいになる。
「発見が早かったから、完治の見込みは充分あるとか言ってたよ。もう知ってるだろうけど」
真鍋さんと仲のいい一人、多田さんが言った。真鍋さんに比べればこの話題から一歩引いていて、友達が暴走しないかを見守っている様子。
「うん、それはいいんだけどさあ。治療に専念てことは、秋に予定されていたドラマ、お流れだよね」
「ああ、『発想転換探偵』の新シリーズ」
コペルニクスとあだ名される数学者にしてパズル作家の主人公が探偵役を務める、人気のミステリドラマだ。もう第三シリーズまで制作され、秋からは第四弾が決定とされていたっけ。言うまでもないけど、コペルニクス探偵役を演じるのが諏訪馬流転である。彼抜きにして『発想転換探偵』は作れないだろう。
「それは我慢するしかないでしょ」
「分かってるんだけどね~、でも」
他の女子も加わり、やんややんやと話題に興じるおしゃべりの輪が広がっていく。と、そこへ高杉が「うっせーな」と一声を入れた。確かに彼の席は女子のおしゃべりの輪に近く、特にうるさく感じるかもしれない。けれど、それにしたって今の言い種はちょっと。
ほら、一瞬、しんとなっちゃったじゃないか。そして間髪入れず、女子達の総口撃が始まった。黄色い声が重なり合って、何を言っているのか聞き取れない。
密かに心配する僕・人見海斗の心の声が届くはずもなく、高杉は声を大にして、さらに続けた。
「朝っぱらから、ほとんど関係のないイケメンの話を延々として、大丈夫か。どうかしてんじゃあねえの」
「あんたねえ……」
真鍋さんが呆れ口調で応戦する。怒りのレベルが多少抑え気味なのは、高杉のことをよく知っているからかもしれない。
「人気者を話題にするのは当然でしょうが。男のジェラシーほどみっともないものはないわよ」
「こういうときだけ男女の違いを出してくるなよ」
いつもに比べれば、結構効果的な切り返しをした高杉。たまたまかな?
「男女差別とか関係ない。人気者や有名人を話題にするのは、その人達が気になる存在だからよ」
「同調圧力ってやつじゃね?」
おっと、続けざまにきれいに打ち返した。今日は絶好調じゃないか、高杉。真鍋さん、珍しく詰まったぞ。
「だいたいさ、本人が言ってたぜ」
高杉は得意顔になって、言葉を重ねた。明らかに調子に乗っている。
「本人て、諏訪馬流転が? 何を」
「俺ん家は学校に近いから、ぎりぎりまでネットで情報収集できるの、知ってるよな」
学校では携帯端末を持ち込むのはかまわないが、使用は原則的に禁じられている。なので、遠くから来る真鍋さん立ち寄りも、高杉のような家の近い生徒の方がより新しい情報を持っていることは往々にしてある。
「新しく記者会見でもあったの?」
「本人が語ったとか?」
色めき立つ?女子達。高杉は勿体ぶって、「ちょっと違うな」と前置きし、制服の胸ポケットから紙切れを取り出した。わざわざ手書きでメモをしてきたみたい。
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