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まずいはきまずいはずなのに その2
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「さあ?」
「あ、それなんだけど」
真鍋さん、多田さんの順に反応あり。多田さんの話の続きに耳を傾ける。
「高杉が平田君をテレビで見たのって、蛙の子は蛙みたいな紹介のされ方だったみたいよ」
「やっぱり、料理上手なんだ」
私は目を輝かせていた、と思う。真鍋さんが眉根を寄せて訝しげに聞いてきた。
「どうしたの? 何だか、ふっふっふって笑い声が聞こえて来そう」
あんまりなたとえだけれども、当たっているかもしれないと認めざるを得ない。そうこうする内に、二人が気付いてくれた。
「あ、そうか。理恵ちゃんてば前から調理部、作れたらなーって言ってたわね」
「そう。自分の腕前のこともあって、やっていける自信が持てなかったけれども、平田君が力を貸してくれたらできるかも」
新しく部を作ろうというやる気は湧いてきた。けれども、まだあまり親しくはない男子に、こちらから声を掛ける勇気を出せるかどうかが問題だった。
月曜、多田さんと真鍋さんを連れ立って、声を掛けた。実を言えば、その頃には平田君はあのクック・タイラーの子供だって話が広まり、女子も十人以上が話し掛けるようになっていた。だから、私も緊張の必要はないはずなんだけど、何故か一人では無理!と思ったの。調理部には真鍋さん達も入ってくれる約束だし、だったら付き添いもと頼んだの。ただ、この構図って客観的には、友達に背中を押されて告白しに来たみたいな? 誤解されない内に、早口で用件を伝える。
「あの、調理部を新しく作るつもりでいるんだけど! 平田君が入ってくれたら凄く心強いのっ」
「調理部って料理教室みたいな?」
帰りがけのところを呼び止め、いきなり頼んだ私を咎める気配は微塵もなく、平田君は確認してきた。私がそうだよとこれまた早口で答えると、あっさり、「いいよ」との返事がもらえた。
「え、いいの?」
「断る理由がないから。僕もやってみたかったんだけど、家庭科部だと手広すぎると思って、結局部活を決められないでいたからさ」
ラッキーだったわ。
そこからはとんとん拍子。あっという間に調理部の設立が認められた。クック・タイラーの名前が利いた。家庭科部に配慮して当面はサークル扱いとし、軌道に乗るまでは設立当初の四人だけの活動となったけれど、充分よ。
「今日は玉子がたくさんあるので、だし巻き玉子とオムレツに挑戦してみます」
活動は家庭科室を借り切って、一回二時間足らず。作り方はお父さん直伝のレシピを平田君が見せてくれた。
そのレシピ通りにやればほぼ確実に美味しくできあがるのだけれども、たまに失敗もある。主に火加減のせい。家庭科室のコンロは火力が安定しない場合がある。でもそういう失敗は、平田君も笑ってスルーしてくれた。一方、人によるミスには厳しい。たとえば泡立て不足でなめらかさが落ちたことがあって、そのときは三人ともしっかり注意されてしまった。
以来、その手のミスはゼロで来てたんだけど、ある夏の暑い日、調味料を入れ忘れる大失敗をやらかした。窓を開けていたせいで、吹き込んだ風がレシピのメモを飛ばし、その結果、段取りも飛んじゃったというわけ。
私達は最後の味見で気が付き、とても平田君に出せる代物ではないと分かっていた。でも三人とも言い出せず。平田君がその料理を口に運んだときは久々に怒られるっ!と覚悟した。
なのに、平田君は「今日、メインの担当は誰だっけ?」と気さくに聞いてきた。私がおずおずと小さく挙手すると、彼は頷き、「上手になった。盛り付けを含めた見栄えもいい。この照りは簡単には出せないよ」と褒めてくれた。あれれ?
平田君が先に帰ったあと、念のためもう一度味を確かめたら、やっぱり不味い。私が「何で怒らなかったんだろう……」と疑問を口にすると、多田さんが即反応。
「それは決まってるでしょ。平田君、いい意味で理恵ちゃんを贔屓してるんだよ」
「言い意味で贔屓? 何それ」
「つまり、好きなんじゃあないかな」
「ばっ」
ばか言わないで、そんなまさか。と続けるつもりだったのに、声にならなかった。ひとまず否定したものの、何だかほわわんとしてしまった。
「あ、それなんだけど」
真鍋さん、多田さんの順に反応あり。多田さんの話の続きに耳を傾ける。
「高杉が平田君をテレビで見たのって、蛙の子は蛙みたいな紹介のされ方だったみたいよ」
「やっぱり、料理上手なんだ」
私は目を輝かせていた、と思う。真鍋さんが眉根を寄せて訝しげに聞いてきた。
「どうしたの? 何だか、ふっふっふって笑い声が聞こえて来そう」
あんまりなたとえだけれども、当たっているかもしれないと認めざるを得ない。そうこうする内に、二人が気付いてくれた。
「あ、そうか。理恵ちゃんてば前から調理部、作れたらなーって言ってたわね」
「そう。自分の腕前のこともあって、やっていける自信が持てなかったけれども、平田君が力を貸してくれたらできるかも」
新しく部を作ろうというやる気は湧いてきた。けれども、まだあまり親しくはない男子に、こちらから声を掛ける勇気を出せるかどうかが問題だった。
月曜、多田さんと真鍋さんを連れ立って、声を掛けた。実を言えば、その頃には平田君はあのクック・タイラーの子供だって話が広まり、女子も十人以上が話し掛けるようになっていた。だから、私も緊張の必要はないはずなんだけど、何故か一人では無理!と思ったの。調理部には真鍋さん達も入ってくれる約束だし、だったら付き添いもと頼んだの。ただ、この構図って客観的には、友達に背中を押されて告白しに来たみたいな? 誤解されない内に、早口で用件を伝える。
「あの、調理部を新しく作るつもりでいるんだけど! 平田君が入ってくれたら凄く心強いのっ」
「調理部って料理教室みたいな?」
帰りがけのところを呼び止め、いきなり頼んだ私を咎める気配は微塵もなく、平田君は確認してきた。私がそうだよとこれまた早口で答えると、あっさり、「いいよ」との返事がもらえた。
「え、いいの?」
「断る理由がないから。僕もやってみたかったんだけど、家庭科部だと手広すぎると思って、結局部活を決められないでいたからさ」
ラッキーだったわ。
そこからはとんとん拍子。あっという間に調理部の設立が認められた。クック・タイラーの名前が利いた。家庭科部に配慮して当面はサークル扱いとし、軌道に乗るまでは設立当初の四人だけの活動となったけれど、充分よ。
「今日は玉子がたくさんあるので、だし巻き玉子とオムレツに挑戦してみます」
活動は家庭科室を借り切って、一回二時間足らず。作り方はお父さん直伝のレシピを平田君が見せてくれた。
そのレシピ通りにやればほぼ確実に美味しくできあがるのだけれども、たまに失敗もある。主に火加減のせい。家庭科室のコンロは火力が安定しない場合がある。でもそういう失敗は、平田君も笑ってスルーしてくれた。一方、人によるミスには厳しい。たとえば泡立て不足でなめらかさが落ちたことがあって、そのときは三人ともしっかり注意されてしまった。
以来、その手のミスはゼロで来てたんだけど、ある夏の暑い日、調味料を入れ忘れる大失敗をやらかした。窓を開けていたせいで、吹き込んだ風がレシピのメモを飛ばし、その結果、段取りも飛んじゃったというわけ。
私達は最後の味見で気が付き、とても平田君に出せる代物ではないと分かっていた。でも三人とも言い出せず。平田君がその料理を口に運んだときは久々に怒られるっ!と覚悟した。
なのに、平田君は「今日、メインの担当は誰だっけ?」と気さくに聞いてきた。私がおずおずと小さく挙手すると、彼は頷き、「上手になった。盛り付けを含めた見栄えもいい。この照りは簡単には出せないよ」と褒めてくれた。あれれ?
平田君が先に帰ったあと、念のためもう一度味を確かめたら、やっぱり不味い。私が「何で怒らなかったんだろう……」と疑問を口にすると、多田さんが即反応。
「それは決まってるでしょ。平田君、いい意味で理恵ちゃんを贔屓してるんだよ」
「言い意味で贔屓? 何それ」
「つまり、好きなんじゃあないかな」
「ばっ」
ばか言わないで、そんなまさか。と続けるつもりだったのに、声にならなかった。ひとまず否定したものの、何だかほわわんとしてしまった。
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