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12.犯人は分かったけれども
しおりを挟む外山優香。この犯人の名前を知ったのは、ちょうど十人目のクラスメイトに会ったときだった。
十人目。そう。犯人は神取氏が死んだとみられる時刻に神取家にいた八人の中にもおらず、午後二時に帰ったあの三人の中にいたのである。
犯人が分かったものの、五里霧中の状況に変化はほとんどない。むしろ、思いも寄らぬ方向から光を照らされ、戸惑ってしまう。そんな感じだ。
私達は公園に足を運び、そこのベンチに腰を下ろした。季節こそ違えど、初めて北川君と出会った公園によく似たたたずまいの空間を前に、抱え込んでいる現実を片付けにかかる。
「あの子が犯人なのは、間違いないんだね?」
私の念押しに、北川君は黙ってうなずいた。
「しかし、あの子――外山優香にはアリバイがある。二時に帰った者が、どうやったら午後二時半から三時までの間に、神取氏を殺せるんだ……」
「帰ったと見せて、すぐに引き返していたとか。こっそり隠れていて、隙を見て現場に侵入したと考えれば、何とかなるんじゃないんですか?」
「それはないな、北川君。外山優香のアリバイは完全なんだ。午後二時に神取家を辞したあと、他のクラスメイト二人と一緒に、午後四時半頃まで駅前の通りをウィンドウショッピングしていたとなっている。ちゃんと裏付けもある」
「そうですか」
やけにあっさりと、北川君は言った。気になったので、目で追及してみる。すると、彼は続けてこう答えた。
「実は、さっき、あの子が犯人だと分かってから、続けて質問してみたんです。『アリバイ工作をしたか?』と聞いたら、答はノーでした」
「アリバイ工作をしていない、だって?」
「はい。その他にも、『Dの血文字を書き遺したのは君か?』、『神取道隆を殺す動機があったのか?』、『神取道隆をブロンズ像で殴ったのか?』、『凶器に着いた血を拭き取ったか?』という質問をしてみました。答は順に、ノー、イエス、イエス、イエス、でした」
「何らかの理由があって、神取氏をブロンズ像で殴り、その血を拭ったのは認めているわけか……。いつ殴ったのか、なんて質問は聞けるかい?」
「そういう形では無理ですが、時間をこまめに区切って聞けば、できなくもありません。『君が神取道隆を殴ったのは午後一時三十分か?』、『君が神取道隆を殴ったのは午後一時三十一分か?』という具合になりますけど」
「手間はかかるが、やってみる価値はありそうだ。犯行時刻と死亡時刻のずれの謎を解き明かすためにも」
私がそう言うと、北川君は首を振った。
「ただし、いつ殴ったのか、その時刻をあの子自身、自覚していないと、答は聞き出せません。恐らく、正確な犯行時刻なんて、分かっていないと思いますが」
「そうなのか……。動機の方なら、どうにかなるかな。思い付く限りの動機を質問していけば」
「実際問題、難しいでしょう」
北川君に言われるまでもない。動機をでたらめに列挙していき、言い当てるなんて、飛び回る昆虫を箸で捕まえるよりも難しそうだ。そもそも、それで言い当てられるような動機なら、今までに判明しているはずだ。
私は無理にでも気を取り直して、北川君へ顔を向けた。
「今日まで協力してくれてありがとう。とりあえず、犯人は分かったんだ。ここからは私が一人でやるよ」
「僕の力ではここまでが精一杯ですけど……今後、何かできることがあったら、言ってください。京極さんの力になれるんだったら」
「ああ、ありがとう。気持ちだけでも充分だよ。じゃ、『彼女』によろしく。今度の事件が片付けば、一度、見舞いに行かせてもらおうと思っているんだが」
「……いつでも」
北川君の口調は、どことなく寂しげだった。
私は気になりながらも、そのまま別れた。
「何度も何度もこんなことで足を運ぶのは、こちらも心苦しいんだけど」
目の前の少女、神取知子は硬い表情をわずかに崩した。
今回は、父親を亡くした彼女から話を聞く場として、神取家の外を選んだ。その方が聞き易いと考えたからだ。喫茶店で、女子中学生と二人きりで話をしている大人の男はどういう目で見られるのだろう。そんな不安が頭をよぎる。が、つまらないことだと、すぐ放てきした。今はとにかく、真相究明である。
「おじさん、レオンさんの友達なんでしょ?」
比較的高い声で、神取知子が聞いてくる。レオンとは誰かと思い、すぐにデウィーバーのことだと分かった。
「ああ、そうだよ」
「だったら、信用する。おじさんがレオンさんやお父さんのために、こうやって仕事しているんだって」
私は彼女がデウィーバーに懐いていたという話を想起した。
「それはよかった。早速なんだけど、知子ちゃん。君、お父さんと何か、もめていなかったかな?」
「もめるって?」
「意見の衝突とか……」
「あ、それならあった。中三でしょ、私。進路のことで」
ある程度、予想していた答が返ってきた。
「お父さんはオーストラリアがお気に入りで、要するに向こうのやり方の教育法を望んでいたの。具体的には何も言わなかったけど。私が高校に行くのを反対してたから」
「どういうこと?」
どうも意味が通じない。
「だから、うちの学校、中学高校大学とエスカレーター方式なの。女子校ってせいもあるけど、特に中学から高校へはよほどひどい成績じゃない限り、そのまま行ける」
なるほど。ようやく飲み込めた。
「知子ちゃんはみんなと同じように高校に上がりたいのに、お父さんは反対していたんだね」
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