人を選ぶ病

崎田毅駿

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十三.情報を得るために

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「では……能力に大きな差はありますか。チートな――何て言えばいいのか難しいけれども、たとえば相手の能力を無効化する能力とか、ひと睨みで相手の動きを停止させるといったような」
「その心配は無用だ。神基準で、なるべく公平にデザインされている。あくまでも使う者次第だ」
「なるほど。それじゃ、能力交換についてですが、交換を希望した者はそのこと自体、他の者に知られるのかどうか」
「交換を希望した者の間では、知られることになる。だから老婆心で付け加えておくと、仮に交換希望者が二名だった場合、相手と自分それぞれの能力が入れ替わるだけなので、お互いに使える能力が筒抜けってことになる」
「ですね……まだ質問タイムは残ってます?」
「あと一問か二問がいいところかな」
「だったら、二次予選は何名通過で、この先予選はいくつあって、残れなかったらそうなるのか、また逆に決勝に残ったなら最終的にはどうなったら終わるのか。終わったあと、元の世界に戻れるのか」
「おいおい、複数の質問をくっつけて一つに見せ掛けても、時間は変わらぬよ」
 苦笑いを見せた黒天使は、すぐに真顔に戻ると「まあ今のでラストの質問と見なし、答えてやろう」と応じた。
「二次予選には八名が残る。予選がいくつあるかは不定だ。神様の気まぐれではなく、競技によっては全員通過、あるいは大多数が敗退というのもあり得るから。敗退者はそのときまでに負ったダメージにもよるが、たいていは命を落とす。この一連の事柄に関する記憶や記録をすべて消させてもらうのだが、それに耐える体力と精神力が残っていれば、命は助かる」
「……」
「最後まで勝ち残ったときは……ま、これはそのときのお楽しみでいいのではないかな。ではぼちぼち――」
「ちょ、ちょっと待った」
 時間切れを告げられそうだと察知した石上は、慌てて遮った。
「どうかした? 質問タイムはもう締め切りだよ」
「いや、納得いかないことがあってさ。今の言い方、気になるなあ」
「何がだ」
「さっきの、えーっと、『そのときのお楽しみでいいのではないかな』って言い方。これは答を知っているけれども、テミッシュさんの判断で教えないでおこう、というニュアンスに受け取れる。他の人に付いた黒い天使も同じ判断をするのかどうか、甚だ疑問に感じたんだ。もし個々の黒天使によって答に違いがあるなら、それは不公平というものじゃあ……? テミッシュさんが好む公平さからは外れている」
「――言うね。面白い」
 黒い天使テミッシュは、明らかに面白がっていた。目を光らせ、よい獲物を見付けたかのように石上を見据える。
「確かに貴殿の言う通りだ。実際にその質問がされたかどうかにかかわらず、質問に対する返答に大きな差違があってはいけない。そこから生じる貴殿の懸念も尤もだ。懸念を払拭するために、説明するとしよう。
 貴殿は思わせぶりな返答を聞いて、私が答を知っているものと決めてかかったが、実はそこが違う。正確なところを私も知らぬ。一応の基準となる線は把握しているが、それは神の気分次第でいくらでも変わり得る。過去の例で語ってよいのなら、最終的な勝者の勝ち方が大きく影響する。これ以上は詳しく言えぬが、少なくとも最終勝者のこの先の人生が、今よりも悪いものにはならない、確実によくなるとだけ答えておこう。これでよいかな?」
「納得しました」
 もちろん不明点が残っており、不満がない訳ではないが、ここは引き下がっておくのが賢明だろう。いたずらに時間稼ぎに執着して、担当?黒天使の不興を買ってはつまらない。
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