人を選ぶ病

崎田毅駿

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一.絶頂から絶望へ

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 三月。石上太陽いしがみたいようは超難関とされる大学の法学部に現役合格した。周りからは祝福され、パーティまで開いてもらった。
 その翌々日。悪寒が収まらないことに始まる体調不良を訴え、救急車で運ばれた。検査の結果、人類がその存在を把握してからまだ間もない未知の病に冒されていることが判明する。当然、緊急入院の措置が執られた。同種の病気に罹っている者の経過観察から推測されるのは、発熱や鼻血など比較的軽微な症状が繰り返され、徐々に喉や肺に痛みが出るようになり、四ヶ月ほど経過すると一気に体調は悪化。肺炎を筆頭とする呼吸不全に至る病を主な原因として、死を迎える。
 不可思議なのは、細菌やウイルスの類が一切検出されないことにある。病気を引き起こす元が分からないことには、対策の取りようがない。
 仮に細菌やウイルスに起因する病気だとしても、感染経路がまったく分からない、病気の方が恣意的に罹患する相手を選んでいるみたいにすら見えた。とある患者に家族三人がほぼ同じように接しておきながら。新たに発症したのは一人だけなんてケースはざらにあるのだが、罹る者と罹らない者との差が全く掴めない。どうすれば感染するのかを探る実験が毎日行われているようなものだった。

 一方で、石上太陽はウイルスや細菌などが一切検出できないことを知り、ほくそ笑んだ。
 タイムリミットを区切られたこの命を使って、善行をしようと彼は思っていた。それも法に触れる行為によって。
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