その子の背には翼の痕がある

崎田毅駿

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3.ケイト・ストーンの彼氏、待つと決める

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「そうとは限らないんじゃない? 売れない内は、どうでもよかったりして。中高生でデビューするアイドルならまだしも、私は大学生でアイドル枠かどうかも怪しい」
「いや、ケイトなら年齢関係なくアイドルだって。それに、売れていようがいまいが、最初が肝心とかじゃないのか。恋人の存在なんてお邪魔虫扱いするのが当然だと思うぜ」
「だったら……最初っからいないことにする?」
「はい?」
「最初からいない、つまり私には付き合っている人はいませんと言っておけば、別れさせるも何もないでしょ」
「いやいや、無理だろ。素行調査は入っているかもしれないし。仮に知られていないとしても、あとでばれた方が確実にダメージが大きい。解雇のみで済めば御の字、下手を打てば多額の損害賠償を求められる……そんな未来が俺には見える気がするぞ」
「えー。じゃあ、どうすればいい?」
「どうすればって……スカウトに応じるってのは、おまえの中では決定事項なのかよ」
「そ、そうだよ」
「ちぇ。だったら、俺は引き下がるほか、どうしようもないじゃないか」
「そ、そんなことないよ。あの……あなたが待ってくれるのなら、私も待つから」
「何だって?」
「仮に、プロダクションが別れるようにって言うのなら、従うしかないんだよね? だったら今のところは別れて、時期が来たら再婚するの。あ、再婚じゃないわ、えーっと、よりを戻す? 喧嘩したわけでもないのに、よりを戻すって言い方をするのもおかしい気がする」
「待て待て。まだ青春は残っているし、働き盛りの遊び盛りを迎えようかっていう俺に、ケイト、おまえと別れた上に、他の女性とくっつくことなく待っていろと言う?」
「そう、ね。改めて言葉にされると、私、ひどく無理難題な要望をしている気がしてきた」
「ああ、その通りだよ」
「怒った?」
「いや、別に。逆に聞くが、ケイトは待っていられるのか? 芸能界に入ったら、おまえがファンだったアイドルAだのアイドルBだのとお近づきになれるかもしれないんだろ? 一緒に仕事をする可能性だってある。そういう場面になっても、おまえは揺らがない自信があると?」
「あるよ。ばかにしないで」
「ふぇ? ばかに? いや、そんなつもりは全然。真面目に不安なんだけど。ケイトがアイドルとくっつくんじゃないかって」
「だから、そんな心配をすること自体、私への侮辱だわ。これまでどんな気持ちであなたと付き合ってきたのか……分かってないのね」
「あ、いや……分かっている……つもりだったが、俺がどうやら間違っていたみたいだ。おまえの気持ち、今この瞬間に、真に理解できたよ」
「本当?」
「ああ、ほんとほんと。ケイトがそこまで言うのなら、俺、待つとするよ」
「え、いいの?」
「いいよ」
「ありがとうっ」
「こら、いきなりしがみつくな。人目がないとは言え、子供じゃあるまいし」
「いいじゃない。嬉しかったんだもの。でも、本当にいいんだね。私があなたの気持ちを信じても」
「何度も言わせるな。一旦別れることになるのは正直、寂しい気がするが、しょうがない。おまえの夢のためだもんな」
「本当にありがとう。これからは夢じゃなく、現実のお仕事にしていくから、がんばらなくちゃね」
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