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7.集う面々その2
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<本日午前八時過ぎ、JR山手線を走る複数の車輌で、毒物によるものと見られる傷害事件が発生しました。負傷者の数は二十五名で全員、都内各所の病院に運ばれ、手当てを受けています。
警察及び救急の発表によりますと、午前八時過ぎに池袋駅へ到着した山手線車輌から降りた乗客数名が、吐き気や熱を訴えた。しばらく休ませたが良好にならないため、駅員は救急車を要請。それと前後して、各駅との連絡により、事態が同時多発的に起こっている模様と分かったため、警察にも通報した。臨時停車させた車輌内を警察が捜査したところ、一部の座席の背もたれ、吊革、ドアの取っ手などに極短く細い針状の物が接着されているのを発見。被害者の指先にも傷が見られたことから、針には何らかの毒物が塗られていた可能性があるとみて、科学捜査研究所で分析を急いでいます。また、JRは安全確保のため、事件発生時に山手線を走行中だった全車両を最寄りの駅に順次停めて乗客全員を下車させ、後続の列車に振り替える措置を執りました。十数本を運休にした上で、現在ダイヤは平常に戻りつつあります。念のため、これからご利用なさる方はご注意くださるよう呼びかけています。
毒針の仕掛けられた恐れのある車輌は、回送列車として随時引き込み線に入れ、警察による捜査が行われています。
なお、この事件が、昨日連続的に起こった大量殺傷事件の犯人を名乗る者による犯行かどうか、詳しいことは分かっておりません。
繰り返します。――>
途中、搬送される被害者や混雑する駅の模様の映像を交えながら、同じニュースが読み上げられる。
「ほら見なさい。ミレニアムキラー2000が動いた」
「まだ決まった訳じゃありません。模倣犯が出るかもしれないって、昨日から言われてたんですから」
「模倣犯なものかい。昨日の今日で毒物を用意できる人間なんて、そうはいないだろう」
短絡的だが、一理あると言えなくはない。得意げな連木に、堂園は納得した風を装い沈黙した。
ところが、今度は連木自身が否定するような見解を出す。
「しかし、変だな。一人も死んでない。ミレニアムキラー2000なら、即殺せる毒を用いると思うんだが」
「そう言えば、毒が何なのか、まだ分かってないみたいですね」
「分析には時間かかるんだろう。昨日の貯水タンクのやつは、青酸カリの類らしいと判明したけど、空手道場の方はまだ不明だ」
「よく知らないけど、青酸カリって即効性の猛毒じゃありませんでしたっけ? どうやってタンクに仕掛けたのか……」
「おや、知らない? 氷を使ったんじゃないかって説が出てる。自分もそれを支持するね。ミレニアムキラー2000は単独犯に違いないから、そうなると青酸カリを核に仕込んだ氷塊を、タンクに投入して回ったと考える外なくなる」
「……何故、単独犯だと思うんでしょうか?」
唇をナプキンで拭きながら、堂園は聞いた。
「そりゃ、ミレニアムキラー2000なんて名乗っておいて、複数犯だったら格好悪いじゃないか。天才的犯罪者は孤独でなければいけない」
連木は真顔で言って、そのあと苦笑を浮かべた。堂園は冗談と分かり、いくらかほっとした。
「連木さんて昔、乱歩の少年探偵団シリーズにはまった口ですね」
“有能”プロデューサーの土井は、実は単なる“有脳”に過ぎなかったことを露呈していた。すなわち、脳みそがただ有るのみで、有脳。無能と何ら変わらない。
昨日、自分もミレニアムキラー2000にやられた被害者の仲間入りをしようとして、トイレの個室内で打った芝居は、大失敗に終わった。
持っていたカッターナイフで、己の身体数カ所を傷付け、「ミレニアムキラー2000にやられた!」と叫ぶ。ただそれだけの狂言は、やはり思い付きでしかなかった。土井の証言を信じたら、矛盾だらけになるのだ。
ミレニアムキラー2000は何のために土井を襲ったのか。何故、土井自身のカッターナイフを凶器に使ったのか。どうして殺さずに逃げ出したのか。どこへ逃げたのか(土井を捜してトイレの前を通りかかったアシスタントディレクターは、人影を一切目撃していない)。土井は、いかなる根拠で犯人がミレニアムキラー2000だと分かったのか。
この最後の疑念に関しては、土井は「相手が名乗ったのです」と答えて、同僚の失笑を買い、警察官からは大目玉を食らった。
(くそぅ、何故、何故、信じないんだ!)
警察及び救急の発表によりますと、午前八時過ぎに池袋駅へ到着した山手線車輌から降りた乗客数名が、吐き気や熱を訴えた。しばらく休ませたが良好にならないため、駅員は救急車を要請。それと前後して、各駅との連絡により、事態が同時多発的に起こっている模様と分かったため、警察にも通報した。臨時停車させた車輌内を警察が捜査したところ、一部の座席の背もたれ、吊革、ドアの取っ手などに極短く細い針状の物が接着されているのを発見。被害者の指先にも傷が見られたことから、針には何らかの毒物が塗られていた可能性があるとみて、科学捜査研究所で分析を急いでいます。また、JRは安全確保のため、事件発生時に山手線を走行中だった全車両を最寄りの駅に順次停めて乗客全員を下車させ、後続の列車に振り替える措置を執りました。十数本を運休にした上で、現在ダイヤは平常に戻りつつあります。念のため、これからご利用なさる方はご注意くださるよう呼びかけています。
毒針の仕掛けられた恐れのある車輌は、回送列車として随時引き込み線に入れ、警察による捜査が行われています。
なお、この事件が、昨日連続的に起こった大量殺傷事件の犯人を名乗る者による犯行かどうか、詳しいことは分かっておりません。
繰り返します。――>
途中、搬送される被害者や混雑する駅の模様の映像を交えながら、同じニュースが読み上げられる。
「ほら見なさい。ミレニアムキラー2000が動いた」
「まだ決まった訳じゃありません。模倣犯が出るかもしれないって、昨日から言われてたんですから」
「模倣犯なものかい。昨日の今日で毒物を用意できる人間なんて、そうはいないだろう」
短絡的だが、一理あると言えなくはない。得意げな連木に、堂園は納得した風を装い沈黙した。
ところが、今度は連木自身が否定するような見解を出す。
「しかし、変だな。一人も死んでない。ミレニアムキラー2000なら、即殺せる毒を用いると思うんだが」
「そう言えば、毒が何なのか、まだ分かってないみたいですね」
「分析には時間かかるんだろう。昨日の貯水タンクのやつは、青酸カリの類らしいと判明したけど、空手道場の方はまだ不明だ」
「よく知らないけど、青酸カリって即効性の猛毒じゃありませんでしたっけ? どうやってタンクに仕掛けたのか……」
「おや、知らない? 氷を使ったんじゃないかって説が出てる。自分もそれを支持するね。ミレニアムキラー2000は単独犯に違いないから、そうなると青酸カリを核に仕込んだ氷塊を、タンクに投入して回ったと考える外なくなる」
「……何故、単独犯だと思うんでしょうか?」
唇をナプキンで拭きながら、堂園は聞いた。
「そりゃ、ミレニアムキラー2000なんて名乗っておいて、複数犯だったら格好悪いじゃないか。天才的犯罪者は孤独でなければいけない」
連木は真顔で言って、そのあと苦笑を浮かべた。堂園は冗談と分かり、いくらかほっとした。
「連木さんて昔、乱歩の少年探偵団シリーズにはまった口ですね」
“有能”プロデューサーの土井は、実は単なる“有脳”に過ぎなかったことを露呈していた。すなわち、脳みそがただ有るのみで、有脳。無能と何ら変わらない。
昨日、自分もミレニアムキラー2000にやられた被害者の仲間入りをしようとして、トイレの個室内で打った芝居は、大失敗に終わった。
持っていたカッターナイフで、己の身体数カ所を傷付け、「ミレニアムキラー2000にやられた!」と叫ぶ。ただそれだけの狂言は、やはり思い付きでしかなかった。土井の証言を信じたら、矛盾だらけになるのだ。
ミレニアムキラー2000は何のために土井を襲ったのか。何故、土井自身のカッターナイフを凶器に使ったのか。どうして殺さずに逃げ出したのか。どこへ逃げたのか(土井を捜してトイレの前を通りかかったアシスタントディレクターは、人影を一切目撃していない)。土井は、いかなる根拠で犯人がミレニアムキラー2000だと分かったのか。
この最後の疑念に関しては、土井は「相手が名乗ったのです」と答えて、同僚の失笑を買い、警察官からは大目玉を食らった。
(くそぅ、何故、何故、信じないんだ!)
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