世紀末祭:フェスティバル

崎田毅駿

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3.ミレニアムキラー2000

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 皆、浮き足立っていた。たいていの家ではおとそ気分も吹っ飛び、テレビに釘付けになった。
 在京のテレビ局は特に大わらわだった。アナウンサーや局員の正月休みは霧散し、正月特番の大部分は内容をバラエティからまともな報道もしくは下世話なワイドショーへと変更され、それでもなお処理しきれない大事件の続発ぶりに、まるで野戦病院のような慌ただしさが生まれる。もっとも野戦病院の悲壮感や命に関わる切迫感には乏しく、どちらかと言えば嬉々とした雰囲気が強い。
 このとき、テレビ局で働く人間で、本当に命に関わる問題を抱えていたのは、土井春也つちいはるやプロデューサーぐらいのものである。と言っても、彼は人命尊重派でもなければ、社会派でもない。二十八時間ぶち抜き番組の演出を企画決定したのが、彼だったのだ。
 強気と斬新さと調子のよさとで鳴らした土井は、誰に責任を押し付けようかと、下っ端の奴の顔を何人も思い浮かべていた。が、どう考えても自分自身が責任を被らねばならない。当たり前のことなのだが、土井にはそれが分からない。今まで失敗とはほとんど無縁で、たとえ失敗を犯しても上手に切り抜け、立ち回ってきた彼は、責任を取った経験がなかった。現在、どうしようもない立場に追い込まれた彼は、一足飛びに自殺を考えもしたのである。
 土井がトイレの個室に閉じこもり、小刻みに震える間も、彼の思惑とは無関係に番組は進められる。
「繰り返しお伝えしております通り、全く、とんでもないミレニアムとなってしまいました。二〇〇〇年は冒頭から、大きな事件事故が噴出。今日一日で死者の総計は三百名を越え、今後も増える様相を呈しています。中でも最大の惨事は旅客機墜落事故で、現場海岸からの報告では、乗員乗客百六十六名全員の命は絶望と伝えられております。原因調査は始まったばかりで、詳しいことが分かり次第、お伝えしていきます。それでは、この旅客機に乗っていたとみられる方のお名前をお知らせします」
 乗員乗客名簿から取った名前が、画面いっぱいにずらりと表示された。一度には映しきれなくて、名簿はゆっくりしたスピードで上にずれていく。アナウンサーは喋り通しで疲れたのか、それとも他のニュースをどう扱うかの指示を受けでもしているのか、乗客の名を読み上げはしない。
 しばらく経つと、画面が切り替わった。再びアナウンサーの姿。先ほどと違うのは、アナウンサーの顔色が上気したかのように赤く、頬の辺りに痙攣が見られた点だ。彼は原稿に目線を落としながら、「まだ確認は取れてないの?」「伏せるのね?」「これはいいのね」などと聞いている。
 テレビカメラを真っ直ぐ見据えると、取り澄ました調子で始めた。
「只今入りましたニュース……私どもの局が開設しているホームページを通じて、犯行声明文が送られてきました。同じ内容のメールが、在京主要テレビ局並びに大手新聞社、さらには警視庁にも送られた模様です。書かれた内容について、真偽のほどは分かりませんが、かいつまんでお伝えしますと、M神社での爆弾事件、旅客機墜落、マンションの貯水タンクへの毒混入など、今日起きた大きな事件の全ては自分がやったのだと主張しています。えー、メールの差出人の名は諸事情により伏せますが、ノストラダムスの生まれ変わりと称している――あ? あ、そう。
 続報が入りました。差出人のメールアドレスが判明したとのことです。アドレスを特に隠そうとしていない事実から見て、単純で悪質ないたずらである可能性が高まったと言えそうです」
 このニュースは嘘ではなかったが、正確さを欠いていた。メールアドレス判明も何もあったものではなく、声明文の末尾にはそのメールアドレスの他、現住所らしきアパートの番地に、“ミレニアムキラー2000”というハンドルネーム、さらには「斉藤洋一」と本名?まで記されていた。開けっぴろげすぎて、逆にいかにも偽装めいて見えるのは、衆目の一致するところに違いない。
 警察は事実確認を急いだ。当該のメールアドレスを発行した大手プロバイダーを突き止め、照会し、斉藤洋一の実在と住所が間違いでないことを確かめた。
 斉藤洋一宅へ一足早く急行し、待機していた刑事に指令が下る。同じく詰め掛けていたマスコミの見守る中、接触が図られた。
 アパートは原則的に学生専用で、他の部屋の入居者は全員帰省中とのことだった。念のため、逃走経路として考えられる窓や戸口全てに見張りを着けた上で、斉藤の部屋の扉がノックされた。
 無反応だった。何度やっても、声が返ってこない。
 ドアノブに手を掛けると、容易く回った。室内を覗き見た刑事の視界に、顎から上が吹き飛んだ斉藤洋一の遺体が入った。
 旧式のパソコンの電源は入れっ放しで、エディタが立ち上げてあった。その画面の最上段の行に、「これが最初。あと1999人。ミレニアムキラー2000」と打ち込まれていた。
 末尾ではカーソルが小刻みに点滅していた。発見者をあざ笑うかのように。
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