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コイカケ2の9
しおりを挟むハートのA ハートの6 クラブの3 クラブの5 ハートの7
(これって、野杁さんご指定のジョーカーになる札が、二枚とも来ている。まさか二枚とも来るなんて思っていなかったから、見落としそうになったわ)
このため、一気に選択肢が広がる。とは言え、無駄な枝葉は切り捨てなければいけない。
(たとえばクラブの3を捨てて、ハートのフラッシュを狙う。失敗しても、スリーカードは保証されている……なんていうのはあまり意味がないわね。ハートの6とクラブの5を残す限り、スリーカードは保証される。その上で確率の低そうなハートのフラッシュを狙ってもね。ジョーカー代わりになる二枚を残して、手広く受けるのがいいかしら。三枚チェンジしてワンペアが来ればフォーカードの完成)
静流は手札から視線を外し、相手の様子を窺った。
野杁も何か考え込んでいる風に見える。
(後手なんだから、私を急かしてもよさそうなのに、集中しているわ。あの様子だと、彼女にも特殊札が来ている感じ。もし当たっているとしたら、それはクラブの2である可能性が高い。スペードの3は野杁さんは認識していない上に、特殊札の候補から外しているはず。私が認識できていない6.のカードは、相手の妨害を目的とした特性であり、自分自身の手札を考えるのに、あまり影響はない。その点、クラブの2は自身の手札によい効果を与え、敵の妨害もするから、考え甲斐があるというもの。敵、つまり私の手札の中で一番強いカードをクラブの2に変える……)
検討すべき要素が増えた。さっき捨てた選択肢を拾い直さねばならないかも。回転する車の中のモルモットのごとく、めまぐるしく、忙しなく思考を積み重ねる。
(ジョーカーは強弱の順位付けから省くルール。だからハートの6とクラブの5は、影響を受けない。ということは、やはり三枚交換が一番賢い選択なんでしょうけど)
もう一つ、頭に入れておかねばならないのは、まだ効果を発揮していない特殊カード二枚の存在。まず静流が指定したスペードの3だが、敵の特殊カードを無力化できるという特性は野杁も分かっているから欲しいはず。ただ、野杁は静流が第一戦で打った布石のため、スペードの3は特殊カードではないと判断している。使われるとしたら、交換時に新たに手札に入った場合のみだ。
一方、野杁が指定した6.のカードだが。ある理屈から――というよりも野杁の勇み足から、静流はその正体をたった二種類に絞り込んでいた。ダイヤの2かハートの2、どちらかである可能性が極めて高い。
(6.に該当するカードが野杁さんの今の手札に入っているとしたら、ちょっと読みづらいのよね。野杁さんが残すか、交換するか五分五分といったところかしら)
静流は最終的に、成功した場合に相手へ与える心理的ダメージを優先した。責めっ気があるのは本人も自覚するところである。
「お待たせ。一枚チェンジよ」
静流はハートの7を場に軽く投げ、新たに配られた一枚を手札に加えた。
* *
野杁竹子は、お待たせと言われるほどには待たされた気がしなかった。
(集中しすぎて、静流さんの表情を窺うのが疎かになってしまった)
反省するも、今さら遅い。とにかく最善手を作ることに力を注ぐ。
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