コイカケ

崎田毅駿

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コイカケその25

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 神田部静流は不満だった。
 融通の利かない、電話の制限時簡に。
(もう、まだ伝えたいことを全然、言えてなかったというのに、ばっさり切るなんて。少しは空気を読みなさいって言いたいわ)
 電話の方を恨めしげな目で見つめる。
(あと三分あれば、話せて、面白い反応が聞けたかもしれないのに。三分の時間延長を許すのと引き換えに、私に挑もうという者はいなかったのかしら。寺角のときと同様、私に勝てたのなら、トーナメントに特別推薦で出場させてあげるのに)
 深く息をついた静流は、次に一転して笑みを浮かべた。
(まあいいか。予告してその反応を見るよりも、予告なしでいきなり水着美人が対戦相手として現れたときの反応の方がきっと、もっと面白いわね)

             *           *

「――うわ」
 不覚にも声を上げてしまった。
 その女性は目のやり場に困る水着(繰り返すが、多分)のみを身に着けている。胸を覆う左右のブラから布が伸びて、おなかで交差し、エックス字を形作って、ボトムにつながっている。縦長の臍部に目が行ってしまう。
 年齢は分からないけど、僕と同じぐらい。美人、というか美少女寄りの顔立ちで、身体付きの方はとりあえず巨乳で、それでいてくびれはしっかりある。日焼けはしているが、黒い!って感じじゃなく、普通に過ごしていたら焼けたという風情。
 そんな水着美女は、唐突にトランクスを突き出した。黒の、男物の海水パンツだ。
 馬込ディーラーが説明をしてくれた。
「勝負の前に、これに着替えていただきます」
「……理由を伺ってもいいでしょうか」
「可能な限り、いかさまを封じるためです。実力を測るためですから。無論、この勝負に関しては、無線機の使用は禁止とします」
「僕が負けた場合、トーナメントの方はどうなるのですか」
「味澤様の勝ち上がりとする予定です。まだ、ご当人には伝えておりませんが」
「分かりました。やりましょう」
 僕は部屋を出るつもりでいた。こことは別の試合場が用意されているのだと考えたから。でも、実際には違っていて、馬込ディーラーと女性は僕の部屋に完全に入ってきた。もちろん、ドアは閉じられ、自動でロックされた。
「荷解がまだ中途半端なんですが」
「かまいません。この度私どもの方で用意したゲームはシンプルで場所を取りませんし、短い時間で決着するものと思います。ただ、三番勝負を考えておりますので、残り二つは対戦するお二人が一つずつ提案する形になります」
 それはまた急な話だ。
「提案するゲームを考える時間は?」
「三分でお願いします。また、ゲーム自体も短時間でけりの付く物を」
「ですよね。そちらの……おねえさんはすでに考えている?」
 尋ねつつ、水着女性を一瞥した。
「そうよ。それから私の名は帆里南ほさとみなみ。おねえさんではないわ」
「失礼しました帆里さん。ついでに聞かずもがななことかもしれませんが、教えてください。あなたは主催者側の人間?」
「そうね。記憶に残っていないようだから教えてあげると、神田部家のお屋敷で、あなたと顔を合わせているのよ」
「ええ?」
 全然、覚えがない。まさか、僕を動揺させる嘘じゃないだろうな。
「どういう形でお会いしました?」
「今は秘密。時間もないことだし」
「――では海パン一丁に着替えながら、ゲームを考えるとします」
 渡された水着を持って、ユニットバスのある小部屋に引っ込み、ゆっくり着替えに掛かる。
 ゲームねえ。相手が提案するゲームって、当然、いかさまが仕掛けられていると考えるべきなのかな。さっきの帆里南の言動からして、一筋縄じゃ行かない感じだし。いかさまがあると見越して、こちらも何か有利になるようなゲームを指定したい。海パン姿で何とかなるとしたら、手先の小技……やっぱりカードか。コインも行ける。
 等と思考を巡らせていると、「そろそろ三分経ちます」と馬込の声が届いた。
 一か八か、出たとこ勝負の面もあるけど仕方がない。
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