コイカケ

崎田毅駿

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コイカケその11

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「……一枚もらおう」
 味澤は五枚の手札から真ん中の一枚を抜き取り、場に放った。ディーラーからの新しい一枚を加え、また少し考え込む。
 僕も、すでに勝負は相手の出方次第で下駄を預けた格好だが、考える。一枚交換ということは、味澤は大きな役を狙っていると思われる。失敗してノーペアに終わる確率はかなりある。
「オープンの権利、使わせてもらうよ」
 味澤は馬込ディーラーに宣言したかと思うと、すぐさま僕の手札を指差してきた。
「こちらから見て右端にある一枚を開いてもらうとしよう」
「受け付けました」
 馬込に促され、僕は自分から見て左端の一枚を場に置き、表向きにした。最初に手にしたときのまま、ハートの2だ。
 そのハートの2から手を離すと同時に、味澤の反応を窺う。
 ――ほんのかすかだが、口元で笑ったように見えた。
「まだ始まったばかりだしな。受けよう。チップ十枚コールで二枚の上乗せだ」
 そして早い判断。
 これは……見抜かれたか? そうでないにしても、あの決断のスピードは、ある程度の確証を得たからこその早さのような気がする。
 とすると、僕の言動・仕種が、敵にヒントを与えてしまったのか。撤退は考えてからでも遅くはない。
 ……そうか。
「降ります」
 早口で馬込に告げた。参加料を含めて十一枚のマイナス。痛い出だしになってしまった。
 しかし、味澤が僕の手を2のワンペアと見抜いたのはほぼ確実。傷口を広げない内にここは退却だ。
 この回の勝負、僕は二枚を残して三枚をチェンジした。
 僕がすぐさまストップを掛けて勝負に出たことで、味澤は僕が残した二枚でワンペアができていると踏んだ。さらにオープンの権利を行使し、その一枚がハートの2と知った。恐らく、僕の手に残ったカード二枚がその位置を全然変えないままだったことを観察していたに違いない。
 手元に残したのが2のワンペアで、速攻は強い手ができたふりだと見抜けば、味澤にとって勝負に出るのは容易い。上乗せを二枚にしたのは、僕がカード交換でスリーカード以上の手になっていることを念のために警戒したのと、うまくすれば僕が応戦してコールしてくることを期待したんだろう。
 できれば味澤の手役がどんなものだったか知りたかったけれども、降りたときは公開する必要はない。もし仮に、ノーペアで勝負に来ていたのなら、恐ろしいが。

 続く第二戦。先手番となった味澤は、いい手が来なかったのか、四枚交換をした。この場合、手元に残す一枚は、大きな数字であることがほとんどだ。エースから10までのどれかといったところか。
 交換が終わったあともストップは宣言せずに、味澤は一枚だけ場にチップを出した。
 一方、僕自身の手札は――。

 スペードの4、スペードのキング、クラブの8、スペードのクイーン、スペードの2

 これは選択の余地なし。クラブの8を捨てて、スペードによるフラッシュ狙い。
 たとえスペードが来なくても、キングかクイーンのワンペアができれば、勝負に行ってもいいだろう。相手は四枚チェンジで、まだ何もできていない可能性が高い。
 ディーラーから配られたのは……スペードのエース。フラッシュの完成だ。
 よくない流れだな。
 相手の手がまだまだ完成には程遠いだろうに、自分には結構強い役ができてしまった。この時点で賭けるチップを引き上げることは恐らく無理。かといって、ストップを宣言しないと、次で再びカード交換をしなければならず、フラッシュの役が崩れてしまう公算が大。
 などと迷ったのは一瞬で、ここはさっさと勝負して少しでもマイナスを取り返しておこう。他に打てる手はないはずだ。
「ストップ。三枚賭けます」
 対する味澤は、三枚を交換。しかし新たに来たカードの一枚目を見ただけで、「降りる」と言った。
 僕の方に戻って来たチップは、参加料プラス一枚のみ。最小数だ。仕方がないこととは言っても、フラッシュの役でたったこれだけしか取り返せないのは痛い。
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