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7激甘ネジ

ただ、隣にいたいだけ③

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「翔さん。今日一日頑張って、たくさんこれからの話をしましょうね」
「俺は……」

 そこで、指にこもる力。嬉しいのに、どこか悔しそうな表情。
 後悔とまではいかないが、手放しで喜べないと寄った眉。

「どうしました?」
「受け入れられてこんなに嬉しいのに、怖いって思う気持ちは初めてだ」

 絡まる指からは震えが伝わり、冗談ではないことを示す。

「一緒です。幸せだから、先が見えないから、怖いんです。だって、保証なんて誰もしてくれないし。大事だからこそ、今が幸せだからこそ怖いって思うのは普通です」
「普通」
「散々じらした私がそういうのだから、わかりますよね? 幸せだなって思うたびに、余計なことを考えて踏み出せなかったから」

 大事だからこその重み。

「そうか……。俺は……」
「はい」
「千幸を離したくない」
「知ってます」
「だが……」

 そこで、小野寺はきゅっと唇を噛んだ。
 ここに来て弱気になる小野寺が愛おしいと思った。これだけ求めておいて、いざ得られると尻込む恋人の胸の内。

 この前、轟と話して自分と接点を持つために計画されていたものがあると気づいた。
 それに遊川のことがどこまで関係しているのかはわからないし、小野寺の思惑がどこまであったかわからないけれど、選んだのは千幸だ。
 引越し業者、隣の部屋、あの場で出会ったこと。気づかないほうがおかしいだろう。

 だけど、求めたのは本当でも卑怯なことをする人ではない。
 これだけ好かれていて、小野寺が千幸の不幸を喜ぶはずはない。
 全容はわからないし小野寺も話す気がないから聞かないが、これだけは付き合ってきて断言できる。

 だから、あれはなるようになった結果であって、そこから必死で千幸を求めてくれたからこそ今がある。
 遊川も転勤先でめきめきと頭角を現しているというし、自分たちの思いはどこかずれ始めていて、それに絶妙なタイミングで小野寺が入ってきただけのこと。

「私は翔さんと一緒にいたい。これからもずっと」
「本当に?」
「わからない未来も考えた上で、ずっと一緒にいたいって思ったのは初めてです。その思いだけじゃダメ?」 

 自分たちの気持ちさえ互いに向いていたら、小野寺が入ってきたところで何も変わらなかったはずだ。
 だから、小野寺が何か思うことがあったとしても気にしないでほしかった。

「……いや。俺も千幸だけがいい。千幸しか考えられない」
「なら、両思いですね」
「両思い……」
「うん。両思い」

 断言すると、途端、ふわぁぁぁっと花を巻き散らすかのように笑顔になる小野寺。
 経験とか小野寺のほうがたくさんしてきているのに、両思いの言葉でこれだけ喜ばれるともうどうしようもなかった。
 両思い、両思いと噛み締めるようにブツブツ言っている恋人の美貌が、自分限定で崩れ柔らかくなるのを見せられ、千幸も自然と笑みが漏れる。

「ああ、本当ずるい。何度も何度も千幸だけだってなる。せこい」
「せこいって。でも、そう思ってくれてありがとう」

 小野寺の安定の好きが千幸を強くする。

「くっ、何その格好良さ。俺の恋人はこんなにも可愛くて賢くてほかに見せたくないんだが?」
「いや。そういうの言い出すのはなしです」
「本気なのに」
「本気ならなおさら悪いから」

 本気なのになとぐりぐりと頭をすり寄せてくる小野寺は、完璧甘えワンコモード。
 そんな小野寺だが会社では鬼社長だと白峰秘書が言っていた。
 甘えるところが自分だけだというならば、増長させる危険性は大いに秘めているけれど多少は甘やかしてもいいはずだ。そうしたい。

 ネジのつき方が変なところはあるがいつでもたくさん求めてくれて、必要としてくれて、根気よく千幸を甘やかしてくれる小野寺を好きになったのだ。
 自分だけにワンコになる姿だとか、ネジが緩み出すところとか、特別を見せてくれる相手に絆されないほうが無理だ。

 この人には自分が必要だと、常に教えてくれる相手。
 こんなに満たされる人とそばにいることを、自ら遠のけたりはしたくない。誰にもその役目を渡したくないって思うくらい、千幸にだって独占欲はある。

 小野寺が千幸の肩をゆっくりと押し、二人の間に隙間を作る。
 榛色の瞳がとろりと見たことのないくらい綺麗な色を放ち、千幸を見据えた。

 こくりと小野寺の喉が鳴り、軽く緊張が伝わってきて千幸もすっと背筋を伸ばした。
 ただし、膝の上なのでまだまだ甘々モードだが、改まった空気はドキドキと鼓動が高くなる。

「千幸。千幸さん。俺とこれからも一緒に過ごしてください」
「はい。これからも、よろしくお願いします」

 少し、声が震えた。
 大事なことだと改めて言葉にされ、それに返事をしたことにぐぅっとくるものがあった。小野寺の思いや自分の思いが重なり、膨れ上がり、熱を持つ。

 朝晩は冷え込み、外は吐く息はうっすらと白く息づく冷たい空気。人肌恋しくなる季節。
 千幸は耐え切れず、自分からまた距離を詰めた。

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