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7激甘ネジ
重なる温もり
しおりを挟むパチャンッ パチャ、パチャ
揺れる水音。熱い吐息が熱気に混ざりさらに熱を上げる。
風情ある景色は夜に溶け込み、ぽつぽつと灯る明かりと川の水音だけがこの地にいると示してくれる。
「っん……、あ」
「はぁ、くっ」
露天風呂を堪能する余裕もなく、内風呂でこもる吐息が耳につく。
会食後、部屋に戻った途端、襲いかかるように抱き込まれベッドに連れて行かれた千幸は余すことなく愛され、とろとろにされた。
『ずっとキスしたかったんだ』
『千幸が好き』
『俺を選んでくれてありがとう』
愛の言葉とともに、確認できないところにまであちこちと求愛の印をつけていく小野寺に、大して抵抗もせず受け入れ乱された。
奥に感じる彼の熱。燃えるように自分を求める欲を孕んだ瞳。
小野寺が愛してくれるように、千幸も今日は彼とともにここにいることにひどく満たされた。
郁人にも言ったように、幸せなのだ。
求められること。おずおずと伸ばす手をしっかり握り返してくれること。
不器用な千幸のままをまるごと包み込み、千幸を好きだと言ってくれるその綺麗な眼差しがすごく好きだ。
たまに変で強引だけど、だからこそ千幸は怖がらずに、焦らずに小野寺のそばにいれる。
びっくり箱のような彼のそばはきっと飽きることがなく、ずっと仕方がないなぁっと思いながらもそばにいることが居心地いい。
触れる肌が、かかる息遣いが、自分に向けられる熱が、その全てが愛おしすぎて、この激しさも自分のもの。
そう思うと堪らなくなった。
「翔さん。す、き……」
「ああ、俺も。好きすぎてどうにかなりそうだ」
そうして愛し合って汗を流そうとお風呂に移動したのだが、互いに熱が引かずに口づけを交わして現在に至る。
「……ん、もう」
「まだ、いけるだろう?」
「……体力ありすぎ」
「ここの湯は腰に効くんだろ?」
「それだけじゃ……、んっ」
「ほらっ」
艶を含んだ笑みでささやくと、くいっと引き寄せて唇を割られた。
その際に、腰を入れてぐいっと奥へと迎えさせられる。
「んぁっ」
甘い声が響き、嬉しそうに覗き込む小野寺。
ちゅっとキスを落とすと、調子がいいよと無駄に色気を出して耳元で告げる。
──あずまのおじちゃんっ! ここに鵜呑みにした人います。どうしてくれるんですか?
明日、足腰大丈夫だろうか。
冗談でもなく、若干心配になるくらい今日の小野寺はいつにも増して求めてくる。
「だから、頑張ろうか?」
──頑張ろうかじゃないからっ!!
「……んっ、ぁ」
だから手加減を。
そう訴え口を開こうとすると愛撫に啼かされ、小野寺の執念を感じた。
有無を言わせない。そうすると決めた獣は許しを請いながらも貪ってくる。
「今はすごく千幸が俺のものだと実感したい」
キスの合間にささやかれる睦言。
千幸の弱いところ、いいところを的確に攻めながら、愛おしいとばかりに愛撫するとき以外は常に手が頭や髪を優しく撫でてくる。
頑張るのは遠慮したい。したいけど、この熱を拒否するのは躊躇われた。
求められる熱に応えたい。
千幸は奥で小野寺の熱を感じながら、近づいてきた形の良い唇に舌を差し入れ、自分から絡めた。
肌が重なり、温もりを分け与え全てが一緒になる。
動きも鼓動も感じることも、すべてを共有する時間。
高め合い、互いに奪うようで与える甘い時間がしばらく続き、ようやく落ち着いた。
肌はじりじりと熱を持ったまま引かず、それでいて心地よくまったりとした時間。
「…………はぁ」
甘い甘い吐息が漏れる。はっきりいってすごかった。いつもと違うシチュエーション。
今日は互いに気持ちが高ぶっていたため、歯止めが効かなかった。
千幸はくったりと小野寺に身体を預けていた。身体を動かす気にもなれないこの甘いだるさ。
思い出したように、ちゅっとキスを何度もしてくる甘い甘い恋人。
「千幸」
名を呼ぶ声が、いつにも増して甘く響く。少し動くたびに、湯が優しく肌を撫でる。
「……本当に腰が抜けるかと思った」
「ごめん。欲しい気持ちが止まらなかった」
「そろそろ加減というのを学びましょうか?」
過剰な熱は時として重すぎて受け止めきれない。
「それについては、千幸も悪いと思うけど?」
「何が?」
「自重しようとしても、千幸が可愛いのが悪い」
「意味がわからない」
「千幸が常に俺のツボを押しているってこと。だから、これからも無理」
そこで堂々と告げる小野寺に、千幸はふぅっと息を吐き出した。
──無理って。本当にこの人は……
愛されている。そして、たまに変だけど情熱的に求められているそれらが、今の湯のように心地よい。
火照るような熱さ。冷めることがなく、常に身体の芯を温めるそれは時に上気せるくらい熱いが、馴染むとその温度が気持ちよい。
「努力はして」
それだけを告げた。
小野寺が小野寺である限り、ずっとこのやり取りは続くのだろう。それが面倒くさいと思う時もあるだろうが、満たされるものだともう千幸は知っている。
「ああ。好きだ。千幸」
「私も好きです」
千幸が首を捻り答えると、ちゅっとすかさずキスを落とされる。
安定の甘さにくすぐったくなり笑うと、小野寺はふふっと嬉しそうに瞳を輝かせた。
「まだ、楽しみがあるからな。そろそろ動ける?」
動ける? どういう意味なのか。
その瞳が不安を煽るが千幸は頷いた。
「動けるけど」
ちょっと身体全体が怠いが、甘い疲れなだけで無理をされたわけでもない。
「そうか。なら、そろそろ出よう。浴衣、着てくれるだろ?」
もしや……
「千幸の浴衣姿が楽しみだ」
ほくほくとばかりに嬉しそうな声音で、耳を食み息を吹きかけてくる。
「ゆかた…?」
嫌な予感。すっごく嫌な予感。
「そう。浴衣」
その際に、肩越しにちゅっとキスを落とす。
前から思っていたが、小野寺はキスが好きだ。キス魔だ。
今はそこは置いておくとして。確かそんな話はしていた。
していたけど、さすがにね。お風呂上がりに着るだけだよね? だと言って。
外れてほしいと思いながら、次の言葉をじっと待つ。
ほくほく、ほくほくと弾む空気が真後ろからビンビン伝わってくる。
「俺が脱がすから」
着て脱がすということは。
「もう無理」
これ以上は、さすがに明日にどう響くかわからない。
「これは譲れない。ここに着いた時に言っただろ? 俺は千幸の浴衣姿を堪能して乱れさせたい」
――するの?
「だから、今夜は俺に任せて千幸はとろけて」
優しく頭を撫でられる。ちゅっ、ちゅっと触れるだけの羽のようなキスの分だけ、好きが降ってくる。
うぅぅ、あ~~。
野獣なのに可愛く見えるって、思えるってもう自分でもわからない。
恥ずかしさと期待と、よい大人がこれでいいのかと思う理性がせめぎ合う。
その迷いを感じ取った小野寺が甘くかすれた声で耳元でささやいた。
「大丈夫。明日、いや、もう今日か、響くようなことはしない。……多分。それに何かあってもしっかりフォローするから」
「…………」
「だから、千幸」
耳元、アウトです。この声、アウトです。
それ以上に小野寺の温もりから離れる気がおきないのがアウトだ。
千幸は小さく小さく頷くと、深まるキスに完全に理性を手放す。
──まだまだ夜は長いようだ。
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