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7激甘ネジ
今思うこと⑥
しおりを挟む「まぁっ!」
「もしかして、大学の時から……」
「そうですね。気になっていました。なので再会した時にアプローチして、ようやく振り向いてもらえました」
「そうなの?」
姉が食いつかんばかりに私たちを交互に見る。
「はい。ずいぶん積極的にいったので引かれなくてよかったです。だから、もう離す気はありません」
「わぁ!」
「千幸ちゃんったら」
「小野寺さん。すごいわ」
「女としてそう言われるとねぇ」
興奮する女性陣たち。
女性にとって、長年思われ成就するってストーリーは好物だ。
きゃっ、きゃっと手を取ってはしゃぐ姿はまるで乙女だ。ましてや、娘や長年知っている人物がその対象ならば余計に興奮するだろうとは思う。
これで母たちの好感度はうなぎ登りだ。
小野寺は嘘は言っていない。
言っていないが、この居た堪れなさ。まだ集まって三十分も経ってないのに、何度この感じを味わうのか。
確かにきっかけは小野寺である。けれど、今は付き合い心も向き合っていて、好きで関係を大事にしたいと思っている。
その気持ちにどちらが上とか先とかはもう関係ない。
「お母さん。さっきの話に戻すけど。ゆくゆくは一緒に住めたらと思ってる人だから、今日は連いてきてもらったの」
「そうなの? 好きにしたらいいけど、さっき隣に住んでるっていってたのに」
「確かに近いけど、さっきも話にでてたけどいくつも会社を経営していて忙しい人なの。だから、すれ違いも多くて隣でも会えない日もあるから。なら、先々一緒にという話をしてて」
「へえ。大変なのねぇ」
遊川の時は何も言っていない。姉の結婚などでばたついている時に千幸は家を出た。
その時は同じ会社の人と結婚を見通してまでの付き合いではない時点で、同棲を決めてしまってよいのか迷った。
だけど、申し出の嬉しさ、そして実家のタイミングが重なり、話し合って様子を見ながらという感じでスタートした。
なので、両親にはしばらく友人とシェアして一人暮らしをする予定だと話して出てきたのだ。
その後は隠しているつもりはなかったし、聞かれたら話そうとは思っていたが、もともと深く詮索してこない両親だったので結局彼とのことは話さないまま終わってしまった。
でも、今回は考える時間もあって、いつかはそうしたいと思っている。
そこで母はにやにやと千幸を見る。この顔はろくなことを考えていなさそうだ。その前の席で多田母もにやにや。
「あの千幸がねぇ」
「あの千幸ちゃんがねぇ」
息ぴったりの言葉に、千幸は眉を寄せた。あの、はやめてほしい。どの、千幸だ。
こちらの表情で言いたいことを理解した母たちは、「あの、はあのよ」と笑う。
「だって、千幸って受け身というか。嫌なら嫌ってはっきしりているけど、嫌じゃなければけっこう流されるじゃない? 小野寺さんとももしかしたら始まりはそうだったのかなぁとも思うけど、今は少なくとも自分から動いてるでしょ。したいって意思表示して。やっぱり、あの千幸がねってなるよね」
「そうそう。千幸ちゃんってそうよね」
「幸菜も結婚したし、千幸も彼氏連れてきて。みんな年頃ねぇ」
「そうよねぇ。子供が年頃ってことは自分たちも老いたってことだけど、いろいろ楽しみよね」
「なんか一緒に暮らすって言われているだけなのに、嫁に出す気分になちゃった」
そこで母が小野寺を見る。
小野寺さん、と名を呼んだその顔はさっきまでにやにやしていた人とは想像つかないほど、真剣な眼差しだった。千幸ははっと息を飲む。
「ふつつかな娘ですが、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします。手放す気はないので、一生幸せにするつもりです。彼女と相談し過ごしていきながら、またご挨拶できたらと思ってます」
「そうですか。本当に嫁に出す気分だわ。父さんは、もうお酒入って聞いてなそうね。なら、まだ内緒にしておくわね。寂しくて拗ねちゃいそうだし」
「千幸さんはどちらかというとお父さん似ですよね?」
「わかるかしら? いろいろ考えてるとは思うのだけど、なかなかそれを表に出してくれないところなんてそっくりだと思うわ」
いやいやいや。二人でその会話。
置いてけぼりというか、先走られてるというか、嬉しいけれどやめてほしい。
「もうっ! この話はお仕舞い。今日はさっちゃんたちがメインなんだからね」
「別にいいじゃない。また照れて」
「可愛いな」
ぼそっと横で告げる小野寺。姉がニヨニヨと笑みを浮かべる。
緩みまくった表情の中に、安堵した空気も感じて姉なりに心配してくれていたことも伝わってくる。
いろんな人に言葉にされないながらも気遣ってもらっている。それがわかる。
嬉しいのに、嬉しいからこそそのまま伝えることができない。
「照れてないから」
「これは照れてるわね」
「千幸ちゃん。照れ屋だもんね」
「恥ずかしがらなくてもいいのに」
それをしっかり把握されている人たちの前では、また恥ずかしいだけだった。
「もう! いいって。お酒足りないよね? 持ってくるから」
「なら、一緒に行くわ」
千幸がそう言い出すと、母も立ち上がった。
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