ただ、隣にいたいだけ~隣人はどうやら微妙にネジが外れているようです~

Ayari(橋本彩里)

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7激甘ネジ

今思うこと③

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 両親に恋人を紹介することが嬉しいのと恥ずかしいのとこそばゆいのと、これから会う人を思うとお気楽にはいられない。
 意識し過ぎかもしれないが、顔を会わせるまではわからない。

 それに、小野寺が対外モードで放つ雰囲気からしてできる男というのが溢れている。溢れすぎている。
 かしこまった場で小野寺と一緒にいることはよく考えれば初めてで、ついつい視線を止めてしまうことが自然と多くなる。

「千幸、そこ段差」
「あっ、ごめん」
「ん。気をつけて」
「……ありがとう」

 手を差し伸べ握った手は緊張で握りしめていた手に触れ、さりげなくほぐすように撫でていく。

 ──くっ、はぁぁぁ。

 先ほどの緊張とは別に、背筋がぞくぞくした。
 いつもと変わりない。二人きりの時も細やかな気遣いをしてくれる人だ。
 今は大人としてこの場に沿うように対応しているだけで、誰かの前だからとか格好つける人でもない。だから、余計に居た堪れない。

 真っ直ぐに自分をいつでも見ている。
 雄弁に語る榛色の瞳に、口に、動作。優しい眼差しと労わる手は千幸への好意を向ける彼の当然の行為。

 ただ、家族もいるところでこの空気がなんともはや。
 近づくとふわっと香る爽やかな香りと低く甘い声音。いつも以上に小野寺を意識する。

 そこまで畏まった場ではないが、着替えた小野寺は白のシャツにベージュのパンツ。男らしい骨ばった手首には、誰もが知るハイブランドの腕時計。
 だが、ゴテゴテしたものではなく、シンプルで機能性重視といった見た目で嫌味がない。

 常に周囲を気遣い、自分が座る前に千幸の椅子を軽く引き視線が合うと笑みを浮かべる。
 なんてナチュラルなエスコート。それでいて周囲には恋人として気遣っていることがわかる対応。

 何度も言うが、すごくナチュラルにこれができるというのがヤバイ。男前だ。母なんかはうっとりしている。乙女になっている。
 礼人義兄さんの母、多田母もぽえぇぇってなっている。ぽえぇぇって。横で旦那さんが呆れたようにツンツンと肘で付いている。

 姉もほぉっと頬を染め、その後にやにや笑う。
 妹がそのような扱いを受けていることが楽しくて仕方がないようだ。

 ──もしかして、こういうのことなのかなっ?

 大学の時の友人たちが騒ぐ美貌というのは。
 美女が群がっていた理由とは。
 イケメン集団と言われていた真髄は。

 それがようやくわかった気がした。
 恋人はやっぱり美形でできる男なのだと、よく知る周囲の反応で実感する。
 あまりにも独特な一面を見せられすぎていて、千幸のそばだとそれが顕著なので格好いいことはわかっていたが、皆の反応を本当の意味でわかってなかった。

「初めまして。小野寺翔といいます」
「千幸ちゃんの恋人ね」

 多田母が嬉しそうに声を上げると、「はい。お付き合いさせていただいてます」と小野寺が華麗に微笑んだ。

「素敵な彼ね」

 多田母が嬉しそうにこちらを見たので、千幸も同じように笑顔で返した。
 周囲が受け入れてくれる空気にほっとする。

「そうですね。ありがとうございます」

 千幸が肯定し頷くと、小野寺が嬉しそうに笑う。
 子供が褒められて堪えきれずに笑うような素直な表情に、多田母は目を丸くしてまた微笑んだ。
 次に小野寺は、姉と義兄の方へ向くとすっと光沢のある包装しに綺麗にラッピングされた箱を差し出した。

「遅くなりましたがご結婚おめでとうございます。ささいなものですが、お祝いにと用意しましたのでどうぞ」

 千幸の横で穏やかな笑みを刻みながら告げる小野寺に、姉がもらってもいいのかと千幸を見る。
 千幸も知らされていなかったが、用意してくれたものなので頷いておいた。

「ありがとうございます。この場で開けても?」
「ええ。気に入ってくださるといいのですが」

 姉の幸菜が義兄と一緒に小野寺から受け取ったものを開けた。

「わぁ。綺麗っ!」
「本当だね」

 いつの間に用意していたのか。姉と旦那さんの手にはお揃いのバカラのグラス。
 とても気に入ったのか、手で持ち上げて光に当て嬉しそうに笑い合う。

「素敵なものをありがとうございます」
「ありがとうございます」

 その姉の姿を微笑ましげに見ていた義兄がグラスをしまうと、丁寧に頭を下げた。
 姉は礼を告げるとまた箱の中を覗いて「綺麗~」とうっとりしているのに、出来た旦那さんだ。

 本人も幸せだと言っていたが、いい旦那さんと一緒になれて姉は幸せだと身内としてしみじみ噛みしめていると、その向こうで視線を感じて千幸はちらりと見た。
 向かい合わせの二つ席が離れた端の席に座る、多田家三男坊。つまり、千幸の元彼の郁人ふみとがこっちを見ていた。

 絡み合う視線。
 なんとなく存在は意識していたが、いつまでもそちらを見ないのはおかしい。今がその時なのだろうと、思い切って声をかけた。

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