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7激甘ネジ

今思うこと②

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「千幸と過ごす時間は俺にとって掛け替えのないものなんだ。今もこうしているだけで満たされる」
「……っ」
「千幸が生まれ過ごした場所に一緒にいるだけで嬉しい」

 わかる? と覗き込まれ千幸は耐え切れなくなった。
 顔が真っ赤になっている自覚がある。それを見られていると思うと、赤みが引くどころか増していく。

 何気なく差し伸べられる手や言葉に、いつもとシチュエーションが違うからか、いちいちキュンとする自分に一体何が起こっているのか。
 山中では汗をかいてる姿も格好いいなと普通に見惚れてしまったし、今もキュンキュンが止まらない。

 千幸は赤くなっているだろう顔をごまかすように小野寺の手を外させ、またケーキを切り取る。
 ぐいっと差し出したら素直に口を開ける小野寺にケーキを押し込んだ。

 されるより、するほうが幾分かマシだ。小野寺に動かれるよりは動くほうがマシ。
 こっちを見る小野寺の榛色の瞳が蕩けそうなのは、知らない。本当に知らない!

 それでも、隙をみては砂を吐くように甘い言葉と眼差しで千幸を羞恥に追い込み、ついでに店内全体を甘い空気で巻き込む小野寺。
 周囲まで巻き込む力が半端ない。なんとも言えない時間。

 当てられたかのように、何組かいたカップルがまったりと語り出す。そっと手を繋ぎ合う。
 店員さんもふふっと悟ったような穏やかな顔。会計の時に「お幸せに」と言われた時には、とうとう顔から火を噴くかと思った。
 そうこうしている間に沈みゆく夕日が帰省を促し、連なる影が同じ場所へと向かう。

「千幸」

 ここは地元なんだけどと羞恥と戦っていると、真剣みを帯びた声で名を呼ばれる。
 はっとして小野寺を見ると、その眼差しは複雑な色合いを持って千幸を見ていた。

「な」

 に? と最後の言葉にかぶせるように影が千幸に重なる。
 かすめ取るように触れ離れていく柔らかな熱。

「また、一緒に来たい」

 その言葉の本当の意味がわかり、千幸はゆっくりと頷いた。

「一緒に帰ってきましょう」

 どちらがともなく自然と繋ぐ手の温もりに、ああ、この先もずっと一緒にいれればいいと思った。
 いつにも増して行動で示す小野寺の真意に気づき、きゅっとその手に力を込めた。

 これから両親たちに会うことを、小野寺は以前も話していたように二人の先を本気で考えている。
 軽い気持ちではないと教えられる。

 旅館に帰ると、ちょうど父親たちの手がすいた時間だったので挨拶をすることになった。
 小野寺と初対面した父親の反応はイマイチわかりにくかった。もともと顔に出にくい人で口数も多くないから、何を考えているのかわからない。

「お父さん。お付き合いさせていただいている、小野寺翔さん」
「小野寺翔です。よろしくお願いします。お酒が好きだとお聞きしまして、よろしければ」

 そう言って父親の好きな日本酒を渡した。
 ちなみに母と姉には有名店洋菓子。事前にどんなものがそれぞれ好みなのかを聞かれ、準備をしてくれた。

「ありがとうございます。よく来てくれました」

 父はその一言を返し、軽く頭を下げるだけで黙った。
 もっとほかに言葉は? とは思うけれど、穏やかな笑みを浮かべていたので悪くはない反応のはずだ。

「小野寺さん。ありがとうね。男衆は酒飲みだから嬉しいわ」
「そうそう。これ通のあいだでは結構有名ですよね。飲みたいけどなかなか手に入らないって言ってたから、喜ぶと思います」

 その分をカバーするかのように母や姉が話すのはいつものことだ。

「幸菜が結婚すると言った時も『そうか』、だけだったのよねぇ。思わずほかにかける言葉はないのかと突っ込んだら、どう接していいのかわからないって言ってたから今回も同じなのよ。父親としては娘の恋人の登場はやっぱり複雑なのかしらね。わかってあげてね。それにしてもすっごい男前でちょっとドキドキするわ」

 そう母がこそっと話してくれた。なので、父親の反応はこんなものだろう。
 姉の旦那となる礼人あやと義兄さんにも挨拶すれば、驚いたように目を見開き「モデルみたいな人だね」と苦笑していた。
 そんな義兄も整った顔立ちをしているが、それをも超える完成度の高い美貌なのが小野寺だ。

「また、後でゆっくりと」

 仕事が残っていた義兄はまだ手が離せないようだ。

「うん。また後で」
「よかった」

 そう言って、去り際ぽんっと肩を叩き嬉しそうにこちらを見た。
 千幸が家を出たことをやはり義兄なりに気にしていたのだと知れ、いろいろ伝わったようで嬉しかった。

 その夜、いよいよ義兄の家族と集まる。顔合わせの場所は、お客さんも少ないこともあって二階の奥座敷となった。
 旅館のほうはほかの従業員に任せてはいるが、お客さんもいるので何かあれば対応できるようにと旅館ですることになっている。

「…………」

 いざその時になると溜め息さえためらわれ、千幸はぐっと拳を握った。
 緊張してきたのだ。無駄に緊張する。

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