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7激甘ネジ
今思うこと①
しおりを挟む観光名所である寺院を参拝し、途中、カフェで休憩し散々歩いた足を労う。
「疲れてない?」
「大丈夫。翔さんは?」
「久しぶりに山に登った。参拝っていうからもっと軽いものだと思っていたが、結構本格的な山道でびっくりしたな」
小野寺は都会のイメージがあり山登りとは無縁そうであったが、体力があるようで終始千幸を気遣いリードしてくれた。
「ある程度整備はされているけど、足元は悪いから普段使わない筋肉を使ったかも。私も久しぶりで明日は筋肉痛になりそう」
「今夜は解したほうがいいかもな。疲れたが充実した」
「楽しかったね」
満喫してもらえたようだと知りほっと息を吐くと、二人で一つでいいかと頼んだ抹茶ケーキをフォークで切り取り、小野寺は千幸の目の前に差し出す。
黙って見つめると、ほらっとばかりにつんっと唇に当てられた。
「疲れには甘いものだ」
にやりと笑って、千幸が口を開けるのを待つ小野寺。
瞳は面白そうに煌き、それでいて期待に満ちている。これは開けるまで終わらないやつだ。
ここで断るとさらに追い打ちがきて注目を浴びそうだが、抵抗せずにはいられない。
固まり思案している際に、ウェイターと視線が合う。
やるのかなと微笑ましげな眼差しがなんとも言えない。うぅぅぅ、恥ずかしい。本当、そういうのは勘弁してほしい。
すぐさま視線を小野寺に戻すと、無言の圧。
大型ワンコが、ご主人様聞いてくれるかな、やってくれるかなと期待しながら待っている。
むっ。そんなくぅぅんと可愛く媚びた瞳をしても、あなたは大型ですからね。
夜は獣ですからね。騙されません!!
しばらくじっと拒否の意思を崩さず、わかってと視線を合わせていたが相手はやっぱり手強かった。
「……開けませんよ」
「あっ、開いたな」
しまったと思うまでもなく、すっと口に入れられる。
入れられてしまったら最後、食べるしかない。頬が火照りそうになるのを堪えながら、千幸は口を動かした。
もうっ、と睨み付けると、小野寺はふっと嬉しそうに笑う。
「翔さんっ!」
「おいしい?」
「おいしいですけど……」
──ああぁぁぁ~、もう! あま~い!!
抹茶ケーキではなくて、小野寺の眼差しがめっちゃ甘い。
その視線に耐え切れず、どんな表情をしていいのかわからず、むぅっと自然と唇が尖った。
そんな反応をしている自分を客観的にどこの乙女だと思いながらも、羞恥が薄れていく。
こんなやり取りで本当に満足そうに小野寺が笑う。
自分の反応で一喜一憂する姿を見せられると、多少の恥ずかしさはもういいかと思えてくるから不思議だ。
お返しとばかりに、フォークを奪い取りケーキを小野寺の前に突きつける。
目を見開いた小野寺が嬉しそうに口元を緩め、ためらわずにぱくっと口に入れた。
「うまい」
その際に舌をちろっと出して唇を舐め、千幸を見つめてくる。
近くに座っていた女性客が、キャッと小さな興奮の悲鳴をあげた。色気だだ漏れの小野寺に当てられたようだ。
わかります。芸能人ばりに存在感があって、無駄に色気あるんですよね。
そりゃ、見てしまいますよね。
「翔さんっ!!」
「なに?」
惚けたように首を傾げ、じぃっと見つめてくる恋人。あまりにもその双眸は強すぎた。
そんな人が舌を出して唇を舐めるって誘っているのかと眉根を寄せると、目を細めて顎に手を当て色っぽい表情で見つめてくる。
その瞳の奥に夜に見る獲物を狙った獣のような鋭さも見え隠れし……、んん~、半分くらいはその意図ありそうだなってわかってしまうのもどうなのか。
それが様になっている。様になりすぎて、ドキドキしてしまう。
獣のように求めてくる姿を知っているから想像つきすぎて、鼓動を跳ねさせている事実が悔しい。
「それわかっててやってる?」
「なにを?」
「もろもろ視線が煩いし、今のはちょっと」
「ちょっと?」
「……エロいっていうかなんていうか」
ごもごもと告げると、にんまり、それはもうにんまりと口端を引き、小野寺は軽く胸を張った。
「そう感じてくれないと困る。俺はいつでも千幸を見ていたいし、千幸に見惚れてほしい。千幸が具体的にどのことを指しているかわからないが、千幸にはエロいって感じてもらわないと困るしいいことだ」
「……そう、なんだ?……、ああぁ~。ちょっとタンマで」
わからないでもない。付き合って終わりではなく、関係を続けていく上で恋人には可愛いと思われていたいっていう気持ちは千幸にだってある。
でも、こんなに堂々と言葉にされると反応に困る。
「千幸が好きだから」
「はい」
「だから、視線が煩いのは当然だ」
「……そう」
「誘って見えるのなら嬉しい」
誇らしげに笑いこちらに手を伸ばすと、男らしく長い指で千幸の唇の端をさわさわと撫でた。
千幸はぴきりと硬直した。その間も堪能するように何度か頬を撫で、そっと千幸の手に小野寺は手を重ねてくる。
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