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7激甘ネジ

藤宮家 side翔①

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 姉の姿を見て諦めたような吐息を吐き出した千幸の気配に、翔は小さく笑った。
 すると、視線が合うと花が綻ぶかのように笑みを浮かべた彼女を見つめる。

 ──か、かわいいぃ。

 俺の彼女が可愛すぎる問題発生。
 改めてよろしくとか、本当に真面目でそれが可愛い。
 表現が不器用でわかりにくいなか小さな頭でいろいろ考えて、その上で翔とともにいることを望んでいるのが伝わってくるそれらに多幸感でいっぱいになる。

 ──ああ、ヤバイっ。

「翔さん?」
「いや、なんでもない」
「運転して疲れたかな。一度休憩しましょう」
「そんなに疲れはいないけどそうしよう」

 翔の小さな変化さえ気づいてくれることに、口元が緩みそうになってごまかすようににこっと笑みを浮かべた。

 蔑む視線からのスタート。認識されないまま年月が経ち、たくさんアプローチをしてようやくこの腕の中に抱くことを許された。
 それがどれだけ翔にとって奇跡のように尊いものか、きっと千幸はわかっていないだろう。

 その上でこの可愛さ。知れば知るほど可愛さが増している。
 恋愛というもの自体ろくにわからないまま付き合ってきた翔にとって、千幸との付き合いは初めてづくしであった。

 こんなに欲しいと思い、手に入れたらさらに大事に思う気持ち。飽きるどころか、好きが増える現象なんて本当にあるとは知らなかった。
 どんなに忙しくても顔を見るだけでその疲れが吹っ飛ぶ。

 しかも夜は艶っぽく身を任せてくれるのも、かなりくる。
 今すぐ抱きしめたい衝動を必死で堪える。夜の営みまで今思い出すものではない。

 とにかくだ。僅かに赤みを差した頬。翔を見て笑う姿が愛おしすぎて仕方ない。
 何度も言うが、自分を見て笑うって可愛すぎかっ!!

 二人でドライブしたこともそうだが、たった数十分だが千幸が地元でどんな風に過ごしてきたのか知れて楽しかった。
 照れながらも自分のすることを許容してくれて、それが特別っぽいことも知れてどれだけ浮かれているか。

 知れば知るほど、一緒にいれば一緒にいるほど満たされる。
 それらの細かな理由なんてどうでもいい。ただ、千幸が隣にいるだけで翔の心が弾むのだ。

 やり取りが終わったのだと判断した千幸の姉が、こちらのもとへと歩き出したので自分たちも足を進める。
 横で千幸がふっと吐息をつき小さく手を振った。

「さっちゃん、ただいま」
「初めまして。今日はよろしくお願いします」
「こんにちは。小野寺さんですね。初めまして、姉の幸菜さなです。ここまでよくお越しくださいました。ちーちゃんもおかえり~」
「うん。彼がお付き合いしている小野寺翔さん。車はいつものところ停めたけどよかった?」
「それでいいよ。小野寺さんも運転疲れたでしょう? ゆっくりしてくださいね」

 そう穏やかな笑みを見せながら千幸の腕をちょんと肘で叩き、「聞いてないんだけど?」「何が?」「だから、顔面偏差値よ」「何それ」とぼそぼそとやり取り。
 千幸と目元が似ている姉は、出迎えてくれる声もどことなく似ていた。だが、千幸より饒舌でテンポも早く明るい感じだ。

 ちらりと翔を見ると「どこでこんなイケメン捕まえたの~? 聞いてないし、これだけの美形なら先に心の準備させてほしかったわ」と、とても楽しそうに千幸を揶揄している。
 自由そうなこの姉を見ていると、なんとなく千幸が落ち着いた感じになったは納得だと、電話の気楽で仲よさそうなやり取りを思い出し微笑ましく感じる。

「お招きいただきありがとうございます。部屋もとっていただき、ありがとうございます」
「いえ。大したおもてなしはできませんが、観光地でもあるのでのんびりしていってください」

 話しかけるとさすが次期女将。すっと背筋を伸ばして笑顔が返ってきた。
 それに「ありがとうございます」と返していると、フロントの奥から年上の女性が出てきた。
 こちらは千幸と耳と口元が似ている。年齢からして彼女の母親だろうか。

「こんにちは。よく来てくださいました。千幸の母です。千幸もおかえり。五階の端の部屋押さえたから案内して。あなたもそこに泊まるでしょ?」
「うん。そのつもり。あと、こちらがお付き合いしている小野寺翔さん」
「小野寺翔です。よろしくお願いします」
「はい。こちらこそよろしくお願いします。男衆は今手が離せないので、晩になったら顔を合わせることになると思います。娯楽は少ないところですがのんびりとしたいいところですので、それまでゆっくりしていってください」
「はい。ありがとうございます」

 小野寺がにこっと笑みを浮かべ頷くと、それをじっと見ていた千幸の姉がまたこそこそっと千幸に耳打ちする。

「ち~ちゃん。めっちゃ格好いい人だね。やっばいわぁ。これは噂になるかもね。また夜いろいろ聞かせて」
「……まあ、ほどほどに」

 げっ、と嫌そうに眉をしかめながらも、いつもの姉妹のやり取りなのかくすりと笑うリラックスした千幸の姿に、ああ、ここで、この人たちがいるところで育ったのだと実感する。
 さばさばっとしているが温もりを感じられた。

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