126 / 143
7激甘ネジ
藤宮家 side翔①
しおりを挟む姉の姿を見て諦めたような吐息を吐き出した千幸の気配に、翔は小さく笑った。
すると、視線が合うと花が綻ぶかのように笑みを浮かべた彼女を見つめる。
──か、かわいいぃ。
俺の彼女が可愛すぎる問題発生。
改めてよろしくとか、本当に真面目でそれが可愛い。
表現が不器用でわかりにくいなか小さな頭でいろいろ考えて、その上で翔とともにいることを望んでいるのが伝わってくるそれらに多幸感でいっぱいになる。
──ああ、ヤバイっ。
「翔さん?」
「いや、なんでもない」
「運転して疲れたかな。一度休憩しましょう」
「そんなに疲れはいないけどそうしよう」
翔の小さな変化さえ気づいてくれることに、口元が緩みそうになってごまかすようににこっと笑みを浮かべた。
蔑む視線からのスタート。認識されないまま年月が経ち、たくさんアプローチをしてようやくこの腕の中に抱くことを許された。
それがどれだけ翔にとって奇跡のように尊いものか、きっと千幸はわかっていないだろう。
その上でこの可愛さ。知れば知るほど可愛さが増している。
恋愛というもの自体ろくにわからないまま付き合ってきた翔にとって、千幸との付き合いは初めてづくしであった。
こんなに欲しいと思い、手に入れたらさらに大事に思う気持ち。飽きるどころか、好きが増える現象なんて本当にあるとは知らなかった。
どんなに忙しくても顔を見るだけでその疲れが吹っ飛ぶ。
しかも夜は艶っぽく身を任せてくれるのも、かなりくる。
今すぐ抱きしめたい衝動を必死で堪える。夜の営みまで今思い出すものではない。
とにかくだ。僅かに赤みを差した頬。翔を見て笑う姿が愛おしすぎて仕方ない。
何度も言うが、自分を見て笑うって可愛すぎかっ!!
二人でドライブしたこともそうだが、たった数十分だが千幸が地元でどんな風に過ごしてきたのか知れて楽しかった。
照れながらも自分のすることを許容してくれて、それが特別っぽいことも知れてどれだけ浮かれているか。
知れば知るほど、一緒にいれば一緒にいるほど満たされる。
それらの細かな理由なんてどうでもいい。ただ、千幸が隣にいるだけで翔の心が弾むのだ。
やり取りが終わったのだと判断した千幸の姉が、こちらのもとへと歩き出したので自分たちも足を進める。
横で千幸がふっと吐息をつき小さく手を振った。
「さっちゃん、ただいま」
「初めまして。今日はよろしくお願いします」
「こんにちは。小野寺さんですね。初めまして、姉の幸菜です。ここまでよくお越しくださいました。ちーちゃんもおかえり~」
「うん。彼がお付き合いしている小野寺翔さん。車はいつものところ停めたけどよかった?」
「それでいいよ。小野寺さんも運転疲れたでしょう? ゆっくりしてくださいね」
そう穏やかな笑みを見せながら千幸の腕をちょんと肘で叩き、「聞いてないんだけど?」「何が?」「だから、顔面偏差値よ」「何それ」とぼそぼそとやり取り。
千幸と目元が似ている姉は、出迎えてくれる声もどことなく似ていた。だが、千幸より饒舌でテンポも早く明るい感じだ。
ちらりと翔を見ると「どこでこんなイケメン捕まえたの~? 聞いてないし、これだけの美形なら先に心の準備させてほしかったわ」と、とても楽しそうに千幸を揶揄している。
自由そうなこの姉を見ていると、なんとなく千幸が落ち着いた感じになったは納得だと、電話の気楽で仲よさそうなやり取りを思い出し微笑ましく感じる。
「お招きいただきありがとうございます。部屋もとっていただき、ありがとうございます」
「いえ。大したおもてなしはできませんが、観光地でもあるのでのんびりしていってください」
話しかけるとさすが次期女将。すっと背筋を伸ばして笑顔が返ってきた。
それに「ありがとうございます」と返していると、フロントの奥から年上の女性が出てきた。
こちらは千幸と耳と口元が似ている。年齢からして彼女の母親だろうか。
「こんにちは。よく来てくださいました。千幸の母です。千幸もおかえり。五階の端の部屋押さえたから案内して。あなたもそこに泊まるでしょ?」
「うん。そのつもり。あと、こちらがお付き合いしている小野寺翔さん」
「小野寺翔です。よろしくお願いします」
「はい。こちらこそよろしくお願いします。男衆は今手が離せないので、晩になったら顔を合わせることになると思います。娯楽は少ないところですがのんびりとしたいいところですので、それまでゆっくりしていってください」
「はい。ありがとうございます」
小野寺がにこっと笑みを浮かべ頷くと、それをじっと見ていた千幸の姉がまたこそこそっと千幸に耳打ちする。
「ち~ちゃん。めっちゃ格好いい人だね。やっばいわぁ。これは噂になるかもね。また夜いろいろ聞かせて」
「……まあ、ほどほどに」
げっ、と嫌そうに眉をしかめながらも、いつもの姉妹のやり取りなのかくすりと笑うリラックスした千幸の姿に、ああ、ここで、この人たちがいるところで育ったのだと実感する。
さばさばっとしているが温もりを感じられた。
24
お気に入りに追加
222
あなたにおすすめの小説
【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜
湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」
30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。
一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。
「ねぇ。酔っちゃったの………
………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」
一夜のアバンチュールの筈だった。
運命とは時に残酷で甘い………
羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。
覗いて行きませんか?
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
・R18の話には※をつけます。
・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。
・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。
あまやかしても、いいですか?
藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。
「俺ね、ダメなんだ」
「あーもう、キスしたい」
「それこそだめです」
甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の
契約結婚生活とはこれいかに。
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
助けてください!エリート年下上司が、地味な私への溺愛を隠してくれません
和泉杏咲
恋愛
両片思いの2人。「年下上司なんてありえない!」 「できない年上部下なんてまっぴらだ」そんな2人は、どうやって結ばれる?
「年下上司なんてありえない!」
「こっちこそ、できない年上の部下なんてまっぴらだ」
思えば、私とあいつは初対面から相性最悪だった!
人材業界へと転職した高井綾香。
そこで彼女を待ち受けていたのは、エリート街道まっしぐらの上司、加藤涼介からの厳しい言葉の数々。
綾香は年下の涼介に対し、常に反発を繰り返していた。
ところが、ある時自分のミスを助けてくれた涼介が気になるように……?
「あの……私なんで、壁ドンされてるんですか?」
「ほら、やってみなよ、体で俺を誘惑するんだよね?」
「はあ!?誘惑!?」
「取引先を陥落させた技、僕にやってみなよ」
【R18】鬼上司は今日も私に甘くない
白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。
逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー
法人営業部メンバー
鈴木梨沙:28歳
高濱暁人:35歳、法人営業部部長
相良くん:25歳、唯一の年下くん
久野さん:29歳、一個上の優しい先輩
藍沢さん:31歳、チーフ
武田さん:36歳、課長
加藤さん:30歳、法人営業部事務
鬼上司は間抜けな私がお好きです
碧井夢夏
恋愛
れいわ紡績に就職した新入社員、花森沙穂(はなもりさほ)は社内でも評判の鬼上司、東御八雲(とうみやくも)のサポートに配属させられる。
ドジな花森は何度も東御の前で失敗ばかり。ところが、人造人間と噂されていた東御が初めて楽しそうにしたのは花森がやらかした時で・・。
孤高の人、東御八雲はなんと間抜けフェチだった?!
その上、育ちが特殊らしい雰囲気で・・。
ハイスペック超人と口だけの間抜け女子による上司と部下のラブコメ。
久しぶりにコメディ×溺愛を書きたくなりましたので、ゆるーく連載します。
会話劇ベースに、コミカル、ときどき、たっぷりと甘く深い愛のお話。
「めちゃコミック恋愛漫画原作賞」優秀作品に選んでいただきました。
※大人ラブです。R15相当。
表紙画像はMidjourneyで生成しました。
地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!
めーぷる
恋愛
見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。
秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。
呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――
地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。
ちょっとだけ三角関係もあるかも?
・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。
・毎日11時に投稿予定です。
・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。
・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。
イケメンエリート軍団の籠の中
便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある
IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC”
謎多き噂の飛び交う外資系一流企業
日本内外のイケメンエリートが
集まる男のみの会社
唯一の女子、受付兼秘書係が定年退職となり
女子社員募集要項がネットを賑わした
1名の採用に300人以上が殺到する
松村舞衣(24歳)
友達につき合って応募しただけなのに
何故かその超難関を突破する
凪さん、映司さん、謙人さん、
トオルさん、ジャスティン
イケメンでエリートで華麗なる超一流の人々
でも、なんか、なんだか、息苦しい~~
イケメンエリート軍団の鳥かごの中に
私、飼われてしまったみたい…
「俺がお前に極上の恋愛を教えてやる
他の奴とか? そんなの無視すればいいんだよ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる