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7激甘ネジ

それは過去という名の③

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「なにか、すみません」
「それは何に対しての謝罪?」

 そこでむっと小野寺が眉を寄せる。
 不機嫌だと隠しもしないその表情に、言葉が足りなかったかと慌てて千幸は言葉を重ねた。

「こんな話をして、ですかね?」
「別にそれくらいで謝罪することじゃないだろう? むしろ千幸が話してくれて嬉しい」

 嬉しいといいながら、難しい顔をしている自覚ないのだろうか。
 嫉妬を隠しきれないそれに、悪いなと思いながらも喜んでしまっている自分もいて、やっぱり申し訳ない気持ちが強くなる

「だって、そんな状況ですよ? 本当はこんな形ではなくて普通に彼氏連れてきたよってくらいがいいなって。でも、今回のは紹介といってもこっちの事情に巻き込んでますし」
「巻き込まれたなんて思わない。むしろ、そこで何も言われなかったらもっとショックだ」
「それならよかったんですが。私的に悪いなって思うっていうか。単にいろいろ聞かれる前に紹介しておこうっていう気持ちが純粋じゃないみたいな?」

 あと、口に出すことはできないが、やっぱり元彼の話は申し訳ない。
 逆だったらあまり聞きたくない話だ。

「そうか? むしろそんな大事な集まりに俺を連れて行こうと思ってくれたことのほうが嬉しい」
「本当ですか?」
「ああ。家族に紹介してくれるということは、千幸なりに先を考えてなのだろう?」
「そうですね。ゆくゆくは同棲の話もありますし、その時にスムーズになるように紹介しておきたいです」

 真剣だからこそ、家族にこのタイミングで誤魔化すことをしたくない。

「考えてくれてるんだな」
「もちろんです。翔さんと付き合ってるのは私です。二人にとって良いと思える環境にしたいと思ってます」
「そういう真面目なところが好きだ」
「ああ~、はい……」

 急にぶっこまないでほしい。びっくりしてうまく返せなかった。
 そんな反応でさえも、微笑ましげに眺められるものだから気恥ずかしくて視線を合わせていられない。
 そわそわっとして落ち着かないので一度視線を外そうとすると、その前に小野寺が続ける。

「それで真面目な千幸が両家の顔合わせのような大事な場所に、俺を連れて行ってもいいのかと気になってるんだが」
「……? ああ~、なるほど。そっか。説明不足でした。集まりと言ってももともと知っている付き合いですし、久しぶりだから全員集合~で楽しく騒ぎましょうって感じです」
「なら問題ないんだな?」
「はい。その辺は大丈夫です。だからこそ、姉も彼氏連れてきたらって言い出したんだと思うし。言い出した姉は当然ですが、きっと翔さんだったら母たちも大喜びしそうだし」

 忘れているわけではないが、美貌だけでいうと本当にそこらへんでお目にかかれないくらいの人なのだ。
 その上、起業家。自分の会社の社長よりもさらに上にいる立場。
 その辺りも、そういった話が好きな人たちなので絶対キャッキャッと興奮気味にいろいろ言われる。

「なら、千幸も俺にそんなにいろいろ気を使わなくてもいい」
「ありがとうございます。正直、もろもろの関係を思うと相手とは気まずくはなりたくないんで、さらっといきたいんです。久しぶり~、二人結婚したね~くらいな感じが理想なんですけど、実際のところわからないというか。翔さんいてくれるとそっちの方向に持っていきやすいですし、いてくれて助かるので私ばかりが得だなって」
「恋人なんだから、それくらい普通だろ?」

 さも当たり前のように言われて、千幸の心は軽くなる。
 逆だったら、すっごい緊張しそうな案件も泰然と受け止められて心強い。

「翔さんが恋人で本当によかったです」

 そう告げると、ふっと和らぐ小野寺の表情。
 ああ、嬉しいんだなって思うとこっちまで嬉しくなる。

「ああ、俺は毎日噛みしめている」
「また、そんなことを……」

 恥じらいもなく告げる相手は、常に甘さを乗せていることは無意識だろうか。
 それにここ最近煽られっぱなしなのは内緒にしておきたい。

「照れてる?」
「照れてません!」
「ふっ。可愛いな」

 しみじみと言われ、ぼっと熱くなる。
 しっかりとバレているようだ。知らないとそっぽを向くと、「耳が赤い」と指の背で撫でられる。

「ちょっ、こそばゆいです」
「感じてるのではなくて?」

 ぽそっと声を低め告げられる。

「違います」

 絶対、狙ってるだろうそれに千幸は反応してなるものかと、キッ、と睨んだが、小野寺はそれさえも「可愛いな」と笑う。
 好きを自覚してから、いろんなところに目がいきそのたびに感心する。

 もう、たまにくる緩ネジのポンコツ具合さえも短所とは思えなくなるくらい、それを含めて小野寺翔という人物だと認めるくらい好きになっている。
 そんな相手が千幸のことをものすごく好きでいてくれて、好きを返せるこの状況は幸せ以外のなにものでもない。

 その事実が嬉しくて、千幸は観念して笑みを浮かべた。
 にこにこと自分でもびっくりするくらい、口元が緩む。

 ──なんで、こんなに愛おしいと思うのだろう……

 基本は頼りになってスペック高い大人の男なのに、変だと思うことも多々あったりするのに、すごく可愛いと、愛おしいと思うことが増えすぎて困る。
 そんなことは今までの付き合いで感じたことがなかった感情だった。

「ね、千幸」

 今度は耳元でささやかれ、千幸は咄嗟に耳を塞いで隠した。
 耳でも右耳のほうが敏感なのが知られているだろう攻撃に、恨めしく思い咎める。弱点を攻めてくるなんてせこいっ!!

「翔さん!」
「ごめん。だって、千幸が可愛いから止められなくって」
「もう、そういうのばかり」
「仕方がないな」

 ふっと苦笑とともにそう告げる小野寺は、優しく千幸の頬をまた撫でた。
 くすぐったくて目を細めると、じっと見つめる榛色の双眸は仕草ほど穏やかでないことを知らされる。

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