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6緩甘ネジ
ポンコツなイケメン⑥
しおりを挟む「千幸」
いや、嬉しそうにこっち見ないでくれませんか? ここでこちらが求めているのは反省です。
「そういうことは人に言うものではないです」
顔が熱いまま抗議で口を開くと、それさえも愛おしそうな眼差しで受け止められる。
「わかってる。普段は言わない。可愛らしすぎる千幸のことは俺だけがわかっていたらいいからな。だが、桜田が先に突っかかってきたし、千幸は完全に俺のモノだと言っておかないと」
わかっていて何よりだが、あえて言ったと。つまり牽制も入っていると?
いや、もう恥ずかしい以外の何もない。視線が常に甘ったるい。
あと、恥ずかしいのでそろそろ降ろしてほしい。そう告げると、ふっと笑みを浮かべ却下される。
「俺のせいだし、今日はゆっくりして」
ゆっくりして、じゃないから。こんな状況でゆっくりなんてできない。
それでもって、隣に行くことは決定でこの後プレゼンはしっかり行われるのだろう。
笑顔に騙されがちだが決めたことの実行力半端ない。
そこで我に返った桜田が、それそれそれ~っと興奮する。
「その顔……、ホント誰? 前から思ってたけど、千幸ちゃんに対してしまりなさすぎ。私の知っているクールな翔はどこに行ったのかしら? やっぱりもどきよ。もどき~」
「うるさいな」
「いや、ちょっとそれ自覚ないの? そんな甘ったるい顔してるの見せられて、目が飛び出てコロンコロンするところだったからね。すっごく眠かったのに、その眠気飛んでったから」
何度か長い睫をぱちぱちと瞬きをして、桜田は肩にある髪を後ろに流した。
その姿も板についているけれど、桜田は男性だ。わかっていても女性にしか見えないから不思議な気分になる。
「意味がわからない」
「いやいや、違うでしょ。そんな反応今まで見たことないからね。こっちまで牽制するとか。そもそも執着見せる自体が初めてだけど、もっとさらっとしていたというか、冷めてたというか。その美貌と相まって、密かに怖って思ってたからね。友人じゃなかったら、冷血マンって呼んでたと思うくらい酷かったからね。今は逆の意味で怖いからね」
「朝からテンション高いな」
「誰が高くさせてるのよっ! 本当、マジで誰って感じなんだけど? デレすぎじゃない?」
「そうか?」
千幸はそっと小野寺を見た。
すると、待っていたとばかりに絡まる視線。目元を緩めてやわらぐ美貌。
確かに甘いとは思うが、わりかた出会ってからこんな感じだった。
行動や言動には驚きっぱなしであったが、少なくともその美貌と表情を怖いと思うことはなかった。
「ああ、うんわかった。これは仕方がないってことね」
「そうだ。千幸の前だけだから問題はない」
「割り切りすぎ。確信犯。やっぱりそういうところは翔って感じ」
「お前の前だからだろ?」
「ああ、はいはい。あえて見せつけてるってわけね。翔の大事な人ってわかったから。まあ、そういうのも含めてってことね。ということで千幸ちゃん」
そこで名前を呼ばれ視線をやれば、ふふっと妖艶に微笑まれる。
意味深な笑みに千幸が警戒すると、さらに桜田は笑みを深くした。
「何でしょうか?」
会話してるけど、いまだに抱っこされたままなので本当に恥ずかしい。降ろしてくれないならもう中に入りたい。
それを視線で伝えてみるが、小さく肩を竦められる。
「ふふっ。もうちょっと我慢してね~。これで最後にするから」
「……わかりました」
「では、改めて。翔のこの姿は千幸ちゃん限定ってことで、返品不可だから責任とって最後まで見てやってねと言いたくなった」
「……どういう意味ですか?」
そこで小野寺もうんうんと頷いている。返品ってモノ扱いみたいなのは気にしないんですかね?
「そのままの意味。千幸ちゃんの前だけポンコツになるみたいだから、そうさせたのは千幸ちゃん。受け入れたのも千幸ちゃんっていう意味」
「そう言われても」
困る。桜田の言うポンコツ具合は私の責任ではない。小野寺の資質だ。
「いい買い物だと思うわよ~。車で例えると高級車。乗り心地もバッチリ。有能でございます。ただただ、千幸ちゃんの前でポンコツになるだけで。もうこうなったら、ガソリンとなる千幸ちゃんいないと走らないだろうし、たまにポンコツになるくらいは受け入れてねって話」
「ポンコツ……はちょっと」
「そう? 限定なら可愛いものじゃない」
そうなのかな?
ニマニマと告げられて、彼氏をポンコツ扱いされて、その本人は非常に満足そうという。
それでいいのか?
イケメンなのに、それなりのものを持っている人なのに、思考回路はポンコツなのだと、それも自分限定だと彼のことをよく知る友人に言われて複雑すぎる。
「千幸、よろしく」
そこでぺこっと頭を下げる恋人。
本当、それでいいの? やっぱりネジのつき方おかしいって。
「千幸ちゃん、よろしくね~。何かあれば言ってね。たま~になら、ポンコツメンテ手伝うから」
「桜田は入ってこなくていい」
「駄目だって。ビックリ桃の木、小野寺翔だよ。ぜったい、私たちがいてよかったってなるから。友人の好意は受け取っておいたら~。ということで、千幸ちゃん、そこのポンコツイケメンをよろしくね~」
朗らかにそう締めくくると、「ふわぁ~、眠。一周回ってまた眠くなってきた~」とあくびをしながら自室へと歩き出した。
カツン、カツンとパンプスを鳴らし、優雅に歩く。最後にひらひらと手を振り、桜田はあっさりと中へと入っていった。
自由だ。友人も友人だ。類は友を呼ぶ。マイペースもいいところだ。
結局、その日は何度かの応酬を得てやっと降ろしてもらい、小野寺のプレゼンを聞きながら、これからそのポンコツネジのつき方、締め方を考えていかなければと、深々と淡い息を吐き出した。
いつもお付き合いありがとうございます。
ようやく心身ともに二人は結ばれました。微妙に変なのでなんか長かったww
まとまりつつありますが、やはり千幸のあの部分に触れなければ話は終わらないので、あともう少しお付き合いしていただけたらと思います。
完結まではあと一ネジ。激甘ネジです。
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