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6緩甘ネジ
ポンコツなイケメン④
しおりを挟む「なら、いい?」
「……っ悪くはないですが、そんなに焦らなくてもいいとは」
「焦ってるわけではないけど、俺の癒やしのために千幸がそばにいてほしい。隣にいてほしい。知れば知るほど、もっと知りたい。少しでも長く一緒にいたい。俺が思っていたよりも考えていたよりも、俺は千幸が欲しいってわかったから」
ドヤッと誇らしげに告げられる。
魅惑的な瞳が自信満々に千幸だけを映す。
説明してくれるのだが、次から次へと出てくる新事実と一緒に住む未来しか考えていないだろう言葉の数々に、これはどこから切り崩すべきかと考える。
小野寺は小野寺であることをものすごく実感。
当初のマンションの隣から始まり、出待ちなどをいろいろ思い出し、この展開もらしいといえばらしいと納得。
強引で、それを許されるものを持っていて、そこに気持ちもあって。
千幸への想いがあるのを知っているから、困る。
んーっと難しい顔をしていると、眉尻を下げて小野寺が覗き込んでくる。
それでいて、どこか楽しげな色を滲ませた低音で提案してきた。
「今すぐとは言わない。でも、ゆくゆくは、ね?」
訴える作戦に出た小野寺は、千幸の手を掴むとそっとその上に二つのキーを置き握りしめてきた。
その小さな重みが、自分たちの未来を告げる。
受け取ってしまったら、きっと小野寺が言うようにゆくゆくはそうなるのだろう。
──ああ、ダメだ。また流されてしまう……
流されてしまうことが心地よいと思ってしまっている。
小野寺から向けられる思慕がしっかり伝わり、それを受け止めたいと心が言っている。
それに付け加えるなら、隣も一緒に住むのももう変わらないのかなっと。食事はたまに一緒にしてたし……、と。
情動感染。
それでもいいと思える相手だから、気持ちが動く。
前彼との同姓は、こういった気持ちとは別に千幸にもちょっと打算的な都合があった。遊川は千幸の都合を知った上で、誘ってくれた。
それに甘えたずるい自分も理解しているからこそ、小野寺とは踏みこみ方が違う分、しっかりと気持ちが乗った時に動きたい。
流されたいけど、ここまで想ってくれている相手だからこそ気持ちをもっと乗せて返したい。
必死な小野寺と自分の思考に耐え切れず、千幸はふっと吹き出した。
「……そうですね。ゆくゆくでいいのなら」
こんなにも度々甘くなる空気は本当は恥ずかしい。
それに自分が甘えたように告げていることは憤死ものだったりする。恥ずかしさで首元にじわっと熱気がこもる。
けど、それで幸せそうに擦り寄り微笑む恋人の姿を見せられたら、もう、いいかと思ってしまう。
本当、無駄に熱い。
「千幸、受け取ってくれてありがとう。これからもよろしく」
「はい。よろしくお願いします」
頷き握られた手を軽く握り返すと、鍵の形が、角が手のひらに触れる。
小野寺の手から、自分へ。
自由に出入りしていいという証。それは信頼なのだと思うと、心臓がせわしなくなった。
トクトクトクッと早る心臓に戸惑いながらそっと様子を窺うと、途端にふにゃっと顔を緩める小野寺。
ほっとしたとばかりに、ずいぶんと締まりのない顔を見せる。
「っはぁぁぁっ。よかった。本当緊張した~」
そして息を盛大に吐き出し、甘えるように肩に顔を預けられる。
小野寺の髪から千幸が使っているシャンプーの匂いが香り、くすぐる毛先とその事実の両方がこそばゆい。
「そうは見えませんでしたけど?」
「本当? 受け取ってくれるかどうかすごく緊張したんだが?」
「あれでですか?」
その割にはずいぶんと主張が激しかった気がする。怪訝に思いじっと見つめる。
意志の強い整った眼差しに緊張のきの字も見えない。
「千幸は俺のこの気持ちを甘く見すぎだ」
「そんなことはないと思いますけど……」
甘く見たことなんてない。最初が最初だったし。規格外なのは認識している。
あと、いろいろ驚かされてばかりで、常に思考はフル稼働していて緩む隙がなくてかなりエネルギーを使った気がする。
小野寺の思いも、自分の気持ちも、実感したからこそ一緒に朝を迎えたのだから気持ちに疑いなんてない。
自分で言うと自惚れになってしまうが、好かれていることはわかっている。
「いいや。まだ足りてない。千幸に関わることは鼓動が早まるのをいつも止められない。だから、鍵だけに関わらずいろんなものを受け取ってくれてありがとう」
そんなことを告げながら、すりすりと肩に頭を擦り付け笑いながら戯れるようにキスの雨を顔中に降らせる。
その際に、密かに恥ずかしくて熱くなっている首元とかにも愛おしそうに口づけられた。
掠める唇から吸い付くようにわざと音を立てられ、ぞわぞわと肌が粟立つ。
熱くなっているのも、この空気も、さりげなく言われる言葉も、何もかもこそばゆい。
言葉を返せずにいる千幸に構わず、小野寺は続ける。
「大事にするから、千幸の時間を独占させて」
そこで、ふっ、と笑った小野寺の表情と言葉に心臓が跳ねる。
瞳を見返すと、きらめく星でも見ているかのように眩しそうにこちらを見ていた。そのまま甘く低く呼ばれる。
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