ただ、隣にいたいだけ~隣人はどうやら微妙にネジが外れているようです~

Ayari(橋本彩里)

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6緩甘ネジ

好き、だから side翔⑥

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 ほら、すっごく可愛い。
 そして、その言葉が翔にとってどれだけの影響力があるのかわかっているようでわかっていない千幸は翔の獲物。

「ああ。千幸だけを見ている」

 ずっと見ている。だから、触れさせて。
 すべてを余すことなく自分で埋めたいんだ。

 優しく唇に触れる。
 何度も何度も、愛おしい気持ちが伝わるようにキスを落とす。
 止まらない漏れ出す思いをこうやって少しずつでも向けないと爆発する。

 好き。
 愛したい。
 ──貪り尽くしたい。

「…………千幸が欲しい」

 漏れ出す思いが吐息とともに言葉になった。
 そのことに自分でもびっくりして一度止まり千幸を見ると、目の前ではぽかんと口を開けて目を見張る千幸の姿にやらかしたことを知る。

 必死すぎた。
 切実すぎた。
 それが届いてしまった。

 願いが届けとばかりに掠れた声に、どれだけ必死なんだと自分でおかしくなる。
 それと同時にそんな自分を知られても、きっと千幸は受け入れてくれるとどこかで信じている。
 
 それだけ千幸に満たされた。満たされている。もっと満たしたい。
 だから、気にせずキスを続ける。
 すると、くすりと笑んだ千幸が「この体勢、苦しいんですが」と続けることを許してくれる。

 すぐさま千幸のほうに回り込み、彼女の腰を抱えソファへと誘導する。
 寝室へと行きたかったがあからさま過ぎて引かれるのは嫌だ。でも、期待は止まらず許しを請う。

「千幸を食べてもいい?」

 その間、ずっとキスは止まらない。
 何かをしていないと、小出しにしていないと、いろいろイッパイ過ぎて溢れ出て部屋全体を埋めてしまいそうな衝動のコントロールが効かなくなりそうで。

「……今日は汗をかいたので、シャワーを浴びてから」
「わかった。一緒にはい」
「入りません」

 すかさず断られたけれど、そんなことで諦めない。

「待てな」
「待ってください」
「千幸の汗なんて気にならないのに」
「私が気になります」

 気にしなくていいのに。
 千幸は遠慮しいだな。

「ええー。おいし」
「それ以上、変なこというと知りませんよ」
「むー」
「むーじゃないです。それに改まると緊張とか気持ちとか作りたいというか。逃げないので」
「んー」

 そこまで言わせて、待てないなんて格好悪いことはできない。
 この愛おしさと欲望が混ざり合い膨れ上がった衝動を、少しでも落ち着かせるためにまた千幸にキスをした。

「っっん、…ふっ、ん」

 漏れる千幸の甘い吐息。
 深く、深く、深く混ざり合いたい。
 その気持ちが届けとばかりに、キスが止められない。

 どうしてこんなにも触れていたいのか。少しでも離れるのが嫌だとばかりに、千幸を求めてしまう。
 角度を変え、深さを変え、ときおり千幸のとろんとした表情を見ながら堪能し、しぶしぶ千幸から離れた。

「仕方がない。待ってる」
「……こんなキスしといて、仕方がないとか」
「オレ、ココデトメタ。エライ」
「片言とか意味わかりません」
「ごめん。千幸。俺余裕ない。早く千幸を俺色に染めたくて仕方がないんだ。だから、シャワー浴びるなら行ってきて。待ってるから」

 本当、無理だ。
 気を紛らわすのも限界で、千幸が欲しい、それだけでどうにかなりそうだ。

「……っ、わかりました」
「うん。ありがとう」
「さっきから……」
「何?」
「染めたいとか、言動とか、何か必死というか」
「ダメ?」
「恥ずかしいです」

 もっと恥ずかしがって。
 もっともっと俺でいっぱいになって。

「でも、本気で今千幸が欲しい。もう待てないから、早く俺色に染めさせて」
「っっ、だから!!」
「千幸」

 軽口でなんとか気持ちを抑えているが、イッパイイッパイ。
 好きすぎて、触れたすぎて、そんな千幸が目の前で話していて。触れることができて。

「……わかりました。だから、そんな顔しないでください」
「どんな顔?」
「焦りというか、不安そうな感じです」
「そんな顔してる?」
「そうですね。まあ、えっと、翔さんの色に染まるの嫌じゃないんで、あの、とりあえず待っててください! ていうか、恥ずかしいっ」

 そういうと、顔を赤くした千幸はパタパタとその場から逃げていった。

「……っマジか」

 今日はなに? 
 ご褒美の日?
 千幸が俺に甘い。優しい。

 そして、そうさせたのは俺。
 それは良い意味でも情けない意味でもだが、どんな俺でも染めていいと言われているようで、落ち着かせるように髪をかき上げた。

 大きく熱い吐息を吐き出す。
 かすかに聞こえるシャワーの音にずくりと衝動がまた膨れ上がる。

「手加減、できそうにないな……」

 壊したくない。大事にしたい。だけど、それと同じくらいの熱量で千幸を求めている。
 すべて埋め尽くしたい、と。我慢ができない、と。
 焦がれてきた時間の分だけ、千幸を前にして自分がどうなるかなんてわからない変な自信があった。

 漏れる水音の方をじっと見つめ、意識してゆったりと息を吐く。
 これからを思うと期待ばかりが膨らみ、それとともに己の行動に不安を覚え手が震える。

 大事にするから、甘く蕩けさすから、どんな俺でも……

「俺だけを、俺だけに染まって」

 そう独りごち、ゆらりと立ち上がった。


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