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6緩甘ネジ

好き、だから side翔⑤

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「どうしようか? 俺は千幸が好きすぎるんだが?」
「そんなことを言われても……」
「今さら?」
「……そういうわけではないんですが、急に甘さが増してちょっと」
「ちょっと何?」

 吹き込むように訊ねる。
 触れる感触を楽しみながら、そっと千幸の頭を撫でた。

「…………恥かしい」

 すると、そう言って顔を両手で覆ってしまう千幸の姿に思わず頭上にキスをする。

 ──何それ。すっごく可愛い。

 可愛い過ぎる。愛おし過ぎる。
 普段が普段だからか、余計に溢れる思いが止められない。

 どこまでも丁寧に拾い上げて、翔の不安を取り除こうと、もどかしさを詰めようとするその行動にずくりと衝動が湧き上がる。
 そっとその両手を外させて、さらに顔を近づけた。

「へえ」

 そう相槌を打ちながらも、どう千幸を絡め取るかに思考が持っていかれる。
 もっと触れたい。その思いとともにキスをしようと千幸の顎に手をかけると、そこでキッと睨まれた。

「翔さん。話は終わってないと思いますが?」
「千幸の想いは伝わった。伝えてもらった。……キスしたい」
「ちょっとタンマです」
「ええ~。無理。千幸を好きになって、自覚して、やっと付き合えて、そして今とっても満たされてる。この気持ちのままキスしたい」

 覗き込むように告げると、手に伝わる体温がわずかに上がった。
 
「ちょっ、伝わっていることはいいんですけど、やっぱりストップです。この際だから話せるとこまで話しておかないとと思いまして」
「まだあるの? 俺は千幸に触れたくて仕方がないんだけど」
「今、触れてますよね?」
「足りない。嫌?」

 そっけなくても耳が赤い。
 そして、伝わってよかったと優しい眼差しは逸らされないままで、彼女のそんな反応に愛しさが募るばかりだ。

「ああ~、その聞き方ずるいです。誤解しないでください。私だって触れてほしくないわけではないんですけど、もうちょっと話をつけておきたいと思って」
「何を?」
「茶碗の話です」
「あれ? もう終わったと思うけど」

 もう、少しでも早く千幸に触れたい。
 奥底まで刻み付けたい。

「いえ、終わってないと思います。二人の方向性? の話は多分これで今はいいと思います。言いたいこと伝わったようですし、翔さんがすごく楽しそうなので私も満足というか」
「そうだな。千幸の愛おしさが増した」
「ああ~。そのいつもいつも口説くのなんとかなりませんか?」
「無理だ」

 無理に決まっている。
 会うたびに千幸に触れるたびに好きが増すのだから、言葉に出して吐き出さないと自分でもどうなるかわからない。
 そう思いじっと見つめると、千幸はふっと諦めの吐息を吐き出した。

「……わかりました。もう、今はいいです。茶碗の話に戻します。さっきの状況と普段の行動を思うとこのまま流されるのはダメだって私のセンサーが言ってます」
「センサーって?」

 なんか可愛いこと言っている。

「勘みたいなものです。元凶の話はあやふやというのはまずい気がして。そもそもなぜそこからこんな話になったっていう感じはしますけど、結果オーライ? なのかな。とにかく、またよくわからない理由で茶碗と睨めっこされても困るし」
「もうしない。……多分」

 あれだけ俺を褒めてくれたのだからしないと思うが、言い切れない。
 やっぱり、自分よりも茶碗のほうがここにあると思うと何だか嫌だ。

「多分ってなんですか?」

 じとっと呆れたような眼差しを向けられたが、それも彼女らしくて嬉しくなる。
 仕方がないとばかりのその態度に、この会話に、自分のことを結構理解してくれているようだとにこっと笑うと、千幸の眉間にしわが寄った。

「千幸が気に入った茶碗のほうがここにいる時間が長いって、やっぱり悔しいだろ?」

 詰まるところ、 ほかの誰でもなく物でもなく、『自分』 が少しでも千幸のそばにいたい。
 流さず突き詰めてくれるのは、こんな気持ちさえも晒していいのだと言われているよう。

 千幸はきっとそんなつもりはなかっただろうが、小さなことも拾われて顔が緩む。
 嬉しすぎてにこにこと告げると、心のそこから長い息を吐き出した千幸がちらりと上目遣いで翔を見てまた溜め息をついた。

 まだ、ずっと顎を固定しているから必然的にそうなるのだが、離せと言われていないのでまたにこにこと彼女を間近で見つめる。
 少し頭を下げるだけで吐息がかかるほどの距離。それらを許されている。
 その事実にまたほかほかして、今夜はもう離れられないのだろうと彼女の柔らかな唇をじっと見た。

 ──ああ、触りたい。食べたい。

 そんな煩悩に染まりかけているのに、わかっているようでわかっていない千幸が伝われとばかりに言葉のシャワーを降らせてくれる。

「はぁぁ~。本当、翔さん斜め過ぎます。さっきも言いましたけど、翔さんの瞳の色からその茶碗を気に入ったのであって、ほら、見てください。翔さんの瞳と同じで見る角度で違って見えるし、それを見ると翔さんいない時でも翔さんが浮かぶと思います」
「へえ」

 今日の千幸は言葉を惜しまない。そうさせたのはきっと自分。
 多少呆れも含むそれは、千幸の翔への想いがあっての言葉。だから、どんな言葉もましてやこんなに嬉しい言葉を向けられて、求める心を止められない。

「だから、茶碗なんかに嫉妬してないで、私を見ててくださいね」

 ぷいっと照れを隠すように口早に告げられる。
 耳はさっきより赤くなり、まるで食べてと言わんばかり。

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