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5甘重ネジ

どういう関係ですか?③

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「逃すか」
「千幸ちゃん確保」

 あっさりとリーチの差ですぐに追いつかれ、行き場をなくす。
 長い足を割り込ませ二人でぐいっと扉を掴まれた。すぐにむすっとした小野寺に腕を引かれて彼の部屋へと連れていかれる。

「話を聞きますから」

 さすがにこうなってしまっては今さら逃げようとは思わない。
 だからそう告げたのだが、ちらりと視線を落とされ関係ないなと鼻を鳴らされた。

「もう離さない」
「だから」
「離さないから」

 むすっと不貞腐れたような態度でもう一度告げられ、でも優しく腕を掴まれ千幸は促されるままソファに座る。
 手早くシャツを着た小野寺は千幸の横をしっかりキープだ。

 ──いや、なぜあなたが怒ってるの?

 どちらかというと完全にこちらが不愉快な思いをしているはずで、だけどそれ以上の熱を放つ小野寺に千幸はなすがままだ。
 そんな不機嫌な小野寺に溜め息をつき、桜田は本当に申し訳なさそうに眉を寄せて千幸を見た。

「千幸ちゃん。誤解しないで」
「誤解?」

 ただ繰り返すだけの千幸に、横の小野寺からも同じ言葉が繰り返される。

「千幸、誤解だ」
「誤解……」
「そう。誤解だ」

 誤解という言葉に遊川との最後を思い出す。
 それは過去としたものだが、古い記憶でもない。そのことを思い出すと、腹も立ってきた。

 お泊まり。恋人がいる身で友人であれど女性と一緒というのはいかがなものか。家に女性というのは、元彼の遊川の時にこりている。
 しかも、そこらの女性ではなく、彼と仲の良い桜田が相手ということが余計にショックだった。

「……何を持って誤解と言うのでしょうか? お二人は私と前の彼との最後を知っていますよね? 何もなかったとしてもそういうのはショックです」
「ごめん」
「ごめんなさい」

 すぐさま二人から謝罪の言葉が飛び出したが、千幸にその言葉は響かなかった。

 今日はデートの約束をしていた。
 しかも、千幸から言い出した恋人関係の発展への一歩という言葉付きの日。
 覚悟しろよの一言は不安もあるドキドキであったが、きっと楽しいものになるのだろうなとの期待のドキドキもあった。

 なのに、朝からこんなことになっている。
 正直、面白くない。
 
 楽しみにしていた分、虚しささえある。しかも、いつの間にか二人に対してそういった意味では信頼していたので裏切られた気分でもある。
 付き合う形をとっているのだから、相手が不快に思う行動は避けるべきだときっぱり言ってもいいと、混乱が去って対峙させられ強く思った。

「何かあってもなくても、それは私にはわかりません。ただ、こうしている事実は不快だと思います」

 だから、ぴしゃりと言い捨てた。
 嫉妬や立場以前に不快であることには変わりない。それは伝えておく。

「確かに千幸から見たらそうだな。誤解も誤解だけど、不快にさせたことは事実だ。本当にごめん」
「…………」
「千幸、ごめん。本当、盲点だった。俺には当たり前すぎて、千幸を不快にさせてしまった。ごめん」

 黙っていると言葉を重ねられた。
 じっと見つめてくる小野寺の目が、許して、嫌わないでと千幸に懇願する。それ以上に、疚しいことがない、誤解だ、と強く訴えてくる。

 その自信のある眼差しを見ていると、頑なな態度をとり続けるのも難しかった。
 千幸は小さく息をつくと、「とりあえず、話を聞きます」と諦めの境地で告げた。

 結局は押しの強い小野寺に引っ張られてしまう。
 千幸ももやっとするのを解消したかったし、何より小野寺を信じたかったから、話は聞こうと背筋を正した。

「ありがとう。まずは元凶となる桜田の話だな」

 ほっとしたように息を吐いた小野寺が、じろりと桜田を睨みつける。

「元凶って、ひどいな」
「元凶だろ? 少なくとも昨夜から今にかけては迷惑をかけられてるが?」
「だって、どうしようもなかったから」
「最初からへなってないで、しっかりすればいい話だろ。そっちもそっちでさっさと話してきたらいい」
「わかった。わかったから。ちゃんと、そっちもするって! ああ~、翔の格好をどうこう気にしてる場合じゃなかった。反応もまずかったのも謝るから睨むなって」

 桜田ははぁぁっと溜め息をつき、「ごめんね」と真摯に謝ってきた。
 何をもっての謝罪なのかわからず、千幸はただそれを見つめる。

 それにさっきから少し桜田の話し方が違う。
 今まで、容姿に見合う明るく頼れるお姉さまな言葉遣いであったから、すごく違和感を覚える。

 もしかしたらこっちが素なのかもしれないと思いながら、話してくれる気があるなら聞く気はあるので相手が話すのをただ待った。
 何かを判断するにしても、話を聞かないとわからない。

「桜田が話すと言ったんだから、一から十まで、いや千までこれからこんなことにならないよう説明しろ」

 小野寺はぎろりと桜田を睨みつけ、冷たい声を出した。
 あまりに冷たい響きに聞こえてびっくりする千幸をなだめるように、小野寺が千幸ににっこりと頬笑む。

「ごめん。千幸を驚かすつもりはなくって。千幸を不安にさせたことを俺も悔いてるが、桜田にはしっかりと思ってね」

 そう言いながらもまたギロリと桜田を睨みつけるものだから、千幸は目を丸くする。
 かなりご立腹のようだ。

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