82 / 143
5甘重ネジ
どういう関係ですか?③
しおりを挟む「逃すか」
「千幸ちゃん確保」
あっさりとリーチの差ですぐに追いつかれ、行き場をなくす。
長い足を割り込ませ二人でぐいっと扉を掴まれた。すぐにむすっとした小野寺に腕を引かれて彼の部屋へと連れていかれる。
「話を聞きますから」
さすがにこうなってしまっては今さら逃げようとは思わない。
だからそう告げたのだが、ちらりと視線を落とされ関係ないなと鼻を鳴らされた。
「もう離さない」
「だから」
「離さないから」
むすっと不貞腐れたような態度でもう一度告げられ、でも優しく腕を掴まれ千幸は促されるままソファに座る。
手早くシャツを着た小野寺は千幸の横をしっかりキープだ。
──いや、なぜあなたが怒ってるの?
どちらかというと完全にこちらが不愉快な思いをしているはずで、だけどそれ以上の熱を放つ小野寺に千幸はなすがままだ。
そんな不機嫌な小野寺に溜め息をつき、桜田は本当に申し訳なさそうに眉を寄せて千幸を見た。
「千幸ちゃん。誤解しないで」
「誤解?」
ただ繰り返すだけの千幸に、横の小野寺からも同じ言葉が繰り返される。
「千幸、誤解だ」
「誤解……」
「そう。誤解だ」
誤解という言葉に遊川との最後を思い出す。
それは過去としたものだが、古い記憶でもない。そのことを思い出すと、腹も立ってきた。
お泊まり。恋人がいる身で友人であれど女性と一緒というのはいかがなものか。家に女性というのは、元彼の遊川の時にこりている。
しかも、そこらの女性ではなく、彼と仲の良い桜田が相手ということが余計にショックだった。
「……何を持って誤解と言うのでしょうか? お二人は私と前の彼との最後を知っていますよね? 何もなかったとしてもそういうのはショックです」
「ごめん」
「ごめんなさい」
すぐさま二人から謝罪の言葉が飛び出したが、千幸にその言葉は響かなかった。
今日はデートの約束をしていた。
しかも、千幸から言い出した恋人関係の発展への一歩という言葉付きの日。
覚悟しろよの一言は不安もあるドキドキであったが、きっと楽しいものになるのだろうなとの期待のドキドキもあった。
なのに、朝からこんなことになっている。
正直、面白くない。
楽しみにしていた分、虚しささえある。しかも、いつの間にか二人に対してそういった意味では信頼していたので裏切られた気分でもある。
付き合う形をとっているのだから、相手が不快に思う行動は避けるべきだときっぱり言ってもいいと、混乱が去って対峙させられ強く思った。
「何かあってもなくても、それは私にはわかりません。ただ、こうしている事実は不快だと思います」
だから、ぴしゃりと言い捨てた。
嫉妬や立場以前に不快であることには変わりない。それは伝えておく。
「確かに千幸から見たらそうだな。誤解も誤解だけど、不快にさせたことは事実だ。本当にごめん」
「…………」
「千幸、ごめん。本当、盲点だった。俺には当たり前すぎて、千幸を不快にさせてしまった。ごめん」
黙っていると言葉を重ねられた。
じっと見つめてくる小野寺の目が、許して、嫌わないでと千幸に懇願する。それ以上に、疚しいことがない、誤解だ、と強く訴えてくる。
その自信のある眼差しを見ていると、頑なな態度をとり続けるのも難しかった。
千幸は小さく息をつくと、「とりあえず、話を聞きます」と諦めの境地で告げた。
結局は押しの強い小野寺に引っ張られてしまう。
千幸ももやっとするのを解消したかったし、何より小野寺を信じたかったから、話は聞こうと背筋を正した。
「ありがとう。まずは元凶となる桜田の話だな」
ほっとしたように息を吐いた小野寺が、じろりと桜田を睨みつける。
「元凶って、ひどいな」
「元凶だろ? 少なくとも昨夜から今にかけては迷惑をかけられてるが?」
「だって、どうしようもなかったから」
「最初からへなってないで、しっかりすればいい話だろ。そっちもそっちでさっさと話してきたらいい」
「わかった。わかったから。ちゃんと、そっちもするって! ああ~、翔の格好をどうこう気にしてる場合じゃなかった。反応もまずかったのも謝るから睨むなって」
桜田ははぁぁっと溜め息をつき、「ごめんね」と真摯に謝ってきた。
何をもっての謝罪なのかわからず、千幸はただそれを見つめる。
それにさっきから少し桜田の話し方が違う。
今まで、容姿に見合う明るく頼れるお姉さまな言葉遣いであったから、すごく違和感を覚える。
もしかしたらこっちが素なのかもしれないと思いながら、話してくれる気があるなら聞く気はあるので相手が話すのをただ待った。
何かを判断するにしても、話を聞かないとわからない。
「桜田が話すと言ったんだから、一から十まで、いや千までこれからこんなことにならないよう説明しろ」
小野寺はぎろりと桜田を睨みつけ、冷たい声を出した。
あまりに冷たい響きに聞こえてびっくりする千幸をなだめるように、小野寺が千幸ににっこりと頬笑む。
「ごめん。千幸を驚かすつもりはなくって。千幸を不安にさせたことを俺も悔いてるが、桜田にはしっかりと思ってね」
そう言いながらもまたギロリと桜田を睨みつけるものだから、千幸は目を丸くする。
かなりご立腹のようだ。
12
お気に入りに追加
220
あなたにおすすめの小説
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?
すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。
病院で診てくれた医師は幼馴染みだった!
「こんなにかわいくなって・・・。」
10年ぶりに再会した私たち。
お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。
かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」
幼馴染『千秋』。
通称『ちーちゃん』。
きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。
千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」
自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。
ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」
かざねは悩む。
かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?)
※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。
想像の中だけでお楽しみください。
※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。
すずなり。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
セカンドラブ ー30歳目前に初めての彼が7年ぶりに現れてあの時よりちゃんと抱いてやるって⁉ 【完結】
remo
恋愛
橘 あおい、30歳目前。
干からびた生活が長すぎて、化石になりそう。このまま一生1人で生きていくのかな。
と思っていたら、
初めての相手に再会した。
柚木 紘弥。
忘れられない、初めての1度だけの彼。
【完結】ありがとうございました‼
【完結】【R18】男色疑惑のある公爵様の契約妻となりましたが、気がついたら愛されているんですけれど!?
夏琳トウ(明石唯加)
恋愛
「俺と結婚してくれたら、衣食住完全補償。なんだったら、キミの実家に支援させてもらうよ」
「え、じゃあ結婚します!」
メラーズ王国に住まう子爵令嬢マーガレットは悩んでいた。
というのも、元々借金まみれだった家の財政状況がさらに悪化し、ついには没落か夜逃げかという二択を迫られていたのだ。
そんな中、父に「頼むからいい男を捕まえてこい!」と送り出された舞踏会にて、マーガレットは王国の二大公爵家の一つオルブルヒ家の当主クローヴィスと出逢う。
彼はマーガレットの話を聞くと、何を思ったのか「俺と契約結婚しない?」と言ってくる。
しかし、マーガレットはためらう。何故ならば……彼には男色家だといううわさがあったのだ。つまり、形だけの結婚になるのは目に見えている。
そう思ったものの、彼が提示してきた条件にマーガレットは飛びついた。
そして、マーガレットはクローヴィスの(契約)妻となった。
男色家疑惑のある自由気ままな公爵様×貧乏性で現金な子爵令嬢。
二人がなんやかんやありながらも両想いになる勘違い話。
◆hotランキング 10位ありがとうございます……!
――
◆掲載先→アルファポリス、ムーンライトノベルズ、エブリスタ
絶倫彼は私を離さない~あぁ、私は貴方の虜で快楽に堕ちる~
一ノ瀬 彩音
恋愛
私の彼氏は絶倫で、毎日愛されていく私は、すっかり彼の虜になってしまうのですが
そんな彼が大好きなのです。
今日も可愛がられている私は、意地悪な彼氏に愛され続けていき、
次第に染め上げられてしまうのですが……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
陛下の恋、僕が叶えてみせます!
真木
恋愛
もうすぐヴァイスラント公国に精霊がやって来る。
建国の降臨祭の最終日、国王は最愛の人とワルツを踊らなければならない。
けれど国王ギュンターは浮名を流すばかりで、まだ独身。
見かねた王妹は、精霊との約束を果たすため、騎士カテリナにギュンターが最愛の人を選ぶよう、側で見定めることを命じる。
素直すぎる男装の騎士カテリナとひねくれ国王ギュンターの、国をかけたラブコメディ。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる