上 下
81 / 143
5甘重ネジ

どういう関係ですか?②

しおりを挟む
 
 ホテルで女性といるところを見かけた時よりも、ずぅぅんと胸が重くなるようだ。
 その理由はわかっている。その時よりも自分の気持ちが小野寺へと向いていることと、自分と比べると桜田とのほうが積み重ねた時間が長く、その分信頼関係があるからだ。

 友人と恋人を比べるものではない。きっと、ただお泊まりしただけだと思いたい。
 だけど、そういうものが見えてすごく胸が苦しくなった。

 それなのに小野寺がさらに一歩近寄ってきて、不思議そうに問いかける。
 曇りのない榛色の瞳はまっすぐすぎて、何だか見ていられない。

「千幸は俺に会いに来たんだよな?」
「そうですけど。やっぱり出直し……」

 あまりにもまっすぐに千幸を捉えて離さないその瞳から、見ていられなくてわずかに視線を逸らすと、ちっと小さく舌打ちされた。

「出直さなくていい」

 何を言っているとばかりに一喝され、千幸はたじろぐ。
 機嫌が悪いのかわずかに苛立つように告げる小野寺に、そういう態度を向けられたことのない千幸は思考が停止した。
 すると、場を和ませるように桜田がいつものように明るく告げた。

「はいは~い。翔。千幸ちゃんが怖がってるじゃない。千幸ちゃん、ごめんね。初っ端の私の反応が変だったからよね。うーん。あれの反応も誤解というか」
「桜田、ごちゃごちゃうるさい。俺と千幸だけで話すから、もうお前は帰れ」
「まあ、そうしたいのは山々なのだけどね。今回は私の協力なしに全部解けることではないと思うけど?」
「…………」

 ──協力? 何を?

 意味がわからず止まったままの千幸に桜田は微苦笑を浮かべ、そして小野寺を見ると思いっきり溜め息をついた。

「とりあえず、上を着てきたら?」
「わかってるが、先に千幸を」
「うーん。これから大事な話をするのにその姿はねぇ」
「うるさいな。もともとお前のせいなのに」

 気心の知れたやり取りが続けられ、場違い感が押し寄せる。

「あの、何か理由あるのはわかったので、もう……。取り込んでいるようですし、今日はこれで」

 協力というのは何なのか?
 彼らを信用していないわけではないが、今は何を聞かされても何か嫌だと思ってしまう。

「千幸。俺を信用できない?」
「信用とかそういう問題じゃないかと」

 千幸の後ろ向きの思考を見透かしたのか、小野寺が咎めるような眼差しで千幸を見た。

「千幸。俺は千幸を傷つけるような疚しい気持ちは一切ないないし、行動もしていないつもりだ。だけど、実際は千幸を傷つけた。ごめん。不本意だが、桜田にも説明させるから時間がほしい」
「ちょ、不本意とか失礼すぎるから。あっ、ごめん。千幸ちゃん、これ、私のためにも話を聞いてほしいのだけど」
「でも……」

 千幸が言い淀むと、桜田が顔の目の前で手を合わせて懇願する。

「本当、お願い。私が無理言ったことだからさ。ここで千幸ちゃんと翔が拗れたら地獄見るのよ」

 ──地獄……??

 必死になって今度はお願いしてくるのでちらりと小野寺を見れば、腕を組みにっこりと笑みを浮かべている。
 だが、茶がかった長い睫毛の下の榛色の瞳はとても冷ややかに桜田を見ていた。

 やっぱり状況が理解できない。
 出会い頭で桜田はしまったという顔をしたが、本人の宣言通り小野寺から一切疚しいところは見れない。
 冷たい視線を向けていたかと思えば、迷うように視線を動かす千幸と目が合うと小野寺の双眸には捉えるような熱が途端にくすぶった。

「千幸」

 優しく名を呼ばれ、千幸はゆっくりと瞬きした。
 あまりにも小野寺の態度は普段通りで千幸が好きであることを隠さず、むしろ小野寺から逃げの姿勢をとったことを怒っているようでもあり、何が何だかわからない。

 ──どうしたらいい?

 千幸は自分の気持ちや現状がわからなさすぎて、やっぱり苦しく思う胸に一度この場から引きたかった。
 モヤッとする。それが小野寺に関わることで一番今までで大きい。
 女性を連れ込んでと怒ってもいい立場なのかも微妙だ。恋人ではあるがいろいろゆっくりと注文をつけている身である。

 桜田との関係は今のやり取りを見るからに、友人という認識で間違いないのだろう。
 果たして、男女の友人関係がどこまでどのような形で成り立ちお泊まりするということになるのかは理解できないが、彼らはそれで成り立っている。
 そこに、その関係に、自分が口を挟めるかどうかもわからなくて、だからこうして引きたくなるのかもしれない。

 きっと、小野寺の態度を見るからに何もないのだろう。
 理由を聞けば納得するようなものなのだろう。
 そう言い聞かせはするが、今までで一番もやもやを抱えていた。

「あの、やっぱり戻ります」

 それだけ告げて、腕を伸ばしてきた小野寺を振り切るように踵を返す。

「千幸!!」

 名を呼ばれたが、もやもやが止まらない。
 友人だという二人であるが普通に家を出入りしていて、小野寺は上半身裸で、何よりその親密な仲というのに疎外感を覚えた。
 足を動かしながら、背後で慌てる気配を感じながら、自己嫌悪。

 ──ああ、ダメだ。後ろ向きすぎる。

 小野寺がどうこうという前に、今のこの精神状態で向き合うのが嫌で、千幸はすぐについた自分の部屋のドアを開けた。

「千幸っ」
「千幸ちゃん!?」
「………!?!?」

 ドガッとあまりよろしくない音がして、すぐさま追いかけていた小野寺と桜田がドアを閉めようとしたドアに足を挟み込んできた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

セカンドラブ ー30歳目前に初めての彼が7年ぶりに現れてあの時よりちゃんと抱いてやるって⁉ 【完結】

remo
恋愛
橘 あおい、30歳目前。 干からびた生活が長すぎて、化石になりそう。このまま一生1人で生きていくのかな。 と思っていたら、 初めての相手に再会した。 柚木 紘弥。 忘れられない、初めての1度だけの彼。 【完結】ありがとうございました‼

陛下の恋、僕が叶えてみせます!

真木
恋愛
もうすぐヴァイスラント公国に精霊がやって来る。 建国の降臨祭の最終日、国王は最愛の人とワルツを踊らなければならない。 けれど国王ギュンターは浮名を流すばかりで、まだ独身。 見かねた王妹は、精霊との約束を果たすため、騎士カテリナにギュンターが最愛の人を選ぶよう、側で見定めることを命じる。 素直すぎる男装の騎士カテリナとひねくれ国王ギュンターの、国をかけたラブコメディ。

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

処理中です...