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5甘重ネジ

朝ワンコ①

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 また、議題を挙げたい。

 ────とろける笑顔でくぅぅんと見つめてくる隣人は頭が緩いと思います!!

 夏の暑い日差しよりもさらに熱い視線を前に、千幸は扉を開けながら苦笑した。
 眼前に現れた三つ上の恋人の腕に絡め取られながら視線を上げると、顔面偏差値が突き抜けた男が緩々と表情を崩す。

「千幸。おはよう」
「おはようご、……翔さん」

 ございます、と敬語になりかけて慌てて引っ込める。
 敬語で話すと罰とばかりにキス攻めの言葉攻めにあうので、朝から不毛な消耗を避けるためだ。

 ──危なかったぁ。

 間に合って良かったとほっと息を吐くと、目の前で爽やかに小さくちっと舌打つ男。
 敬語をやめろと言いながら、千幸が敬語を話して罰するのも期待する恋人となった小野寺翔はなかなか癖が強い。

 絶対どこかネジが緩く、こちらが気づいて締めなおしてもまた違うネジが緩みだす。
 関係は恋人となり甘みが加わった分、余計にタチが悪い。

 付き合ってもいいと思える好きではあるが彼ほどの熱量はまだなくて、その好きは情や好奇心や関心も多分に含む。
 世の中、百パーセントの好きで始まる付き合いばかりではないし、これはこれでいいのだろう。
 なら、なぜこんなにも気が抜けないのか。

 ──割合、なのかな。

 好きだと語る小野寺の雄弁なはしばみ色の眼差しを見て、千幸はふっと苦笑する。
 互いの好きの度合い、好奇心や関心は人を好きになる上で大切な要素ではあるけれど、小野寺のそれは規格外だからだろうか。
 気になるけど、触れると火傷するような熱を持って返してくる相手に気が抜けない。

 付き合いってこんなにも考えることがあったかなと、小野寺との付き合いは一緒にいる間もいない間も彼のことを考えさせられる。
 そんなことを考えていると、今は目の前の俺に集中しろとばかりに甘さを含む低音の響く声に名を呼ばれる。

「何ですか?」
「はい。敬語」

 思わず返してしまった言葉に、はっと目を見張ると待ってましたと小野寺の顔はもう目の前だった。

「罰だね」
「……」

 吐息がかかるところでささやかれ、そのままふわりと口紅が取れない程度に唇にキスをされ、続いて頬、目尻、耳、鼻、そしてまた唇へと落とされる。

「うん。可愛い」
「…………」

 言葉をなくす千幸に、小野寺はふっと微笑し「早く夜にならないかな」とじっと見つめてくる。

 ──あ、あま~い。甘すぎる。

 千幸の頬はほわっと熱くなった。
 朝から甘すぎて溶けてしまいそうだ。

 優しい甘さはふわふわとあちこちに火を散らし、夜まで焦らすようなそれは反則だ。
 ゆっくりと確実に小野寺のペースに持っていかれている。

 千幸の中にできた小野寺のスペースをじわりじわりと広げ、千幸が受け入れるのをじっくり待たれている。
 しかも、本人はもどかしく思いながらもどこかで楽しんでいる節があった。

 何をしても、どう返しても喜ばれる。
 この場合、すんなり懐に飛んでいけば即確保の上何をされるかわからないし、もっと警戒すれば解すように言葉攻めと行動が増すことが目に見えている。

 結局、千幸は千幸らしく付き合うしかない。
 またらしくあればあるほどそれも喜ばれているので、その辺は深く考えないようにしていた。
 付き合うということは、相手もあることだが結局は自分がどんな気持ちで相手と向き合いたいかが大事だと思う。

「私は別に夜が早くこなくてもいい、かな」

 気を抜くと敬語になるので気をつけながら、夜の時間よ早く来いとの発言にそう告げると、小野寺は不服そうに眉根を寄せる。

「そうなの?」
「だって、夜の翔さん手加減してくれないから」
「してるって」
「あれはしてるって言えない」

 デジャブみたいな会話だ。千幸は連夜のことを思い出し、ぽそっと告げる。
 こんな会話をしているのも恥ずかしいが、言わなければこの人はわかってくれない。

 夜の時間は本気で恥ずかしい。すごく体力も気力も使う。
 いろいろ思い出すと頬が熱くなりそうで、あえて考えないようにしながら面白くないと拗ねる小野寺を見た。
 視線が絡み合うと、本気でわからないとばかりに真剣な表情で小野寺が訴えてくる。

「なんで? キスだけしかしてないし、嫌がることもしていない。ゆっくりしている」

 ──そのゆっくりの仕方が問題なんだって!

 毎夜、毎夜、とろとろに甘やかされるスキンシップはもどかしく地獄である。
 女性にだって性欲はあるし、際どいことを恋人に何度も続けられて何度も流されそうになった。

 なのにそういう時に限って、小野寺は千幸が付き合い当初に言ったゆっくりとなる『待て』を実行する。
 何度、これは戦略かと疑いたくなるくらい、全部が全部気持ちよくもどかしいところ、千幸が抵抗しそうになるギリギリで止められる。

 その範囲は日に日に広がり、ずっと観察し千幸の限界を少しずつ広げ確認されているようで、本気で、もう本気で恥ずかしい。
 それもキスと言葉だけでだ。

 なんたるテクニックと執念。
 でも、時おり漏らす甘く重い吐息に、小野寺のほうがこの状態に苦しんでいると知れ、待てを実行してくれる相手に好感は上がっていく。
 そこまで誠実に向き合われれば、千幸も流されてではなくてちゃんと気持ちに乗った行動をしたい。

 もう、いたちごっこだ。
 しかも、それらはきっと小野寺の向かいたいほうへと向けられている。わかっているのに、やっぱり関心や情も高まっていくのでその辺は諦めている。

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