75 / 143
5甘重ネジ
元彼vs今彼 side遊川③
しおりを挟む「あまり、煽らないでいただけたらと思います」
「そのつもりはないが」
そこで軽く目を見張り、小野寺はゆっくりと瞬いた。それから、考えもしていなかったと自然と眉間が寄っていく。
それを見た遊川は驚き、えっ、と思わず声を上げ小野寺を凝視した。
「本当に?」
「何がだ?」
――これ、本気っぽいよな。ありかよ。
元彼となる自分を挑発しているのかと思っていたが、これは無意識による独占欲からの発動らしい。
──だとしたら、結構ヤバいよな。
隠しはしていないと言ったのは、相手が元彼の自分だからというのもあるだろう。
だけど、意図して煽る空気を作るのと、無意識で作るのとでは後者のほうが内に秘めたものが強すぎると思うのは自分だけだろうか。
今日のこれも仕事としての話が前提なのだろうが、自分と千幸の元恋人という関係が心配だからこそ念を押しておきたかったのかも知れない。
現在は確実に元彼の自分より優位に立っているだろう相手が、完全に切り離された自分にまで嫉妬していると思うと、遊川的にはざまぁみろと思うよりも戸惑いのほうが大きい。
それと同時に、どんな女性も選り取りみどりであろう容姿とステータスを持ち、堂々として見えても千幸に対しては必死なのだと知らされ不憫に思う。
それは小野寺ではなく千幸に対してだ。
──だってな、もう千幸は籠の中の鳥だろ?
そう思わずにはいられない。
なぜなら、この手の男は決めたことは実行する。
今、小野寺と千幸の関係がどの辺りまで進んでいるのかは知らないし、できることなら知りたくはないが、そう遠くないうちにこの男は千幸を手に入れるだろう。
千幸は許容スペースは広くはないが、その分情が深い。
慎重であるのに、優しい千幸は自分が可とした範囲では相手の行動を許す。気にしない範囲では適当さを発揮する時もある。
それになんだかんだ言って押しに弱かったりもするし、実際に遊川自身も同じ職場での恋愛に消極的であった千幸を、押して押して押しまくって付き合いに持ち込んだ。
前回話した時に小野寺の話が出た時も困った顔をしていたが嫌そうではなかった。残念ながら、それが答えである。
千幸は厄介な男に惚れられたもんだなと、遊川は多分に苦味を含むそれを呑み込んだ。
「それならそれでいいです。こちらが勝手に感じてしまっただけのことだと思うので」
「そうか」
ふっと息を吐くように告げたそれは、腑に落ちていないようだが掘り下げる気はないようだ。
その姿を見ると結局自分だけが同じところをぐるぐる回っている不毛さを感じて、遊川は眉をしかめた。
──やっぱり、吐き出しとくか……
それに対しての答えがどうであれ、せっかくこのような場を設けられたのだから言ってしまってもいいだろうと口を開く。
「では、私の転勤の理由の本当のところは?」
「何が言いたい?」
「私が転勤になったタイミングも、そしてあの日のことも冷静になったらあなたにとって都合のいいことばかりだと思いますが?」
繋がりを思えば、先ほどの記憶力のことを考えれば、何よりかなり千幸に本気であることを考慮すれば、どうしてもそこにたどり着く。
「へえ? ずいぶん面白いことを考える」
「そうですかね。仕事に対しては疑ってはいません。選んでいただいたことに今となっては嬉しく思っています。ですが、どうしてもタイミングは気になります」
「憶測でものを言うのはやめたほうがいい。次の仕事内容に対して不満も疑問もないのなら考えるだけ無駄なことだと思うが」
「確かにそうですね。余計なことを言いました」
「わかればいい」
それだけ言い黙り込む小野寺は、表情が整っている分こういった時はひどく冷たく映るのだなと見つめる。
こうしてたまに目の前の男を分析するように見てしまうのは、千幸の次の男として認識しているから余計なのだろう。
──分析したところで現状は変わらないというのに……
頭でわかっていても、気持ちで理解しそれに伴う行動ができるかは別である。
先ほどの質問も小野寺はそう言うだろうことはわかっていた。だが、遊川はそう思ったのだから、問わずにはいられなかっただけのこと。
無駄なことだとわかっていてのそれは、相手にも無駄だと返されて終わった。
目の前の男の本気を痛いくらい突きつけられ、あの日は必然であると言い切られた。
あの日からの展開はいまだに実感が湧きにくいものではあったが、こうして対峙して遊川の中で小野寺に向かっていく一本の道筋のようなものが見えたのは理屈ではない。
「そうですね。ただ、俺が思ったというだけです。ここからは独り言だと思っていただいても結構です。あの日、あの時間、どうしてあそこまでタイミングが悪かったのか。連れて行かれた先にあの女性がいて、積極的すぎるアプローチで断っても断ってもあの手この手で家に来ようとした。この俺にですよ? 別に卑下はしませんが、あなたほどの条件が整っている男ではない。そんな男にあんなに必死になって、彼女がいると言っているのにです。たった数時間のことで惚れたなんて言い、まるで千幸に見せつけるようなタイミングで服を脱ぎ、千幸が出ていったら『彼女いたのは本当だったね』と恋人持ちには興味ないとばかりにさっさと帰っていった」
「それはどう考えても、断らないほうが悪い」
自分が取り返しのつかない大きな過ちを犯してしまったこともわかっているし、それに対して悔いている気持ちは本当だ。
それを簡単に切り離させないことが思考をややこしくさせているが、どうしても別れた直後に打診されたそれは、タイミングが良すぎると思うのだ。
遊川は小さく息を吐き出した。
47
お気に入りに追加
220
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?
すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。
病院で診てくれた医師は幼馴染みだった!
「こんなにかわいくなって・・・。」
10年ぶりに再会した私たち。
お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。
かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」
幼馴染『千秋』。
通称『ちーちゃん』。
きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。
千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」
自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。
ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」
かざねは悩む。
かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?)
※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。
想像の中だけでお楽しみください。
※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。
すずなり。
お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?
さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。
私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。
見た目は、まあ正直、好みなんだけど……
「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」
そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。
「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」
はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。
こんなんじゃ絶対にフラれる!
仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの!
実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。
【R18】鬼上司は今日も私に甘くない
白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。
逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー
法人営業部メンバー
鈴木梨沙:28歳
高濱暁人:35歳、法人営業部部長
相良くん:25歳、唯一の年下くん
久野さん:29歳、一個上の優しい先輩
藍沢さん:31歳、チーフ
武田さん:36歳、課長
加藤さん:30歳、法人営業部事務
先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…
ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。
しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。
気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…
【続】18禁の乙女ゲームから現実へ~常に義兄弟にエッチな事されてる私。
KUMA
恋愛
※続けて書こうと思ったのですが、ゲームと分けた方が面白いと思って続編です。※
前回までの話
18禁の乙女エロゲームの悪役令嬢のローズマリアは知らないうち新しいルート義兄弟からの監禁調教ルートへ突入途中王子の監禁調教もあったが義兄弟の頭脳勝ちで…ローズマリアは快楽淫乱ENDにと思った。
だが事故に遭ってずっと眠っていて、それは転生ではなく夢世界だった。
ある意味良かったのか悪かったのか分からないが…
万李唖は本当の自分の体に、戻れたがローズマリアの淫乱な体の感覚が忘れられずにBLゲーム最中1人でエッチな事を…
それが元で同居中の義兄弟からエッチな事をされついに……
新婚旅行中の姉夫婦は後1週間も帰って来ない…
おまけに学校は夏休みで…ほぼ毎日攻められ万李唖は現実でも義兄弟から……
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる