ただ、隣にいたいだけ~隣人はどうやら微妙にネジが外れているようです~

Ayari(橋本彩里)

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4変甘ネジ

やっぱり隣人は⑦

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「千幸」

 さっきの官能を引きずったままのような色っぽい声で、小野寺が名を呼ぶ。
 その声にもまた煽られ甘い吐息のような声しか出ない気がして、千幸は視線だけで反応した。
 そっと大きな手が千幸の頬を撫で、顎をくいっと優しく持ち上げて焦点を合わせられる。

「大丈夫?」
「…………加減する約束だったのに」

 どこかかすれる声で、やっと千幸はそれだけ返した。
 そう。それだ。嫌ではなかったが、こうなるまではやりすぎだ。
 そう思ってむっと眉間にしわを寄せると、小野寺は心外だとばかりに目を見開いた。

「した」

 それはそれは堂々としており、これを本気で言っていたら身体がもたないのではないかと千幸は身体をぶるりと震わせた。

「あれでですか?」
「あれというのがわからない」

 首を傾げてマジな顔で告げる美形に、千幸は目をまたたいた。
 なんだか、異星人でも見ている気分だ。根本的に何かが違う。

「本気で、言ってます?」
「ああ。だって、キスだけ。それだけで我慢した」
「我慢……」

 本当はキスだってもっと続けたかったところをこうして我慢してる俺はちゃんと加減してお利口だっただろと、雄弁に語る瞳で見つめられる。
 視線で告げながら、長い指がするっと千幸の唇を撫でる。
 千幸の唇を未練たらたらにするすると何度も触れながら、大真面目な顔をしている小野寺は残念だった。

 キリッとした顔は非常に男前だ。
 その美貌の無駄遣いかってほど、やってること、言ってること残念で仕方がない。

「足りない。千幸のどこに触れても幸せな気分になる。もっと欲しくなる。それを我慢してるのだから、手加減してるだろ?」
「えっ? でも……」
「してるんだって。それに気持ちが繋がったようなキスはとても気持ちがよかったし、相性もよかった。千幸もそう感じただろう? 離れがたかったが、加減しろと言われてちゃんと意識が飛ぶ前にはやめた」

 そう断言した小野寺は、言葉にはしなかったが俺って偉いだろうと若干胸を張った。
 褒めてくれてもいいよと、期待のこもった眼差しを向けられる。

 千幸は呆れて小野寺を見た。
 自信満々にされると、さっきの行為よりこっちの態度が気になってくる。
 どれも気になることばかりで結局現在の話題になってしまうので、抗議が不十分に終わっている。

「感じたって」
「相性いいと思う。だろ?」
「……まあ、悪くはなかったかと」

 何を言わせられてるのかともごもごと告げると、満面の笑みで自信満々に小野寺は頷いた。

「ほら、好きな女性と相性いいと知ってどれだけ俺の気持ちが高揚してるかわかるだろう。言葉通りキスだけ。だから、何も悪いことはしていない。何が悪い?」

 話している間に本気で疑問に思ったのか、最後は怪訝そうな顔で千幸を見やった。

 ──悪い? って……。これ、本気で言ってる?

 何が悪いかと言えば、本人が大真面目なところがいけないですっ!
 思考がつむげないほどトロトロにしておいて、それで自覚なしってどういうこと?

 本気で先が不安になる。
 キスでこれだけってことは、その先は何をどうされるのか不安で仕方がない。

 ――いろいろ、持つかな……

 すごく不安になった。
 今までは小野寺のネジの緩み具合が気になっていた。
 気持ちや行動に千幸のパーソナルスペースはぐらぐら揺さぶられて、面倒くさくて、でも気になって、ゆらゆら揺れながら気持ちは小野寺へと向いて、こうして付き合うことになった。

 その過程を思うと、まだまだこれからもビックリ箱のような小野寺に振り回されることは覚悟の上だった。
 それでもいいと思えたから、付き合うことにしたのだ。
 気持ちそっちはそれなりに期待と不安も入り混じりながらも覚悟はしていたが、ここにきて身体の問題も出てきた。

「ちゃんと四年分、そしてこれからの愛をゆっくり伝える。だから、安心してくれていい」

 千幸が悩ましげな吐息を吐き出すと、まだまだ序の口だとばかりの台詞を小野寺は嬉しそうに話す。
 さっきのあれで加減していて、まだ四年分のほんのちょっぴりぶつけただけだと言わんばかりのそれに、千幸は軽く目眩を覚えた。

 ──やっぱり隣人は規格外。甘々すぎて、もってくる角度と速度が変すぎてついていけません!

「くれぐれも、ゆっくり、スローペースを希望します」

 いろいろ訴えたいが、さっきのでだいぶ気力を持っていかれていた。
 それに、ふわふわと甘い空気はまだあってそれを壊すのも躊躇われる。

 だから、これだけは絶対だと千幸は小野寺の胸に響けと頭をコツンとぶつけて告げた。
 小野寺は数秒停止したかのように固まったが、大きく溜め息をつくと何かを我慢するように眉根を寄せて、なんとも色っぽい表情で頷いた。

「大丈夫。千幸の嫌がることはしない」

 ──なぜ、そこで艶が増す????

 何より、その返答が怪しい。

「その言葉を信じたいです」
「とろとろに甘やかして守るから、千幸は何も心配しなくていい」

 千幸が控えめに告げると、返ってくる言葉に虚脱感に襲われた。
 まとめると、小野寺から見て千幸が嫌がっていなかったら、ぐいぐい攻めると言っているのと一緒だ。

 さっきだって、キス自体は嫌ではなかった。でも、千幸が思う以上のことがなされていた。
 その嫌ではなかった分を汲んだと言われたら、どうすればいいのだろうか。
 この先、知っていくでなか千幸が嫌ではないと思えば、どこまでも突き進んでくるだろうことが目に見える発言は不安でしかない。

 出会ってからずっと小野寺のペースになんだかんだ巻き込まれている自覚はあるので、彼が本気を出した時にストップをかけられるかどうか自分に対しても不安だ。
 もちろん言わなければならないことは、これからも伝えていきたい。

 でも、それ以上の熱量でもってこられたら自分でもどうなるかわからない。
 こんなに熱量を向けられたことがなくて、だから自分でも自分がどうなるかわからなかった。
 千幸も気づかぬうちに、小野寺に負けず劣らず甘く気だるげな吐息を吐き出していた。

「はぁぁ。翔さんといるといろいろ、た、新しいことばかりです」

 大変だと言いそうになって、言い換える。
 さすがにできたて彼氏にそれは可愛げなさすぎるだろうと、心の中にとどめた。

「俺も」

 千幸の吐息に感化されるように、小野寺の端整な顔が近づいてくる。
 またキスされる、と思った時には唇は重ねられ、そのしっとりと甘く重い思いと彼氏となった隣人との先を千幸はこっそり憂いた。



✽.。.:*·゚ ✽.。.:*·゚ ✽.。.:*·゚ ✽.。.:*·゚ ✽.

いつもお付き合いやハートの応援ありがとうございます♪(/ω\*)
変甘ネジで第一部が終了です。まだ続きます。
本編完結まで毎日更新できる見通しはつきましたので、第二部からは朝夕六時半に二回更新します。
出し切れていない設定や変甘緩甘密度増しますので、最後までお付き合いいただけたら幸いです!

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