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4変甘ネジ

やっぱり隣人は⑥

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「ああ。待ってる。俺も千幸の思いもまるごと食べたいから、今は手を出したいけど出したくない。だから、今日はキスだけしよ」

 そう言うとすぐに、ちゅっ、とリップ音つきで頭にキスされる。

「…………っっ」

 ──ああ、本当にこの甘ったるさに堪えられない。恥ずかしい。

 キスだけって。この言い方だとキス分は思いが繋がってるだろ? とばかりだ。
 それを確認しようと言われているようで、それはそれで顔を上げるのは恥ずかしすぎて無理だと黙っていると、もう一度頭上にキスが落とされる。

「千幸」
「……何ですか?」
「上を向いて」
「……加減してって頼みましたよね?」
「だから、してるよ?」

 わかってたけれど、やっぱり直球でとても甘い。

「これのどこが?」
「キスだけで我慢しようとしてるところが」
「……それって加減って言うのですか?」
「俺の四年分の思い今すぐぶつけてもいいなら、そうするけど?」

 耳元で熱い熱い吐息とともにそうささやかれ、反射的にきゅっと目を瞑る。異様に落ち着かない。

「……ああぁぁぁぁ。それは本当に無理です」
「だろ? だから、ね?」
「ねっ、て言われても」
「千幸。千幸ちゃん。ちーさー。千幸さん。千~幸~」

 戸惑いを隠せないまま固まる千幸の髪をさわさわと触りながら、何度もトーンを変えて名前を呼ばれる。
 そのたびに甘い吐息も落ちてきて、蜂蜜をかけられている気分になる。

「……翔さん」
「ね、キスだけ」
「…………だけ……」
「うん。しよ?」
 
 キスだけ。
 行為自体はそんなに恥ずかしがるものではないのに、相手が小野寺だと思うと警戒心と恥ずかしさが混ぜこぜになって思考がうまく働かない。

 ──それに、聞かれて頷いてからするの羞恥プレイなんですけど?

 ずっとさわさわと千幸の髪を優しく撫でていた大きな手が、ゆっくりと顔へと移動してくる。
 時おり首に触れ頬を撫でてはキスを落とし、耳へとまた移動する。

 それを何度か繰り返し、いつの間にか小野寺へと顔を上げさせられていた。
 吐息を鼻先で感じ目を開けると、間近で榛色の瞳と視線が絡み合う。

 小野寺はふっと表情を和らげた。
 際どい場所を何度も撫でられキスをされ、だけど、唇へはぎりぎりのところで焦らすようにかわされる。

 じれったい。
 とろとろと甘い雰囲気と慈しみながらも愛したいと告げるキスの嵐に、千幸はきゅっと引き結んでいた唇をとうとう少し開いた。
 すると、それを待っていたとばかりにぐっと唇を押し付けられ、するりと入ってくる舌が口の中を探ってくる。

「ふっ、んっ」

 鼻にかかる甘い吐息が漏れ、呼吸するわずかな隙間しか与えられずに、口内を蹂躙された。

「んんっ」

 くちゅりと唾液が交わる音が、身体と気持ちを煽る。
 撫でる手が大事にしたいと告げ、時おり耐えられないとばかりにぐっと力強く抱かれる腕の強さにじわりと胸に愛しさが広がる気がした。
 完璧に小野寺のペースにもっていかれている。それが心地よいと感じる。

 キス、だけ。
 キス分はちゃんと目の前の人が好きだと思える。交わって、その腕に抱き込まれて愛しさが募るというのはきっとそう。

 千幸はとんっと小野寺の肩を押した。
 すると、貪欲に貪ろうとしていた勢いが止まり唇を離した小野寺が傷付いた顔をしていた。

 ──あっ。

 しまったと千幸は目を見開いた。
 どうやら勘違いさせてしまったようだ。

 恥ずかしがってばかりいないで向き合おうと思ってのそれだった。
 だけど、千幸が嫌がってると勘違いしたらしい小野寺は、苦虫を噛み潰したような、それでいてすがるような眼差しで千幸を見る。
 千幸は慌てて誤解だと告げる。

「違います……。キス、もうちょっとゆっくり……、あっ」

 話している途中でがぶりと唇をまれた。
 言葉は呑み込まれ、そのままゆっくりと吸い付き唇をくっつけた小野寺に「千幸」と名前を呼ばれる。

 千幸はそろそろと自分から舌を差し出した。
 ちゃんと自分にも気持ちがあって、これは同意の上での行為であること、こうやってくっついていてもなお少しでも離したくないとばかりの熱意を向ける相手に伝えたくなった。

「んんんっ」
「千幸の口の中、どこもかしこも美味しい」

 本当に食べるようにはむはむとまれ、千幸は涙目で小野寺を睨みつけながら同じように食みかえす。

「ここと、ここ。気持ちいい?」

 時おり、とんでもないことを聞いてくる相手に軽く歯を立てると、ごめんとばかりに優しいキスになった。
 ちゅっと音が幾度と続き、千幸が許したと思うとまた絡め取るようなキスに変わる。

 キスの合間に吐息交じりに何度も名前を呼ばれ、今度は確認するようにいろんな角度で千幸の表情を確かめながら幾度となくキスをされた。
 優しく触れるキスから、口蓋こうがいをくすぐるように誘われ、貪られるよう舌を絡めキスをされる。
 されるがまま、ごくたまにそれに応えると嬉しそうな表情をしてさらにとろけるように熱心に蹂躙じゅうりんされた。

 キスがこんなにも官能をあおるものだと初めて知った。
 それだけで、身体の芯がとろとろと溶かされていく。求める熱さに参りながらも、確かめては視線が合い嬉しそうにされるとさらに応えたくなった。

 いつまでも続く。届くところはすべてキスで繋がろうとする行為に、頭の芯が次第にぼやけてくる。
 キスの淫らな水音と漏れる甘い自分の喉声。時おり、小野寺の我慢できないような吐息が身体を熱くする。

 キス、だけ。
 宣言通り、キスだけだった。

 だけど、そのキスが凄かった。
 キスだけでこれだけバリエーションがあると教えられ、そのどれもが気持ちのこもったもので、千幸の心と身体を芯から甘く優しく痺れさせた。

 やっと唇が離されたと思った時にはくたりと身体の力が抜け、思考がまともにつむげない。
 気づけば、小野寺の腕の中にすっぽりと包み込まれるように抱かれていた。

 千幸ははあっと吐息を吐き出した。
 自分から出るそれも甘く、部屋全体も甘く、どこもかしこも甘く感じた。

 甘くて、濃い、思い、想い、──重い、キス。

 確かにキスだけ。だけだったが、一生分のキスをした気がする。
 小野寺の腕に抱かれながら、満足そうな顔で千幸の顔を見つめる小野寺をぼんやりと見つめ返した。

 唇はじんじんとしびれ、気を抜くと小野寺の舌使いが思い出され、いまだに蹂躙されている気分になるほどに小野寺とのキスは確かに気持ちがよかった。
 こんなにキスをしたのは初めてだ。優しいのに激しい。求める気持ちに引きずられるような、キス。

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