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4変甘ネジ
やっぱり隣人は④
しおりを挟むここまで堂々と宣言するのはどうかと思うが、どれだけ思われてるんだと慄きとともに甘やかされたい欲求も生まれてくる。
甘え下手を自覚しているけれど、大事にするからこっちにおいでとこんなに猛アピールされて、さすがにいつまでもツンとばかりしていられない。
「千幸」
熱のこもった吐息とともに名を呼ばれ、視線を絡ませた千幸は笑みを深めた。
ここまで執着されるのが不思議だが、向けられる思いは心地よく、ビックリ箱のようなこの人のいろんなことを知りたい。
──ほんと、どうしよう。
たくさんの質問が浮かびは消えて、くすぐる気持ちがふわっとしていた。
ただ甘いだけではない空気に、どこから何から質問をしたいのか自分でも本当にわからなくて小野寺を見つめた。
すると、小野寺はにっと口端を引き上げて色気だだ漏れで笑う。
「あと知ってもらわないと先の話も進まないと思って」
――先?
一瞬、何の先かと思ったがこの先の二人の関係だと思って深く考えるのをやめた。
正直にと思ってくれていることはありがたいと思って、話を進めるほうがいいだろう。
ひとまず、自分に関わることで気になることは聞いておきたい。
話し合うためにこのホテルということは、仕事の話からしたほうが良さそうだ。
「聞きたいことがいっぱいあるのですが、まず、ここのホテルの内装は我が社と同じS.RICグループである会社が内装を手がけたと聞いたのですが?」
まだまだヒヨッコなので会社がどういう仕組みになっているか全貌は見えておらず、関連会社が多数あるのだけは知っていた。そのグループの名前が『S.RIC』である。
「ああ、そうだね。それであってるよ」
「つまりS.RICグループを立ち上げ、gezeも翔さんが?」
「そのうちの一つだな」
「でも、gezeは赤城社長ですが」
一応、自分の勤める会社gezeの社長は赤城である。
規約などをこと細かく読んだわけではないが、今まで働いてきて小野寺の名前は見たことがない。
「ああ、立ち上げに関わっているが、起動に乗ったら自分より詳しい者に任せてある。gezeに関しては株の保有数が一番多いのが俺で、他もろもろというところだな。不動産をベースとしてそれに関わるものを繋ぎ合わせたほうが効率がよいから、千幸が内装やインテリアの仕事に関わりたいと知って立ち上げ、その時に引き抜いたのが赤城だ」
「引き抜きだったんですね」
「赤城はそれまで大手で活躍していたから口説き落とした。着眼点が面白いから、今までの実績と手腕で会社が伸びると思った。現に数字は上向きだ」
こういう話をされると経営者なのだと実感する。
しかも、赤城社長と顔を合わせたのも数回なのに、ボスのそのまたボス的な人だと思うと緊張する。それと同時に不安も湧き上がってくる。
千幸は経営者の顔をした小野寺を前に、背筋を正して聞いた。
「その、どう言っていいのか……。失礼になるかも知れませんが聞かせてもらいたいことが」
「千幸の心配していることわかってるつもりだ。気になることは何でも聞いてくれるほうがありがたい。嘘は言わない」
真摯な顔で告げられ、千幸は思っていることを吐露した。
「わかりました。ずっと私を知ってくれていた上で仕事上も繋がりがあるとわかったのですが、翔さんが関わることでどこまで仕事に影響しているのか気になります。新人で大きなプロジェクトにはまだ関わっていませんし、何か思い当たることがあるというわけでもないのだけど……。あと、なぜ直属の部署にしなかったのかとかいろいろ気になるのですが」
「俺はgezeにくるようには仕向けたが、千幸の仕事に関しては報告は受けていても贔屓も関与もしてない」
「報告……」
「そう。報告」
──報告は受けてたんだ……。まあ、そうだよね。入るようにしといて、放置はおかしいだろうし。
この時、千幸は自分の仕事が正当かどうかが気になり小野寺の言葉を見逃してしまっていた。
千幸のということは、誰かのは関与している可能性があるということ。
小野寺は正直に話してはいるが、あえてこのタイミングで言い放つ巧妙さに気づくには情報が多すぎた。
小野寺自身も突っ込まれたら話す気ではいたが、突っ込まれなかったら話さないままでいいというスタンスだ。
いつかは話すことがあるかもしれないが、まだ今ではないと計算した上での布石。
正直であろうとするが、恋する男の千幸を手に入れたいという欲望の表れである。
それに気づかず仕事で自分なりに感じる成果が妥当だとういうことを知り、千幸はほっとした。
仕事のことは今の生活の根本的な問題に関わるから、明確にしておかないことには先を考えられない。
嘘はつかないと断言し、さっきの経営者としての顔を見ると信じられた。
「それを聞いて安心しました」
「それならよかった。あと、直属という話だけど、千幸にも会社としても下積みは必要だと思ったから、gezeから流れを学ぶようにもっていった。そこでしっかり学んで揉まれて、千幸がやりたいの気持ちが本当だったらそのうち上がってくるだろうと思ってる。仕事に関してはそう考えていた」
「……はっ、あぁぁぁ。そうですね、びっくりして言葉が詰まってしまいましたが、仕事のことはこれまで通り頑張っていきます」
「ああ、期待している」
「はい」
千幸はしっかりと頷くと、それを見た小野寺は愛でるように千幸を見つめた。
誘導は初めの頃だけのようだし、何より千幸は誰かに言われてgezeに入社したわけではない。
会社のコンセプトを知って入りたいと自分が希望したのだ。そこに小野寺の何かしらの思惑はあったと知ったところで、やりたいことは変わらない。
入ったからには頑張っていきたい。話を聞いてもそう思えた。
小野寺の思惑がなんであろうと、仕事に関しては小野寺にとっての事実と千幸の事実は違う。それを混同してはいけない。
後で知って相手を不信に思う時間がくるより、確かに先に話しを聞いて納得できたのは本当によかった。
千幸の気持ちが伝わったのか、満足したようにふくふくと笑う小野寺が千幸の腰を引き寄せ首筋に顔を埋めた。
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