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4変甘ネジ

ただ、ただ甘い……?⑤

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「好きを自覚できるほどまだ気持ちがついていってなくて、好きなのかなぁというよりは誰よりも異性としてい気になるが今の正直な気持ちです」
「それでもいい。俺のものになって」

 ──皿の上に乗れと?

 そうおっしゃられても覚悟がまだできない。でも、逃げるのも嫌で、逃げたくもなくて、その周囲を今ぐるぐる回っている感じだ。
 急かすように反対の頬にもキスを落とされ、おでこにも落とされる。
 心の距離が少し近づいたと思ったら、身体の距離も近づけられている。抜け目ない。

「……っ。その、気持ちが中途半端なのに翔さんが誰かと一緒にいるのは嫌だなとは思うんです。だから、翔さんが望むなら自分も翔さん以外の誰かのものにならないイコール付き合うという形でもいいなら」
「それ、すっごい殺し文句」
「いえ、どちらかというと我が儘かと」

 気持ちをちゃんと返せてないのに独占欲だけ見せているのだ。
 でも、小野寺を誰かに捕られたくない。

「ああ、ダメだ。可愛いすぎでしょ」
「どこがですか? その辺はよくわからないですが、中途半端ですみません」
「ううん。とりあえず、俺を見てくれるんだよね?」
「はい」
「俺以外のものになる気はないと?」
「そういうことになりますね」

 念を押してくる相手に答えると、そこで小野寺はガッツボーズしていてもおかしくないくらい喜ぶ。

「やった! やっとだ。やっと、だ」

 感極まったように言われ、千幸も照れ臭くそれでいて温かい気持ちになってくる。
 おののきも含むほどの熱望だが、いざ懐に飛び込むとすごく安心する。
 そう感じることは末期だと思いながらも、くすぐったい気持ちが今は勝つ。

 ──たまには気持ちのままに、でもいいよね。

 考えることは後でだってできるし、今はこうしていたい。流されていたい。
 何より離れていかない相手に、千幸も寄り添いたいと思ってしまったから。

 そんなことを考えていたら、急に難しい顔をした小野寺が指の背でついっと頬を触れてくる。
 その動作と真剣味を帯びた眼差しに、どきりとしていたら今さらなことを言われる。

「元サヤとかなってないよね」
「今ここで言うことですか? なってたら、翔さんとこうしていませんが」

 気になって仕方がなかったのだろう。小野寺も小野寺でヤキモキしていたと知らされて、千幸は思わず笑ってしまった。
 すると、小野寺からも思わずといったように笑いが零れ落ちてくる。

「ふふっ」
「いや、そこで笑うのではなく喋ってください」

 言葉も嫌だが、この人の場合何をどう考えどうしてくるかわからない。
 言葉にされるほうがマシな気がする。

 そう思って言ったのだが、小野寺の次の行動にすぐに発言を取り消したくなった。
 首を捻り少し考えた小野寺が口を開くと、甘い言葉しか出てこない。

「可愛い。一緒にいたい。知ればしるほど離れたくない」
「その、そんなにたくさん言われても」
「千幸ちゃん、俺を見て」

 すっごく照れ臭くて下を向いた千幸の顎をそっと持ち上げ、両手で頬を覆われる。
 まっすぐ合わされる榛色の瞳はものすごく嬉しそうな光を含み、千幸と視線が合うとほっとして次第に照れたように笑う。

 ──なんで、ここであなたが照れる?

 妙にそわそわする。

「千幸ちゃん」

 そう呼ぶ声も数分前のやり取りが嘘だったかのように弾み、ぶんぶんと見えない尻尾が振られている気がする。

「嫉妬、してくれた?」

 いろいろ小さな葛藤を見透かすようににやっとしながら訊いてくる相手に、千幸は少しでも隠そうとこっそり深呼吸をした。

「……して、ないことにしたいです」
「しなくていい。俺は千幸一筋だから」

 とうとう、呼び捨てになった。俺のものだと宣言されているようで落ち着かない。

「だから……」
「千幸に出会ってから、千幸しか見てないから」

 ──それだっ!?

 出会ってからとはいつのことなのか。

「それはバーの時ですか? それとも大学?」
「思い出したの?」

 期待のこもった目で見られ、頬をいまだに押さえられたまま千幸は首を振る。

「いえ。すみません。友人と話している時に大学が同じだということを知っただけで」
「なーんだ。そう。大学で千幸を知ってからずっと」
「そう、ですか」

 知ってから? 曖昧な表現につっと眉間が寄る。

「信じてない?」
「友人に、翔さんの大学時代の噂をいろいろ聞きましたから」
「ああ、いろいろ派手な噂があるみたいだけど。全部が全部本当ではないよ。千幸が聞いたのは何?」
「女性関係とか、交友関係とか、いろいろ」
「ふーん。でも、千幸はまだ俺を思い出してない?」

 顔を近づけ、ごく間近で問われる。

 ──近い、近いっ!

 そう思うが突っ込むことができずに、千幸は間近で小野寺の榛色の瞳を直視した。

 ずっと玄関先でこの距離。
 でも、中にどうぞと言うのも誤解を生みそうだし、じゃあ外で話そうというのも変だ。話す内容が内容で、中断するのも忍びない。

 されるがままに至近距離で話す現状。
 小野寺といるといつもどこか変だ。

 そんな中で、思い出すことをに拘る小野寺の言葉にも知りたいという欲求が高まる。
 もう、いっそのことどんな出会いだったか言ってくれたら早いのにと思う。

 だって、ここまでくるともう思い出せない可能性ほうが高い。
 これだけの美男と接触していて覚えてないというのは、もう千幸の中では通り過ぎた景色の一つになってしまっている可能性がある。期待され待たせた分、結局わからないとなると申し訳ない。
 首を振ると、小野寺は肩を竦めた。

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