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4変甘ネジ

ただ、ただ甘い……?④

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 まだ言葉はもてない。ふわふわとこそばゆいものが浮いて熱を上げていくが、何を言っていいのかわからなかった。
 でも何も返さないのは嫌で、だから少しでも気持ちを返せるようにとそっと抱き返した。
 すると、小野寺の表情がわかりやすくぱあぁっと嬉しそうに綻んでいく。

「千幸ちゃん……」

 感極まったように甘い声で耳朶に名を吹き込まれる。ぞくっと肌を粟立たせると、美貌がやわらかくほどけていく。
 本気で喜んでいるのだとわかるそれが目の前で広がり、じっと見上げて見ていたらそれを隠すように強く抱きしめられた。

 ぶにっと頬が押しつぶされるほど力を込められ、耳に聞こえる小野寺の力強い脈打つ鼓動に気づく。
 ドクドクドクッ、とありえないくらいの速さで主張しているそれに、千幸の鼓動も釣られるように速くなる。

 ――もう、いろいろずるいよね。

 好きだ、好きだと訴えてくるような鼓動と抱擁に、どれだけ欲しいと思われているのかを知らされる。
 言葉数が少ない千幸に、小野寺がまた不安になったのか、それとも徹底的に誤解を解こうと思ったのか言葉を重ねた。

「千幸ちゃん。さっきも言ったが、彼女は仕事の付き合いで何もやましいことはなくて、今日になったのは…」
「信じます」
「……本当?」

 恐る恐る、千幸の表情を読み取ろうと窺ってくる。
 いろいろ強引なくせにこういうところが、……ああ、思考がおかしくなってきた。

「はい。本当です」
「絶対?」
「絶対です」
「本気で?」
「本気です。って、しつこいですね」

 ──どれだけ念を押してくるんだ、この人はっ!

 ちらりと見上げると、切れ長の瞳が愛おしそうに細められていた。
 しつこいって言ったのに微笑まれてるってどうなのだろうか。やっぱりついていけないと、千幸は金縛りにあったみたいに硬直した。

 小野寺のポイントがわからない。
 わからないが、ちょっと首を傾げて可愛いことを告げる大型犬から目が離せない。

「だって、千幸ちゃんが本気でって言ったから」

 そこでふわっと、本当にふわふわっと微笑まれ、千幸は呆れるとともに観念した。

 ──それのどこに感激スイッチが?

 わからない人だなぁと思いながらも、それが可愛く思えてきてるなんてどうなっているのか。

「本気って。女性は仕事のお付き合いであり、その、翔さんが私を好いてくれていること、こうしてアプローチを受けているのは自分だけだということを信じるということですよ」
「当たり前だよ」

 誇らしげに言われ、千幸は嘆息した。
 やっぱりどこか微妙に違うと思うのは自分だけなのか。
 それでも一度可愛いと思ってしまったら、いろいろ突っ込みながらも許せてしまうというか。気になるけど、嫌ではないというか。

 ああ、これはもう諦めろということか。
 ごちゃごちゃ考えていたこととか、躊躇する思いとか、理性とか、心が竦む弱い自分とか、丸ごと持っていかれる。

 ぐいっと丸ごと吊り上げられて、もういいだろうと連れていかれる予感。
 未知の領域に、怖いけどその怖ささえもすべて包み込まれるように黙らされる感じだ。

 踏み出さなければ、強引に引っ張りあげられてしまう。
 なら、自分から踏み出すほうがまだいい。何がなんだかわからないままは千幸の性格上嫌だった。
 こくりと息を呑み、よしっと最初に話そうと思っていたことを告げようと口を開いた。

「そうですか……。で、ですね。話を戻しますね。ちょっと今日の帰りに前に見た腕を組んでいた女性と一緒にいるところを見てちょっと、ちょっとですよ? ショックだったというかなんというか」
「それって……」

 期待がこもった眼差しに、直視していられず千幸は誤魔化すように目を逸らす。

「付き合ってもいないし明確な答えも出してないのに気になって。ごちゃごちゃ考えてしまって、電話取るタイミングと返すタイミングを逃してしまいました。ごめんなさい」
「……千幸ちゃん!!!!!!!」

 そう名を呼ばれたかと思ったら、さらりと唇を奪われた。吐息と柔らかいものが一瞬触れて離れていく。
 そして、呆然とする千幸にお構いなしに、満面の笑みとともに頬に柔らかい軽いキスが落とされる。

「キスしてもいい?」
「されましたけど?」
「もう一回、ね」

 いいでしょと期待のこもった眼差しで軽く首を傾げられる。

「可愛く言っても、ちっとも可愛くありません」
「だって、すっごく待った」

 ぷ、と唇を尖らせないでください。

「その、待ったがよくわからないんですが」
「こうしてるってことはもう俺のものだよね?」
「その、それですが。まだ翔さんの気持ちについていけてません」
「千幸ちゃん……」

 正直に話すと、そこでしょぼんとされる。
 この世の終わりかってほど眦を下げ、ショックを隠さずがっくりされる。
 待たせて、期待させて、ちょっと申し訳ない気持ちもあり、千幸は慌てて言葉を続けた。

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