上 下
56 / 143
4変甘ネジ

ただ、ただ甘い……?③

しおりを挟む
 
「状況などで判断が変わるのもわかりますが、誤解を招く行為だったとは思います」
「そうだね」

 それを伝えると、しんみりと小野寺は頷いた。
 むむぅっと考えどよんとへこむ相手に、千幸は苦笑を漏らす。

 やはり、あの場で腕を組むことは好ましくはない。
 だけど、女性が困っていているのにそこで腕を払う男性のほうが嫌だ。

 それがたとえ女性が好意を得たいための演技だったとしても、あんな人通りがある場所で女性の立場を悪くさせるような行動はちょっとって思う。場の雰囲気も悪くなる。
 常識的に相手の立場や状況を判断できる余裕がある男性のほうがいい。

 なんかもう、いろいろタイミングが悪かっただけのようだ。
 さっきの『それだけ』というのも、本当に言葉のままで『それだけ』なのだろう。

 小野寺にはただの動作の一つであり、理由を聞くとまあわからないでもない。
 だけど、やっぱり言葉足らずだったし、言葉巧みにうまく丸め込むのではなく聞いたら聞いた分だけわかってほしいと真摯に説明が返ってくる感じが、意外といえば意外だ。

 ぐいぐいアプローチし押してくるから、そういうことも先回りしそうというか、口でうまく進めてくるかと思っていたけれど、不器用というか。
 タイミングの問題だとしても、小野寺ならもっと上手に甘い言葉攻めでけむに巻けるように思える。

 それをしないのかできないのかはわからないが、意外や意外、恋愛下手というか、やっぱり眼差し同様まっすぐなんだなとも思ったり。
 気づけば、千幸はすっかり気持ちも楽になっていた。まだ必死に話す小野寺の話に耳を傾けた。

「あの時は本当に事故みたいなもので、仕事の延長であり女性と食事だとしても気持ちも仕事時間で、それ以上でも以下でもなくて。だから、その、誤解だとわかってもらえたらと思うのだけど」

 そこでじじじっと視線攻め。
 榛色の瞳は千幸だけを映し、それ以外は映したくないとばかりだ。

 ──なんかっ、もう……

 面と向かって話されることは疑いたくない、な。
 疑問には一から十まで答え、信頼を獲得しようと必死な相手に、千幸はふっと笑みを浮かべた。
 すると、ほっと安堵を浮かべた小野寺がさらに言葉を重ねてくる。

「千幸ちゃん、信じて。俺は千幸ちゃんしか見てないし、心も身体も千幸ちゃんしかいらない。千幸ちゃんだけが欲しい」  
「…………」

 ──うっわぁぁぁぁ!!!!!!

 千幸は真顔で呆然としていたが、内心はパニックパレードのように、うわうわうわっと心がぞくっと上がり下がりしっぱなしだ。
 さらっと、さらっと言ったよこの人。

 『心』も『身体』もって言った? 言ったよね? えっ、そういうことをさらっと言える?
 平然とされるとこっちが恥ずかしい。

 ただ、それでわかったことがあった。唐突に理解した。
 すでに千幸は捕まっていて今か今かと待たれている状態だということだ。肉食獣にいつ皿に乗る? と見定められているようだ。

「誤解は解けた?」
「まあ」
「まあ?」
「だいたい」

 さっきまでは焦っていたとの言葉通り必死だったと思う。
 だけど今は千幸が笑顔を見せたことで少し通常モードを取り戻しつつあるのか、いつものように甘い眼差しで窺うように軽く首を傾げた。

「そうか、まだ足りないか。俺が好きなのは千幸ちゃんなんだけど? 触れたいのも千幸ちゃんしかいない」
直截ちょくせつ的すぎます」
「本当のことだ」

 堂々と宣言すると、するりと人差し指を千幸の唇の下のきわどい位置を往復するように撫で、ふ、とそこで色めいた表情で小野寺は笑った。
 どくん、と胸が鳴る。
 逃すわけないだろうとばかりのそれに、不安からか期待からなのか、どっちの意味で心臓が跳ねたのか自分でも謎だ。

「どうしたら俺のものになる?」

 その上でこのセリフ。
 本人大真面目。爆弾発言は無自覚のまま、千幸だけが欲しいしと訴えどんどん爆弾を放り投げてくる。

 しかも、反応のない千幸に焦れて甘えるようにすりっと距離を詰めてくるからたまったものではない。
 きゅぅぅんと甘える鳴き声が聞こえてきそうなほどじっと見つめられ、千幸もその瞳から目を離せない。

「…………どうしたらって」
「誰にもやりたくない」
「…………っ」
「俺のそばにいてほしい」

 甘く、甘く低く響く声で切に訴えられ、ぎゅっとまた抱きしめられた。
 その声が脳に浸透していき、抱きしめられどうしていいのかわからない手を小野寺に回しそうになる。熱に浮かされる。

 そもそも答えを出してないのにもう付き合っているような会話。
 互いにそれに対して口論すること自体変なのに、相手は本気で微塵もやましい気持ちも行動もなかったと訴えながら次々と攻めてくる。

 しかも、抱きしめられながら……と思っていたら、そこで身体の密着がほどかれ少し隙間があいたかと思えば顎をくいっと持ち上げられた。
 本気で逃げようと思ったら逃げられた。

 だけど、優しく甘く、情熱的に気持ちを向けられて、逃がさないと囲い込まれ、その必死さにそうすることは無駄だと言われている気がして抵抗する気がなくなる。
 小野寺のことをすべてわかってはいないしまだまだ疑問はあるけれど、じっと向けられる熱い双眸に負けて千幸はそっとそっと小野寺の背中に手を回した。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

セカンドラブ ー30歳目前に初めての彼が7年ぶりに現れてあの時よりちゃんと抱いてやるって⁉ 【完結】

remo
恋愛
橘 あおい、30歳目前。 干からびた生活が長すぎて、化石になりそう。このまま一生1人で生きていくのかな。 と思っていたら、 初めての相手に再会した。 柚木 紘弥。 忘れられない、初めての1度だけの彼。 【完結】ありがとうございました‼

【完結】【R18】男色疑惑のある公爵様の契約妻となりましたが、気がついたら愛されているんですけれど!?

夏琳トウ(明石唯加)
恋愛
「俺と結婚してくれたら、衣食住完全補償。なんだったら、キミの実家に支援させてもらうよ」 「え、じゃあ結婚します!」 メラーズ王国に住まう子爵令嬢マーガレットは悩んでいた。 というのも、元々借金まみれだった家の財政状況がさらに悪化し、ついには没落か夜逃げかという二択を迫られていたのだ。 そんな中、父に「頼むからいい男を捕まえてこい!」と送り出された舞踏会にて、マーガレットは王国の二大公爵家の一つオルブルヒ家の当主クローヴィスと出逢う。 彼はマーガレットの話を聞くと、何を思ったのか「俺と契約結婚しない?」と言ってくる。 しかし、マーガレットはためらう。何故ならば……彼には男色家だといううわさがあったのだ。つまり、形だけの結婚になるのは目に見えている。 そう思ったものの、彼が提示してきた条件にマーガレットは飛びついた。 そして、マーガレットはクローヴィスの(契約)妻となった。 男色家疑惑のある自由気ままな公爵様×貧乏性で現金な子爵令嬢。 二人がなんやかんやありながらも両想いになる勘違い話。 ◆hotランキング 10位ありがとうございます……! ―― ◆掲載先→アルファポリス、ムーンライトノベルズ、エブリスタ

絶倫彼は私を離さない~あぁ、私は貴方の虜で快楽に堕ちる~

一ノ瀬 彩音
恋愛
私の彼氏は絶倫で、毎日愛されていく私は、すっかり彼の虜になってしまうのですが そんな彼が大好きなのです。 今日も可愛がられている私は、意地悪な彼氏に愛され続けていき、 次第に染め上げられてしまうのですが……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

陛下の恋、僕が叶えてみせます!

真木
恋愛
もうすぐヴァイスラント公国に精霊がやって来る。 建国の降臨祭の最終日、国王は最愛の人とワルツを踊らなければならない。 けれど国王ギュンターは浮名を流すばかりで、まだ独身。 見かねた王妹は、精霊との約束を果たすため、騎士カテリナにギュンターが最愛の人を選ぶよう、側で見定めることを命じる。 素直すぎる男装の騎士カテリナとひねくれ国王ギュンターの、国をかけたラブコメディ。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...