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4変甘ネジ
ただ、ただ甘い……?③
しおりを挟む「状況などで判断が変わるのもわかりますが、誤解を招く行為だったとは思います」
「そうだね」
それを伝えると、しんみりと小野寺は頷いた。
むむぅっと考えどよんとへこむ相手に、千幸は苦笑を漏らす。
やはり、あの場で腕を組むことは好ましくはない。
だけど、女性が困っていているのにそこで腕を払う男性のほうが嫌だ。
それがたとえ女性が好意を得たいための演技だったとしても、あんな人通りがある場所で女性の立場を悪くさせるような行動はちょっとって思う。場の雰囲気も悪くなる。
常識的に相手の立場や状況を判断できる余裕がある男性のほうがいい。
なんかもう、いろいろタイミングが悪かっただけのようだ。
さっきの『それだけ』というのも、本当に言葉のままで『それだけ』なのだろう。
小野寺にはただの動作の一つであり、理由を聞くとまあわからないでもない。
だけど、やっぱり言葉足らずだったし、言葉巧みにうまく丸め込むのではなく聞いたら聞いた分だけわかってほしいと真摯に説明が返ってくる感じが、意外といえば意外だ。
ぐいぐいアプローチし押してくるから、そういうことも先回りしそうというか、口でうまく進めてくるかと思っていたけれど、不器用というか。
タイミングの問題だとしても、小野寺ならもっと上手に甘い言葉攻めで煙に巻けるように思える。
それをしないのかできないのかはわからないが、意外や意外、恋愛下手というか、やっぱり眼差し同様まっすぐなんだなとも思ったり。
気づけば、千幸はすっかり気持ちも楽になっていた。まだ必死に話す小野寺の話に耳を傾けた。
「あの時は本当に事故みたいなもので、仕事の延長であり女性と食事だとしても気持ちも仕事時間で、それ以上でも以下でもなくて。だから、その、誤解だとわかってもらえたらと思うのだけど」
そこでじじじっと視線攻め。
榛色の瞳は千幸だけを映し、それ以外は映したくないとばかりだ。
──なんかっ、もう……
面と向かって話されることは疑いたくない、な。
疑問には一から十まで答え、信頼を獲得しようと必死な相手に、千幸はふっと笑みを浮かべた。
すると、ほっと安堵を浮かべた小野寺がさらに言葉を重ねてくる。
「千幸ちゃん、信じて。俺は千幸ちゃんしか見てないし、心も身体も千幸ちゃんしかいらない。千幸ちゃんだけが欲しい」
「…………」
──うっわぁぁぁぁ!!!!!!
千幸は真顔で呆然としていたが、内心はパニックパレードのように、うわうわうわっと心がぞくっと上がり下がりしっぱなしだ。
さらっと、さらっと言ったよこの人。
『心』も『身体』もって言った? 言ったよね? えっ、そういうことをさらっと言える?
平然とされるとこっちが恥ずかしい。
ただ、それでわかったことがあった。唐突に理解した。
すでに千幸は捕まっていて今か今かと待たれている状態だということだ。肉食獣にいつ皿に乗る? と見定められているようだ。
「誤解は解けた?」
「まあ」
「まあ?」
「だいたい」
さっきまでは焦っていたとの言葉通り必死だったと思う。
だけど今は千幸が笑顔を見せたことで少し通常モードを取り戻しつつあるのか、いつものように甘い眼差しで窺うように軽く首を傾げた。
「そうか、まだ足りないか。俺が好きなのは千幸ちゃんなんだけど? 触れたいのも千幸ちゃんしかいない」
「直截的すぎます」
「本当のことだ」
堂々と宣言すると、するりと人差し指を千幸の唇の下のきわどい位置を往復するように撫で、ふ、とそこで色めいた表情で小野寺は笑った。
どくん、と胸が鳴る。
逃すわけないだろうとばかりのそれに、不安からか期待からなのか、どっちの意味で心臓が跳ねたのか自分でも謎だ。
「どうしたら俺のものになる?」
その上でこのセリフ。
本人大真面目。爆弾発言は無自覚のまま、千幸だけが欲しいしと訴えどんどん爆弾を放り投げてくる。
しかも、反応のない千幸に焦れて甘えるようにすりっと距離を詰めてくるからたまったものではない。
きゅぅぅんと甘える鳴き声が聞こえてきそうなほどじっと見つめられ、千幸もその瞳から目を離せない。
「…………どうしたらって」
「誰にもやりたくない」
「…………っ」
「俺のそばにいてほしい」
甘く、甘く低く響く声で切に訴えられ、ぎゅっとまた抱きしめられた。
その声が脳に浸透していき、抱きしめられどうしていいのかわからない手を小野寺に回しそうになる。熱に浮かされる。
そもそも答えを出してないのにもう付き合っているような会話。
互いにそれに対して口論すること自体変なのに、相手は本気で微塵もやましい気持ちも行動もなかったと訴えながら次々と攻めてくる。
しかも、抱きしめられながら……と思っていたら、そこで身体の密着がほどかれ少し隙間があいたかと思えば顎をくいっと持ち上げられた。
本気で逃げようと思ったら逃げられた。
だけど、優しく甘く、情熱的に気持ちを向けられて、逃がさないと囲い込まれ、その必死さにそうすることは無駄だと言われている気がして抵抗する気がなくなる。
小野寺のことをすべてわかってはいないしまだまだ疑問はあるけれど、じっと向けられる熱い双眸に負けて千幸はそっとそっと小野寺の背中に手を回した。
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