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4変甘ネジ
私情上等 side翔①
しおりを挟む小野寺翔は疲れた表情が少しでも隠れるように、早く終わらせたい気持ちを抑え込み、持っていたコーヒーカップに口をつけた。
かれこれ一時間以上、目の前の兼光令嬢が次々に話題を繰り出し、少しでも接点を持とうと時間を延ばそうと必死に話すのを聞いていた。
──時間が経つのが遅い! 話が長すぎるっ!
内心の愚痴など知らない相手は、話が弾んでいると思ってか滑らかな口が止まることはない。
「それで先日友人と行ったお店がとてもよかったんです。今時なのに懐かしさもあって、綺麗なのに自然な温もりを感じられて。すごくインスピレーションを受けました」
「感性が豊かなんですね」
「いえ、そんなものではなくただいいなぁっと。もし、小野寺さんにご興味があればご一緒にと思いまして」
「お誘いは嬉しいのですが、現在立て込んでおりまして。せっかく教えていただいたので、部下と仕事の合間にそちらの方面に行くことがあればぜひとも寄ってみようかと思います」
「そう、ですか」
「素敵な情報をありがとうございます」
そこで内心の苛立ちを隠すようににっこりと微笑み、じっと見つめる。
「……お役に立てて良かったです」
兼光令嬢は遠回しに断られたことに気づき落胆するように視線を下げかけたが、見つめられて頬を染める。
そのまま髪をそっと触り耳にかけ、じっと見つめ返された。
うるっとした瞳でザ・上目使い。
翔は息を吐き出したいのを我慢して、にこっと笑って視線を逸らした。
手馴れてるなぁ、そんな感想とともに内心舌を打つ。
彼女の話などどうでもよく、なぜ聞かないといけないのかと思うような話に付き合わされ、ずっと性的にアプローチされ続け翔は疲弊していた。
ただでさえ千幸が会社の送別会という名の飲み会、つまり元彼と酒の席に一緒にいることが気にかかっている。
千幸の気持ちがふらふらと元彼に戻っていく可能性が全くないとは言い切れず、何があるかわからないのが男女だ。
──ここまできて元サヤとかありえない。千幸は俺のものだ。
話に適度に相槌を打ちながら、思考は千幸のことばかり。
翔は今まで恋愛をしてきたつもりだった。正確にいうと、男女という付き合いをわかっているつもりであった。
だけど、千幸のことだけはわからない。
こうしたらと思うようなことが通じない。自分の気持ちもうまくコントロールできない。
ぐつぐつ、ぐつぐつ、それは翔の中で煮立ってよくわからない状態になっていた。
そんななかでの元彼との酒席に対して気掛かりを抱えたなか、無意味な時間を延ばされている。
そろそろ千幸との約束の時間が近い。できれば彼女が帰ってくるまでに自分も帰宅していたい。
一分でも一秒でも千幸と過ごせる時間を増やしたい。
何より今日はもう少し先に、この手のそばに、もっと隣に千幸を引き寄せると決めている。
逃げ道は残さない。あるなら潰していく。千幸には甘い道しか残さない。
そう決めた翔はぶれない。
一度、手に入れたいと思ったら手に入れるまで諦めない。
そうなるように努力してきた。
迷走していた時期もあったが、今は明確に千幸をこの腕に捉えるためだとわかって行動している。
たとえ轟や桜田が引いていたとしても、大事に大事に真綿で包むように千幸を捕まえると決めている。どれだけ周囲がドン引きしようと知ったことではない。
翔からすれば長いこと待った。待ちすぎるくらい待った。
そしてここ最近、千幸も気にしてくれている気がする。前より、少し自分を意識していると思う瞬間がある。
この機を逃すつもりもなく、仕事の区切りも見え始めこの辺で余計なものはしっかりシャットアウトするつもりだ。
仕事以外は、千幸だけに集中したい。それくらい彼女が欲しい。
ほかの女では満たされない。もう彼女でないと、千幸でないとダメだ。それに理屈なんてない。
隣に住むようになって、それをますます実感している翔に迷いはない。
千幸を手に入れるためにこまねいていられない。
ホテルのレストラン。
日頃から隅々まで目端を効かせていると感じさせる給仕が皿を下げるのを確認すると、翔は目の前の女性に向けて整った顔立ちに笑みを刻んだ。
「料理も美味しかったですし、素敵なホテルで食事ができてよかったです」
その表情に兼光令嬢は一瞬見惚れるような表情を浮かべたあと、目を瞬いて小さく会釈をする。
「ありがとうございます」
長い髪は綺麗なカールを描き、手入れされた爪、ボディーラインを強調した服。
先ほどから、谷間を強調するよう少し見せるように動いているが、そのあざとさが鼻につき何も唆られない。
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