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3惑甘ネジ
めんどうなのに③
しおりを挟む小野寺は千幸が見ていたことを知らないはずなので、今、彼は何を言ってほしいのか。
本気でわからず黙っていると、溜め息をついた小野寺が焦れたようにねぇと覗き込んで困ったように苦笑しながらささやく。
「桜田にキスされてごめん、って言って」
――……ん?…………??
「……………………はっ?」
────そっち? えっ? そっち?
女性にされたことに嫉妬しているの?
いや、そもそもあなたの友人じゃないんですか?
「千幸ちゃんは俺のものになる予定だから、手を出されたらいけないでしょ」
────???? いやいやいや。
ちょっとこのあいだからおかしいですよ?
前からおかしかったけど、変だったけど、やっぱり変です。
付き合ってませんし。独占欲が……、独占欲の出し方、何か変じゃないですか?
「意味が、わからないのですが」
混乱の極みだ。
そんなところを責められてどうすればいいのかわからない。
どうしようもないし、そもそも付き合ってもいないのに責められて、小野寺の友人でしかも女性がしたことなのに拗ねられて。
そもそも予約ってそんなとこまで予約?
予約ってどういうものだっけ? 返事は保留状態になっているから予約?
わからない。
そもそも、自分はその状態を了承したのだったっけ?
もしかして自分限定で緩むらしいネジは、緩みすぎて外れて飛んでたりするのだろうか? だから、ますます理解できないとか?
そんな訳のわからないことを考えてしまうくらいついていけない。
その小野寺のネジが自分の中に入ってしまったかのように、落ち着いて考えられない。そういう隙を与えてくれない。
もしかして、隙間をネジで埋められているのだろうか……?
ああ、ダメだ。思考が毒されている気がする。
眉根を寄せて困っていると、小野寺は苦さを湛えて笑うというなんともいえない表情をした。
「そう。わからないなら仕方がないね」
そう言って寄ってきたかと思えば、先ほど桜田に触れられたところをちゅぅっと音を立てて吸われた。
「消毒。跡は残ることはしてないからね」
これくらいは許してと、またちょっと唇を尖らせて名残惜しそうに触れた場所に視線をやる。
――いや、言うことそれじゃないでしょう。
なんてところ吸ってくれるのか。
頬にされた時より、吐息のかかる時間と触れる時間が長い。
「そういう問題じゃ……」
「あまり俺を試すようなことしたらダメだよ」
最後まで言わせてもらえない。
ふぅっと息を吐き出しながら窘められたけれど、私は何もしてませんから。
受け身も受け身。
そういうのが申し訳ないと思う暇さえないくらい、怒涛の攻撃にこちらから仕掛けるということはできない。
「意味がわかりません」
「うん。千幸ちゃんが千幸ちゃんというだけで、俺の我慢がきかなくなるだけだから。千幸ちゃんにたとえその意思がなくても、注意してくれないと知らないよ」
何、その禅問答みたいな返答は。
知らないよって何が?
えっ? 結局はこちらが注意してどうにかなるものではないのに、それが小野寺の琴線に触れたら知らないよってこと?
とっても怖いんですけど……。
「…………それはなんというか」
「だからね、気をつけようか」
──何が? ほんと、何が?
「俺が千幸ちゃんを好きな気持ちを見くびらないように。千幸ちゃんは俺の腕の中にくること以外考えたらダメだから」
ど直球だ。
しかも、腕の中。隣から予約へ、とうとう腕の中ときた。
というか、今、二人の距離がやばい。
鼻と鼻が触れそうなくらい、吐息と吐息が混ざり合うくらいの近さで甘く詰られ、何の時間だろうか。
好かれている。それを疑うことは今この瞬間はできない。だけど、たくさんの疑問はあって、何より……
「どうしてそんなに?」
自分のことを求めているのか。
見つめ合う距離で互いの視線が絡む。
千幸が切り出したことに、小野寺の視線にさらなる熱が生まれる。
とろりとチョコを溶かすような眼差しと声音で、ふっと小野寺が吐息とともに微笑んだ。
耳を食べられるのではないかというほどの近さで、そっと熱っぽくささやかれる。
「知りたい?」
ぞわりと這い上がる悪寒にも似たものを押し殺し、何も感じていないように笑みを浮かべる。
「そうですね」
眼光勝負のような間近でのやり取り。少しでも視線を逸らせたり逃げるそぶりを見せたら襲いかかられそうだった。
その隙からどんどん攻められてしまいそうで、それは本意ではないので負けじと小野寺を見た。
絡み合う視線。家の前、この距離で何をしているのか。
夜の静寂を意識し冷静さを取り戻そうとしたその時、小野寺が瞼を一度閉じるとわずかに後ろへと下がった。近すぎた距離が少し開く。
それにほっと胸を撫でおろす間もなく、そういった千幸の意図を汲んだのか、小野寺の美貌が目の前で柔らかにとろけた。
――目の毒だ……。心の毒だ……。
そこでとろけられると困ってしまう。
流されたくない。そういった小野寺のすることに逆らいたいと思っている感情を汲み取られ、喜ばれている。
強引なのに、千幸の大事な部分は掬い取るよう、それさえも慈しむように思われているようで、胸の奥へとトトトトッと血液が送られることを意識する。
掴んだ手はそのまま、小野寺がくすりと微笑む。
「なら、月末の金曜日は少しそういう話をしよう。そろそろ俺も焦れてきたところだ。でも、それまでに思い出してくれると嬉しいのだけど?」
ぶんぶんと首を振り思い出す兆しがないことを告げると、小野寺はあからさまにがっかりと肩を落とした。
「思い出せなくても俺のことをもっと考えて。そしたら、送別会は許してあげる」
──だから、恋人じゃありませんから!
恋人でもそこは言ったらダメなやつですよ。仕事と私どっちが大事? 的な。
仕事の付き合いに対して、あまり突っ込まないほうが平和というもんです。
千幸はそういった感情をぐっと呑み込んだ。
────めんどうなのに。
どうしてこんなにも視線や気持ちが持っていかれて、気にしてしまうのだろうか。
腑に落ちないことはいろいろあるが、ようやく解放される気配をみすみす逃してなるものかと曖昧に頷いて誤魔化した。
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