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3惑甘ネジ
誤算 side翔①
しおりを挟む両開きの重厚なドアを開けると、まず気品溢れる内装に深みのある木製の家具類に視線がいく。
それに合わせるようにベージュで色味を統一し、重厚さだけではなく洒落ている印象を持たせる部屋は、高級感はあるが堅苦しさを感じさせない。
それ相応の社会的地位の者の部屋だとわかるそこで、流暢なフランス語を話す男。
間合いなどから電話でやり取りをしているらしいが、甘く張りのある男らしい声はどんな時でも聞き惚れる。
デスクの上にはパソコンと書類。その前には外国語を話す彼の組んだ長い足が机から見え、ワイシャツの袖をまくりそこから見える男らしい腕には高級時計がつけられている。
誰もが認める美形。美声から想像する通りに骨格すべての配置がこれ以上ないというくらい完璧で整った顔立ちをしている。
二重できりっとした怜悧な目元、何より榛色の瞳は見た者を忘れさせない魅力を備えていた。
真剣な眼差しで仕事の話をしているのかと思いきや、わかったと笑みを漏らす余裕もあるようで、相手方と信頼関係が築けていることがわかる。
電話を切ったことを見計らったようなタイミングで、コンコンとノックし一礼すると女性が入ってきた。
両開きの扉とは別にほかの部屋に続いていると思える扉。そこから物音や話し声が聞こえる。どうやら秘書室と繋がっているようだ。
洗練された身のこなし、白いボトムに淡いピンクのシャツの彼女はできる秘書を思わせる。
長い髪をきゅっと後ろでくくり、大きめの金のピアスをしゃらりと揺らし、見かけ通り放つ声も涼やかだ。
「社長、ミズウェルダンからお電話です」
「わかった。二番に回して」
「かしこまりました」
また一礼して去っていく姿を見送り、繋がったのを確認した小野寺翔は電話をとった。
「こんにちは」
応答すると、相手は待ってましたとばかりに親しみのある口調で文句を告げる。
『ショウ。ひさしぶり~。最近はちっとも遊びに来てくれないから寂しいわ』
「お久しぶりです。メアリー。ありがたいことに忙しくさせてもらってますので」
苦笑とともに返す英語は、外国語の中では一番話しやすく使い慣れたものだ。もともと耳が良いのか、語学は得意だ。きっと父方の血を色濃く引いた所以だろう。
英語のほかに、フランス語、イタリア語、スペイン語などすべてが完璧ではないが、仕事と日常会話ぐらいなら支障はない。
『いろいろ手広くやっているようね』
「おかげ様で」
謙遜することなく告げると、電話の向こうで密やかに笑う気配がした。
それだけで、久しぶりだった距離があっという間に以前のものへと変わる。
『そ。よかったわ。で、こっちの仕事に力を貸してほしいのだけどどうかしら?』
それを狙ってかどうかはわからないが、さらっと振ってくる話に翔も同じように笑った。
「わかりました。このタイミングということは、こちらの動きを把握されているのでしょう。正式な仕事ということでしたら通しておきます」
脳内でスケジュールと今ある仕事を確認し、ついでに轟の仕事の動きもパソコンで確認した。忙しいが、なんとかなるだろう。
むしろ、その後の利益のことを考えると今動かずしてというところだ。
『話が早いわ。緊急なのよ。任せていたところが不祥事起こしてね。デザイナーばたばた倒れるわ、最悪よ』
どうしても愚痴らずにはいられなかったようで、その言葉でどこと契約していたのかがわかってしまった。
次から次へと出てくる男の所業を、大々的に世界のマスコミが取り上げていたので日本にも情報が伝わってきていた。
「ああ、女優と不倫したあげくいろいろ出てきたあれですか。あそこが関わっていたのですね」
それは大変だと髪をかきあげてそう告げると、いずれ知れることだからと電話の向こうでは堂々と認め溜め息をついた。
『そうよ。よくもこんな大事な時期にと嘆いてもしかたないけどね。口だけの緩い男だなとは思ってたのだけど、案の定よ。そもそも、最初からショウが引き受けてくれていたら問題なかったのに』
ついでのように文句を言われ、見えていないだろうが翔は肩を竦めた。
「話があった時は忙しく、その時は調整できなかったから仕方がないですよ。わかりました。お詫びじゃないですが、調整するよう轟に伝えておきます」
パソコンのマウスをカチカチクリックしながらそう告げると、言葉通りに嬉しそうなトーンが電話口から聞こえた。
『ワオー。彼を担当に回してくれるの? 彼、キュートで仕事もできるからこちらも嬉しいわ』
「それも伝えておきます。ただし、しっかり金額は上乗せさせてもらいます」
『仕方がないわね。それでも今を切り抜けられるなら安いものよ。愛してるわ。ショウ』
「はいはい。俺も」
『じゃあ、連絡待ってるから』
それだけ言うと、よほど忙しいのか慌ただしく切った。
翔は嘆息し、轟にこの件を簡潔に伝えるためにメールをした。彼は別件の業務に携わっており、翔を送り届けた後は別行動をしていた。
また、勝手をして怒られるだろうが、ウェルダンの仕事は仕方がないとわかってくれるだろう。
事業を立ち上げた際、世話になった相手だ。
打ち終えたところで、今度は手に書類を抱え現れた秘書の白峰美来が、何とも微妙な顔で自分を見た。
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