24 / 143
2甘ネジ
となり⑤
しおりを挟む「じゃないと、考えませんよ?」
これは、あれだ。犬のしつけと一緒だ。
言葉だけでなくしっかり目で訴えなければわかってもらえないだろうと、逸らしたいのを我慢して見つめる。
すると熱っぽい吐息を吐き出し恨めしそうに千幸を見た小野寺が、逸らさない千幸の視線に何を思ったのかすぐさま口元を緩めた。
「わかった。隣同士の部屋に帰ろう」
「……そうですね。隣ですね」
隣、なんだ。
今さらながらに、隣っていうワードがすごい。
もう頭がごちゃごちゃというか、考えがぐるぐるミキサーで回されてるようでまとまらないから一人になりたい。
だけど、家に帰っても壁越しではあるが隣に小野寺がいる。
こうなってくると、ずっと意識しろと言われているようだと長い息を吐き出した。
腕は離してもらったが、少しも離れたくないとばかりに手首を掴まれながら歩く。
「ちょっ、離してください」
「嫌だ。俺は少しでも触れていたい」
何それ?
触れていたいって何それ?
顔を引きつらせながら、ちゃんとわかりましょうと言い聞かせるように一語一語丁寧に告げる。
「そういう関係ではありませんが?」
「でも、俺はそうなりたいって言った。予約した」
お返しにとばかりに相手は噛みしめるように告げてきて、さらに増えたワードに千幸は目を丸くして小野寺を見た。
「予約って……」
「千幸ちゃんが本気で嫌がることはしないから、これくらいは許して。ね?」
「いえ、本当、意味がわかりませんが」
「そんなに抵抗するなら恋人繋ぎするけど?」
「じゃ、これでいいです」
「だろ?」
――だろって何????
繰り出される言動の理解が追いつかない。
だんだん、自分でも何の話をしているのかわからなくなってきた。
超マイメペースのハイペース。
次々、先手を打ってくる相手にどよょーんと気持ちが落ちていく。
ものすごくさりげなくアプローチ、いや、強引にことを進められて、本人はしれっとした顔をしている。
結局、常に主導権を持っている相手に丸め込まれているように感じた。
それが悔しいのに、ここで突き放したいのに、絡まる視線は好きだと訴えられ続け、掴まれた腕はやはり熱い。
その熱さを嫌だと感じることができず、本気の抵抗ができない。
どんどん距離を縮めてくる相手に自分がどうしたいのかわからないまま、対応も今までの恋愛経験からは何も生かすことができない歯がゆさ。
きゅっと口元を引き結ぶと、部屋の前まできてペースをかき乱してくる相手をじっと見上げた。
「ん、何?」
平然とした顔で、いつものようにふわりと微笑む小野寺を千幸はしげしげと見つめた。
欲しい宣言された今、流されっぱなしも嫌だし敵を射るような視線を向けて観察する。
それも平然と受け止めるか、何かしらの甘いリアクションがあるかと思えば、じっと見つめる千幸の眼差しに耐えきれなかったのか、今度は小野寺から視線を外した。
あれっ? と首を傾げかけ、あっ、と小野寺の小さな変化に気づく。
わずかばかり耳元が赤くなっているのを見つけて、平然としているようで結構いっぱいいっぱいだったりするのかと、小野寺を食い入るように見つめた。
すると、赤い範囲が広がり熱っぽい視線が千幸を責める。
「千幸ちゃん。そんなに熱い視線を向けられると襲ってほしいのかと勘違いしそうになるからやめて」
「あっ、それはないです」
パッと慌てて視線を外したが、耐えきれないとばかりにぼそりと耳元でささやかれる。
「っ、襲ってしまいたい」
「いや、ホントすみません。もう、寝ましょう、ね」
ゾクゾクくるような、この一帯を酸欠状態にするのかってほどの熱を向けられて、謝るからわかってともう一度視線を合わせる。
「………っ」
「ね。もうこれ以上は見ませんから」
「それは嫌だ」
それは嫌なんだ。見てほしいの? 見てほしくないの?
見なかったら見なかったで話が進まないだろうし、見たら見たで熱を向けられてどうしろと。
「ああぁぁ~。とりあえず、今日はキャパオーバーです。ここで解散です。おやすみなさい」
熱の孕んだ空気に当てられそうになり、わずかに逃げ腰になりながら就寝の言葉を告げる。
「……ふっ。いい夢を。おやすみ。千幸ちゃん」
離れがたいとばかりに掴んでいた手首小野寺はを一度きゅっと掴むと、そっと手を離す。
掴まれていた手首が、回され触られていた腕の部分が、まだそこにあるかのように存在を感じる。
それ以上、小野寺を見ることができなかった。
トクトクトクとあらゆるところが音を立てて、熱がこもり始めている気がする。
視線が、仕草が、千幸を捉えようとしていて耐えきれずこくりと頷くと、そのままドアを開けて中に入った。
カチャリという音がして、閉じたドアに力なく凭れる。
あっちこっち熱い。
それに、まだドア越しに小野寺の気配を感じる。
どくどくどくと鳴る心臓のあたりをきゅっと掴みながら、これは本気で心してかからないとと眉根を下げた。
少し経って、ようやく小野寺が動く気配がして隣の扉のドアの開閉の音が聞こえる。
すべての音が聞こえなくなって、ようやっと思いっきり息を吐き出した。
そのままずるずると座り込むと、あっちこっち熱いと感じる顔を膝に埋めた。
62
お気に入りに追加
228
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる