21 / 143
2甘ネジ
となり②
しおりを挟む「来てくれる?」
「いや、無理ですから」
さすがに酔っていてもその判断はできるぞと、訝しむように小野寺を見る。
本当に意味がわからない。衝撃でちょっと酔いが覚めてきた。
身体を離そうとするが、断ったのを聞いてましたかと問いかけたくなるほどの力を込められ距離を変えさせてもらえない。
間近で感じる小野寺のほのかに香る石鹸のような匂いと男の体臭が混じり合った匂いが、鼻から全身に回っていくようだ。
見下ろされる熱視線が千幸を捉える。
痛くないのに逃さない力強さで距離を詰められ、トドメは美形見本のような美貌で魅力的な色の瞳が微笑の形に細められる。
なんなんだこのお色気ムンムン男性は。艶っぽく感じるってどういうこと?
男なのに……、男なのに、私より色気あるってホントどういうこと?
楽しくなくてムッと眉間を寄せ、胡散臭いなと目を細めると、小野寺が近い距離のまま続けた。
「俺さ、あんまりこの容姿好きじゃないんだ」
「えっ? それは周囲をバカにしてるんですか?」
何を言い出すかと思えば、自慢? いや、そんな感じではないが、この流れでこれを言われてもどうしたいのかわからない。
千幸の表情が険しくなるのを見て取り、小野寺は肩を竦めてどこか寂しそうに微笑んだ。
「そういうわけじゃないけどさ。これで得なこともたくさんあるけど、煩わしいこともあるわけで」
「……ない物ねだりですね」
小野寺のことを苦労知らずだと思っているわけではないけれど、絶対その顔で恩恵は受けてきただろう。
別の意味で苦労もあるようだけれど、結局つるっと飾らない言葉を吐き出した。
「辛辣だね」
ぼそりと重く告げられた言葉に、言い過ぎただろうかと視線を緩めて小野寺を窺い、千幸はすぐさま後悔した。
――その表情意味がわかりません!!
まっすぐ向けられる視線はそのまま、眉は寄っているがどこか嬉しそうに頬を緩ませている相手をどのように捉えていいのかわからない。
それは、どんな感情????
寂しそうだけど嬉しそうって、今の会話でなぜそうなるのだろう。
とりあえず、詳しく何も知らないのに簡単に返しすぎたことはフォローしておこうと言葉を重ねる。
「いろいろあるだろうなとは想像つきますが、私からすれば恵まれた部類に見えるので。人よりは甘い汁を吸ってきた自覚はありますよね?」
「まあ、そうだね。でも、千幸ちゃんはなびいてくれない」
それが一番の問題なのだと、逸らすことは許さないとばかりに小野寺は千幸を見つめる。
隙あらば詰めてくる相手を若干感心しつつ、この手合いに少し慣れた千幸は冷静に返した。
「なびいてほしいんですか? それは知りませんでした」
「なびいてほしいよ。伝わってると思ったのに。それにさっき言った」
千幸が大して反応しないからか、さらに覗き込むように近寄ってきて、耳元に吹き込むように告げられる。
ぶわっとくる感覚で体がぴくりと反応しそうになったが、物理攻撃に反応しないぞと細く息をすることで逃した。
「それはすみません。出会いから衝撃的すぎて、まだ小野寺翔という人物を掴みきれていませんでした。そして、さっきで初めて知りました」
「へえ。掴もうとしてくれてたんだ?」
「興味持ってるとの話はしましたよね? それに一応、お隣ですから」
「そっか。隣だから」
そこでへらっと微笑む小野寺がよくわからない。こっちの眼差しは好意的ではないとわかるはずなのに、なぜ笑うのか。
ちょっぴり彼はマゾなのかもしれない。
「顔、緩んでますよ」
「だって、嬉しいんだ。なびいてくれないのに、俺を知ろうとしてくれて」
「だから、毎日顔を合わせていると気になりますって」
しかも、あれだけ毎日玄関前で出待ちされて、気にするなというほうが無理だ。
千幸は嘆息して、困った人だと笑う。
好意的だと思っていたが、本当に好意を抱いていたと知らされ悪い気はしない。それに、いつまでもツンツンしているのも疲れるので、肩の力を抜いた。
それと同時に掴まれていた小野寺の腕がぴくっと動き、口元をますます緩めさらに甘さを含んだ声で続ける。
「そういうもん?」
「そういうもんです」
「そっか。そっか」
「嬉しそうですね」
ていうか、緩いです。
「うん。で、さっきので伝わったよね。俺、千幸ちゃんが欲しい。だから早く翔って呼んで」
「……十五日数えるんじゃないんですか?」
「数えるけど、その数が少ないほうがいいに決まっている」
小野寺の場合は急すぎるので、こちらとしては自重してほしい。
「決まってません。それに三つ上ですし、何をしているのか教えてくれない人を気安く呼びません」
「固いね」
「家訓ですので」
「家訓って」
小野寺は口説く甘さをそのまま、ぷはっと笑う。
少年のような無邪気な笑みに、その顔は嫌いではないなと思いながら千幸は告げた。
「多少、大げさに言いましたが、家ではどれだけ親しくなろうとも、何か距離がある限りは気安くすべきではないと教えられましたので。本当に親しい間柄の人以外は呼びません」
「ふーん」
そこで、かぷっと耳を噛まれる。
千幸はとっさに噛まれた耳をかばいながら、何してくれるんだとじとっと睨みつけた。
何? ふーんでかぷって。
耳がむずむずする。これは思い通りにならない自分への腹いせか?
94
お気に入りに追加
225
あなたにおすすめの小説


甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

密室に二人閉じ込められたら?
水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる