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1ネジ

友人という名の side弥生+轟②

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「いい加減にしろ。過去は過去。今は今だ」
「へぇ」
「邦彦くんは甘いわよね」

 互いに視線を外し、言い方や態度は別として仲介に入る形になった轟邦彦をちらりと見る。
 だが、轟の言葉はどちらの意図にも沿うものではなかった。

「違う。現実についてだ。小野寺にとっての現実的な話として、もうすぐ動くと言ったがそれは別の話だ」
「だが、一つのターニングポイントだ」
「そう思うのは勝手だがそれは成果が伴った場合の話だ。そのためにも早く準備しろ。こっちはお前のために調整をしてるんだ。ここで手を抜いたら目的が遠のくぞ」

 時計を見せ急かす轟に、時間を確認した小野寺はすぐに顔を引き締めた。
 先ほどまで緩い顔をしていたとは思えない、出来る男風にきりりとする。

「わかった。五分待て」
「ああ」

 轟は小野寺の背中を見送ると、にやにやする桜田をメガネ越しに眺め、軽く肩を竦めた。
 小野寺が藤宮千幸を連れて来た時から、それはもう楽しそうだ。

「そんなに面白いか?」
「面白いわね。高校の時の翔を知っているからなおさらね。大学でもそう変わらなかったって聞くし、相変わらずイケメンだけど千幸ちゃんを前にするとユルガタね。邦彦くんは大変そうだけど」
「まあな。早く落ち着くところに落ち着いてほしいものだ」
「本当、なーんかここまでくるのが長かったのよね」
「ああ、全くだ。あれは、ひどかった……」

 轟は考えるだけで芋づる式にゲンナリするあれこれを思い出し、ひどく疲れたように桜田弥生の言葉に共感する。

 ────どうしてどうなったらあんなことになるんだ?

 いまだに謎だ。わからない。
 弥生も思い出したのか視線が絡むと、同時に「はあぁぁぁ」と盛大に溜め息をついた。魂魄こんぱくがほわっと抜け出すほど重いものだ。
 轟は大学時代の友人、桜田は高校時代の友人として、小野寺を通して最近知り合ったが、弥生曰く『なーんか長い』のを経たことで変な仲間意識ができた。

「傍目には楽しいっちゃ楽しいし、翔の見たことない行動と千幸ちゃんのツレなさぶり笑えるけど。けんくんは爆笑してたわよ。トラック借りて準備万端ってさすがキングって」
「彼には世話になり助かったが、やたらノリノリだったな。高校の時あんたらはどんなんだったんだ? ……あと、そのあだ名は生きてるのか?」
「大学時代の翔のあだ名がキングなんでしょ? 健くんの友達が同じ大学で有名だって言ってたの聞いたの。高校の時はプリンスだったから、格上げされてるって盛り上がっちゃって」

 轟は続く言葉を予想して顔を歪めた。
 弥生は楽しそうに続ける。

「邦彦くんは参謀だったかしら。キングに参謀、何それ? 国家築くの? って聞いたらほかにもろもろいたって言うじゃない。しばらく笑いが止まらなかったわ。まあ、高校時代も似たようなものかも。個性強いのが生き残って最後はわちゃめちゃだったし」
「……とても楽しそうだな」
「そうね。だから今も楽しいわ。今までと違った旨みっていうの? 千幸ちゃんはちょっとお気の毒さまぁって感じだけど、まあハイスペックの好物件だから諦めて? って感じよね」
「…………」

 轟は懸命にも黙した。
 人の恋路に口を出したくないが、手は貸している。だから、せめて二人が関わりだしたら口だけは出さないでおこうと決めていた。

 正直、あれだけ付き合わされたのだから、ぜひとも藤宮千幸にはこっち側にきてもらわないと困るとは思っている。口には出さないが。
 だが、見込みがあるのかないのか見ていてよくわからない。
 嫌われてはいないようだが、小野寺の押しが強すぎるのか、藤宮千幸の性格からか、会話が一方通行気味に見える。

 あの色気だだ漏れのしかも限定で緩んだ顔を見せられても、なびかない女性というのは稀有けうだ。
 たまに、あのシレッとした感じでばしっと言ってやってくれと思うことすらある。それも、ぜひともこちら側にきてほしい理由の一つだ。

 まあ、小野寺が言うように、今日はターニングポイントといえばそうだなっと、山積みの仕事を思い出し溜め息をつく。
 仕事は乗りに乗って順調だ。その分、忙しいがやり甲斐があり轟的にはオプションを除いてあまり不満はない。

 だが、そのオプションが小野寺的に大事だと言われれば、彼がトップなので従うしかない。
 小野寺のモチベーションを調整するのも、轟の仕事だ。関係がもともと友人であったためその仕事との境目があやふやだが、ここまでくれば仕方ない。

 小野寺とは友人というよりは彼を囲んで仲間が増えて付き合いが増えている感じだが、もう今さらなのだろう。
 あれこれ考えていると小野寺が出てきた。

 その表情はすでに仕事モードである。
 轟は時計を確認する。ぴったり五分で気持ちも切り替えてきた、友人兼上司に無言で行くぞとその場から移動した。



✽.。.:*·゚ ✽.。.:*·゚ ✽.。.:*·゚ ✽.。.:*·゚ ✽.

1 ネジここで終わりです。
ネジごとに甘さとネジの緩み具合も加味されていくかと思います。
お付き合い、本棚登録、ハートをありがとうございます。とっても嬉しいです(*´∀人)♪
数年ぶりに読み返し現在も改稿中なのですが、タグにもあるように本当に変で甘いです。じわじわくる変甘です!
小野寺のネジはやっぱり緩んでいました笑
その辺りも含め楽しんでいただけたら幸いです。

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