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友人という名の side弥生+轟①
しおりを挟む今朝も滞りなく千幸との逢瀬を終え、夜の約束まで取り付けることができた小野寺翔はご機嫌に千幸の姿を眺めていた。
彼女の姿が見えなくなると穏やかに引いていた口元を戻し、背後に立つ二人へと視線を送る。
真顔になり榛色の瞳をすっと細めるだけで、楽しくない、不機嫌だと周囲に告げる。
「前も言ったが、二人の時間を邪魔するな」
それぞれ背が高いので、三人揃うと迫力がある。
桜田弥生はヒールを履いてだが、目線は皆百七十以上をもつ者のそれだ。その中で百八十は優に超えている小野寺は、二人を見下ろした。
迫力ある美形に凄まれたところで、付き合いの長い彼らは微動だにしない。
「邪魔しているつもりじゃない。こっちは仕事だ」
真面目な轟邦彦が黒縁メガネを押し上げて、鞄を見せる。
「私は見学ぅ」
弥生なんかは、さらに煽るような台詞まで吐く始末だ。
手先まで手入れされた爪には透明をベースに、赤、金、紫などで模様が描かれたマニキュアを見せながら、手をくいくいっとさせる弥生に、小野寺は冷めた眼差しを向ける。
笑顔を作ることをせず眼差しだけ怖気づかせられるほどの美貌を有効活用したその表情は、決して千幸に見せることのないものだ。
「いちいち出てくるな」
「何を言ってるの。私とあなたの仲じゃない」
その表情を向けられることさえ楽しいのか、弥生は片目を瞑りウインクしてみせる。
「知るか」
まるっきり興味ないとばかりに告げられた言葉に、ふっくらというよりは、すっと横に通った赤い唇を少し尖らせ弥生はあえて拗ねてみせる。
「可愛くないの」
「俺に可愛さを求めてどうする」
「はいはい。でも、可愛さって男も女も大事よ。それに同じフロアにいて気にするなというほうが無理あるでしょう。それに、貸しが一つあること忘れないでね」
「……わかってる」
不承不承、その借りが大きいのか仕方がないと頷く小野寺に、弥生はにんまりと口元を引いた。
小野寺は偉そうであり傍若無人なところもあるが、根本は悪い男ではない。むしろいい男の部類だ。
いろいろ知っているが、その辺も目を瞑りたくなるほど、実際ほとんどの女性が目を瞑るほど好物件だ。
実際よくモテる。遊びでもいいという女が、次から次へと現れる。
様々な条件が重なり、それが通る容姿と能力があるがゆえに自然と上からのものの見方とういか、自己主義方針が強すぎるが、それをよしとしてきた周囲にも問題があるのだろう。
一個人に固執することはなく、本人も必要を感じない。それなのに、対人スキルは教育の賜物なのか折り紙付きで、周囲に人を絶やさない。
その小野寺が受け身ではなく初めて自ら両手広げてこいと示している。
なのに、肝心の相手には伝わらず振り回されている現状というのが、弥生にとっては面白すぎて見ずにはいられない。
ここ最近の小野寺を思い出し、くすりと弥生は笑う。
無理はしたが貸しを作ってよかった。苦労が報われた気分だ。
「それはよかった。それにしてもここまでだと思わなかったわ」
「何がだ?」
「忙しいあなたが時間を無理やり作ってまで、彼女との時間を優先することよ」
人は変わる。それは知っているが、実際に友人がここまで変わるとは思いもしなかった。
「わかっているなら引っ込んどいてくれ。俺は二人の時間が欲しいんだ」
「それは彼女に言ってよね。何をそんなにもたもたしてるのよ。以前はぐいぐいいわせてたくせに」
「煩いな。俺からいわせたことはない。それに、もうすぐ動く」
髪をかきあげ、ふっと微笑を浮かべる。
それがものすごく待ち望んだことなのか、空気までがふわっとではなくぶわっと一気に熱するようだ。
「ちょっと、怖いわよ。もうちょっと熱を抑えてくれないと、千幸ちゃん壊しちゃうわよ」
間近でそれを感じた弥生は、若干引くように一歩下がるがやはり楽しくて顔はにやにやと笑う。
「壊さない。大事にしているだろう?」
「まあ、確かにそうね。昔は受け身もいいところのヤ……」
「それ以上いったら殺すぞ」
弥生の言葉を遮る小野寺だが、わずかに声を低くするだけで鋭さが増す。
一瞬空気が凍るかと思うほどの殺伐としたものが流れたが、どちらも空気を改めず見つめ合った。
誰もが認める美形は乗効果もあってお得だなとドキッとしてしまったことに不満を抱えながらも、やっぱりちょっと突いただけで反応する友人が面白くて、弥生もつい混ぜっ返してしまう。
「あら、怖ぁ~い」
冷えた声で告げる小野寺に、弥生は茶目っ気のまま返す。
そこで轟がなだめるというよりは、言い合いは無駄だと心底どうでもいいと感情のこもらない声で割って入った。
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