10 / 143
1ネジ
決別③
しおりを挟む遊川はなおも淡々と作業をしていく千幸を何か言いたそうに見ていた。
自分たちを隔てるように千幸の横でずっと作業をする小野寺の存在に威圧されたのか、もしくはしっかり状況把握するかのように動く轟に臆したのか何も言わない。
作業しながら視線に気づいていたが、千幸も詰め寄る気もなければ、下手な言い訳など聞く気分でもなく、気持ちもぽきりと折れてしまったので関係修繕のための話をしたいと思わなかった。
同棲までして、連れ込んだという事実が相当堪えていた。
この部屋に戻ってくると、数時間前の光景が脳裏にちらちらする。
だから、必要最低限の会話だけして、二度とこなくてもいいように荷物をまとめた。
自分の家なのに挨拶の時以外は空気のような扱いをされ、よほど驚いたのか何か思うことがあったのかわからないが、遊川も無言で千幸の荷造りを手伝いだした。
女一人、男三人が夜中にごそごそと荷物を包む。
夜逃げかってほど、無言でさくさくやっていく。
その中で、さっさとこんなところを出ようとばかりに誰よりもテキパキと動いたのが、車に乗ってから機嫌が斜めに感じる小野寺だ。
そして、ここにきてピークに達しているようで、超絶美形が超絶不機嫌を隠さず、千幸のみに話しかける様は一種異様な光景だ。
向けられる笑顔も逆に怖いと思うほど、ちらちら見え隠れする不機嫌さに磨きがかかって迫力がある。
────この人、どうしたいの????
話しかけられるたびに疑問が浮かび上がるが、そのたびに飲み込んだ。疑問を挟む雰囲気でもなく、余裕もない状況だった。
でも、やはりずっとクエッションマークは飛んでいる。
こちらからお願いしたわけでもないのに、手伝ってくれるのに不機嫌。
轟は轟でもくもくと無言で動いているし、彼らはツーカーなのか会話なくても作業分担されて着々と部屋の荷物がなくなっていった。
すごくスムーズなのだが、やはりこの状況は変だ。
とにかく、ここを出なければ話にならないので、遊川の意味ありげな視線も今はもう面倒に感じて早く立ち去るべくやるべきことをやっていく。
雰囲気にも後押しされ、びっくりするほどあっという間に荷物を詰め込み運び終えた。
結局、最後までろくに話さなかった遊川は、罪悪感からか玄関先まで見送るために出てきた。
面と向かって個人的な話をするのは最後になるかもと思い、千幸も向き合って彼が口を開けるのを待つ。
だが、轟は下の車で待っているが、小野寺はしっかりと千幸の横に陣取っている。
彼が気まずそうにちらりと小野寺を見たので千幸も視線をやったが、小野寺は遊川にどうぞとばかりににっこり微笑み何も言わないし動かない。
────なんだかなぁ……
本当になんだかなぁ、だ。
何も知らない男性がここにいる状況は意味がわからないし、変だとも思う。この先も不安だが、心なしかこの状況で堂々といられると頼もしくも感じる。
千幸が連れてきた彼らをどう思っているか知らないが、遊川にとっても威圧感と疑問だらけの人物だろう。
問われたところで説明できないが、浮気され失望させられた分、何か相手も驚くものがあると知れると少し気持ちはスッキリする。
よくわからないスッキリさではあるが、その面では気丈に振舞えたことには小野寺に感謝だ。
目の前には九か月ともに過ごした男がいる。そこそこ男前だと思っていたが、小野寺や轟を前にすると霞む。それはきっと千幸の中で彼への気持ちが遠のいたからなのかもしれない。
……これで、いいんだよね?
千幸は自分に言い聞かせるように、心の中で問いかけた。
ちょっとムキになっている可能性はあるけれど、気持ちがすぅっと冷めてしまったものは再び熱くさせるのはかなり難しい。
別れるということは、当たり前だが関係が終わるということだ。
終わりを口にしたら、距離も離れる分、気持ちも離れていき、もし再び関係を築きたいと思っても相手の状況がわからない分、きっと今より関係修復は難しくなる。
そういうことがないように、この終わり方でいいのか、後悔はしないのか、いろんなことが急だったからこそ、少し不安になる。
千幸は改めて遊川をじっと見つめた。
顔を見ても、ただ時間に対して不安なだけで、話し合って関係をとまでやはり思えなかった。
一向に切り出さない相手に、千幸から別れの言葉を口にする。
「さよなら」
最後の言葉も、さらっと口から出た。
昨日まで仲良くスキンシップをとっていたのに、次の日には玄関先で別れを告げている。
築き上げてきたものが終わる時というのは唐突だ。
時間はあまり関係ないのだなと、呆気なさとともに寂しさが支配する。
遊川は口を開きかけたがまた閉じて、キュッと口を引き結んだ。
「……ああ」
そして、いろんなものを呑み込むように頷いた遊川と数秒見つめ合う形になったが、そこで小野寺に無言で腕を引かれた。
千幸もとくに抵抗することなく、最後に玄関横に鍵を置いて、小野寺に促されるまま歩き数か月住んでいた家から離れていく。
感傷に浸りたかったわけでもないが、そんな暇もなく元彼となった男のマンションを後にした。
あっけない。
終わりは実にあっけないものだった。
これまでの付き合ってきた時間は何だったのかと思うほどに、ぱたんと閉まったドアの音が軽く聞こえた。
現実味がないのか、まだ気を張っているのか。
あっけない終わりの音は、新たな扉がゆっくり開いていたことにこの時の千幸はまだ気づけなかった。
そして、荷物の行方を疑問に思うのも、乗った車が走り出してからだった。
78
お気に入りに追加
220
あなたにおすすめの小説
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?
すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。
病院で診てくれた医師は幼馴染みだった!
「こんなにかわいくなって・・・。」
10年ぶりに再会した私たち。
お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。
かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」
幼馴染『千秋』。
通称『ちーちゃん』。
きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。
千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」
自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。
ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」
かざねは悩む。
かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?)
※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。
想像の中だけでお楽しみください。
※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。
すずなり。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
セカンドラブ ー30歳目前に初めての彼が7年ぶりに現れてあの時よりちゃんと抱いてやるって⁉ 【完結】
remo
恋愛
橘 あおい、30歳目前。
干からびた生活が長すぎて、化石になりそう。このまま一生1人で生きていくのかな。
と思っていたら、
初めての相手に再会した。
柚木 紘弥。
忘れられない、初めての1度だけの彼。
【完結】ありがとうございました‼
【完結】【R18】男色疑惑のある公爵様の契約妻となりましたが、気がついたら愛されているんですけれど!?
夏琳トウ(明石唯加)
恋愛
「俺と結婚してくれたら、衣食住完全補償。なんだったら、キミの実家に支援させてもらうよ」
「え、じゃあ結婚します!」
メラーズ王国に住まう子爵令嬢マーガレットは悩んでいた。
というのも、元々借金まみれだった家の財政状況がさらに悪化し、ついには没落か夜逃げかという二択を迫られていたのだ。
そんな中、父に「頼むからいい男を捕まえてこい!」と送り出された舞踏会にて、マーガレットは王国の二大公爵家の一つオルブルヒ家の当主クローヴィスと出逢う。
彼はマーガレットの話を聞くと、何を思ったのか「俺と契約結婚しない?」と言ってくる。
しかし、マーガレットはためらう。何故ならば……彼には男色家だといううわさがあったのだ。つまり、形だけの結婚になるのは目に見えている。
そう思ったものの、彼が提示してきた条件にマーガレットは飛びついた。
そして、マーガレットはクローヴィスの(契約)妻となった。
男色家疑惑のある自由気ままな公爵様×貧乏性で現金な子爵令嬢。
二人がなんやかんやありながらも両想いになる勘違い話。
◆hotランキング 10位ありがとうございます……!
――
◆掲載先→アルファポリス、ムーンライトノベルズ、エブリスタ
絶倫彼は私を離さない~あぁ、私は貴方の虜で快楽に堕ちる~
一ノ瀬 彩音
恋愛
私の彼氏は絶倫で、毎日愛されていく私は、すっかり彼の虜になってしまうのですが
そんな彼が大好きなのです。
今日も可愛がられている私は、意地悪な彼氏に愛され続けていき、
次第に染め上げられてしまうのですが……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
陛下の恋、僕が叶えてみせます!
真木
恋愛
もうすぐヴァイスラント公国に精霊がやって来る。
建国の降臨祭の最終日、国王は最愛の人とワルツを踊らなければならない。
けれど国王ギュンターは浮名を流すばかりで、まだ独身。
見かねた王妹は、精霊との約束を果たすため、騎士カテリナにギュンターが最愛の人を選ぶよう、側で見定めることを命じる。
素直すぎる男装の騎士カテリナとひねくれ国王ギュンターの、国をかけたラブコメディ。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる