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決別①
しおりを挟む同棲していた恋人が浮気相手を連れ込み、家を出なければならない現状に千幸は嘆息した。
正直、小野寺の登場で衝撃が薄れてしまったけれど、もし彼がいなければもっとかなり落ち込んでいたと思うと複雑だ。
今、ものすごく悲しくて惨めだけれど、自分の周囲でざらにあるわけではないが世間的に聞かない話でもない。
学生の時の友人の中には、浮気をさも自慢げにペラペラ話す人もいた。
恋人と向き合い真面目に交際している人もいれば、アバンチュールを楽しむ人もいたので考え方はそれぞれだ。
その時、その時に思うことはあるし求められれば考えも述べ、窘め慰め、一緒に怒ったり悩んだりもした。
たけど、最終的には当人たちがどう判断するかであり、ほどほどにとしか言いようがない。
本当のところどのような関係を築き求めているかは他人にはわからないし、深く関わる気がなければ口を出すものではない。
恋愛は『自由』だと掲げた言葉を聞くことがあるが、自由というのはその結果を受け持つのも己自身で、つまりどんな結果になろうとも事件性のものでない限り自己責任という意味だ。
千幸の場合は、相手は優しくして頼りになると思っていた会社の先輩だった。
告白されてしばらく付き合うと同棲しようと言われ、実家を出たい時期だったので、それならと了承した。
相手に望まれて始まった交際であったけれど千幸なりに好きだったし関係を大事にしてきたので、浮気されて裏切られたと感じた。
だけど一番はそういう男だと見抜けなかった、そして自分自身も楽なほうを選択したとどこかで思うから、自業自得で自分が情けなかった。
これまでそれなりに友人と遊び、異性ともお付き合いしてきた。
社会人になって一年経てば、仕事で足を引っ張ることも減りわかることも増え充実してきた。
まあ、元彼となる相手が同じ会社なのは気まずいがない話でもない。
財布を交番に届けたことも、道案内したこともある。困っているだろう人にハンカチを差し出したこともある。
近所のお兄さんが好きだった時期もあったし、学際で告白されたこともあるし、反対にいいなぁと思っていた人に恋人がいたことだってある。
そういった、大なり小なりの思い出は誰にだって度合いは違えいろいろあるだろう。ずっと覚えているものもあるし、ふと思い出すものもある。
だから、普通にそれなりの社会人女性だと、千幸は己を客観的に判断していた。
彼氏の浮気現場に遭遇し、どなり散らし醜態を晒すようなことはしなかったが、急にアホらしくなり「ごゆっくりぃ」と言って飛び出した。
マンションが見えなくなるまで歩き、そこで千幸はごゆっくりぃはないだろうと自分に呆れた。だが、言ってしまったものは仕方がないといつものバーに飲みに入ったのだ。
冷静になったというよりは、行くあてがないことに気づいただけである。
しつこく鳴るスマホに出る気もなく、まずは住めるところを探して日常生活を取り戻そうとすべきことを頭の中で並べていく。
幸い明日は仕事が休みなので、今夜はカプセルホテルでしのげばなんとかなるだろうと考えることができて、ようやく少し落ち着いた。
この先を考えては、一緒に住んでいるところに女性を連れ込むのはやはり腹が立つと、浮気現場を思い出しムカムカする。
たとえ、彼がもともと住んでいたとこであったとしても酷すぎる。
社内恋愛だが今まで問題なくやっていると思っていた。
好きだと告白され、大事にすると言われ、それまでも優しく頼りになり何かとフォローしてくれる人だったので、付き合いをオーケーした。
九か月ほど付き合い、それなりに自分たちは過ごしていた。
それなりが駄目だったのか。
裏切られたことは悲しく腹は立つが、やはり千幸の中では彼を盗られたというよりは、ああ、それならもう終わりでいいやが勝った。
同じ職場だと別れた後は気まずいが仕方がない。浮気したのは向こうなのだから、こっちは毅然としていればいい。
でも、視界に入ると気にせずにはいられないだろうし、仕事で話すとしても気まずい思いをするのは簡単に想像できる。
いろいろ思うことはあったが、裏切られたというショックは隠せない。
気持ちの整理もついているようで、やけになってもいて、小野寺と出会って考えもせぬ形で再び二人で暮らしていた、浮気現場に戻ってきた。
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