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────1・可視交線────

35公開告白②

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「うん。行くよ!!」
「ふふっ。アオイならそう言うと思った」

 夏葉はにこりと微笑むと、行こうと手を差し伸ばしてくれる。
 自然と出るその行動は男前な友人。ふわふわと花が綻ぶような笑顔はもう天使だ。

「はわぁ~、天使。ナツバさ~ん」


 ……ん?


 声に出してませんよ。さすがにそんなこと口にしません。
 となると、同じことを思って口にした人が別にいる。

 うっとりとばかりの声は自分よりも低く、しかもすぐそこで聞こえる。
 再び、ん? と夏葉とともに目を見合わせ、同時に横に視線を向けると運動部系の体格のいい先輩が立っていた。

 ちなみに、紺のストライプのネクタイのラインに一本だけ違う色が入り学年がわかるようになっている。
 今年は紫のラインが入っているのが一年。黄色のラインが2年。赤のラインが3年。黄色のラインが入っているので2年の先輩だ。

「…………」

 無言で笑みを引っ込め無表情で先輩を見つめる夏葉に、蒼依は遠慮しながらおずおずと訊ねる。

「知り合い?」
「知らないよ」

 興味がないとばかりの色のない視線に、ショックを隠せずしょぼんと肩を落とす先輩。

「そんな~。だが、辛辣なナツバさんも良い。ずっとずぅっとナツバさんが高校に上がるの待ってた」
「そうなんですか」
「そうだよ。改めて、藤堂夏葉さん。俺と付き合ってください!!」

 そう言って、右手を差し出す先輩。


 ──こ、公開告白がきた~!!


 ここは教室です。昼休み前で人目を集めやすい一時。
 どれだけオープンなんだ。

 照れも何もなく真剣な顔で夏葉を見つめる先輩のこの行動は、OKならその手を取れってことなのだろう。
 男女間のやり取りでも、これは見てる方も固唾を呑むシチュエーション。

 しかも、対象者は友人。全く知らない人と友人のそれとでは、居合わせる方もドキドキ度が違う。
 妙に緊張しながら蒼依は成り行きを見守っていると、ナツバ天使はそれはもうにっこりと笑みを浮かべ、笑顔とは反対にものすごく冷めた目で先輩を見た。

「無理です」

 爽やかな一言。簡潔な答え。わかりやすい。
 ナツバさんは可愛い顔に似合わず、スパッと切り捨てた。何より視線が、関係ないのに突き刺さるほど冷ややかだ。

「俺が?」

 先輩は、くいっと首を捻り一言。

 俺が? って何が? と思っていたら、夏葉には通じていたみたいでこれまたハッキリと断りを入れる。

「先輩というよりは、男をそういう対象で見れないので諦めてください」
「わかった。では」

 ハキハキ話しながらもぐすっと鼻をすすった先輩は、がおっと両手を挙げてそこでなぜか夏葉に襲いかかった。


 ……なぜ???


 わかったって先輩いいましたよね?

 そんな疑問がぎった一瞬のこと、目の前で起こったことについていけず蒼依は目を見張った。
 ヒュンッと風が通り、ダァーーーーッンっと豪快な音が教室に響く。

 えっ?

 気づけば、先輩が大の字で倒れていた。

「ええぇ~~??」

 思わず声を上げると、それ以上にどっと周囲が湧く。

「「「「「おお~。高校一発目も見事」」」」」

 一発目?

 感嘆の声。しかもハモっているときた。
 パチパチと拍手さえ聞こえるが、訳が分からず蒼依は首を傾げた。

 どうやら驚いているのは蒼依と他の外部入学生のみ。といっても、クラスにはあともう一人いるだけだ。
 

 ──ちょっ、誰か説明お願いします~。


 投げられた先輩も、うんうんと満足げに頷いている。……なぜ、誇らしげに満足しているの?
 そう思って目の前の夏葉を見ると、にこっと微笑み返された。可憐な笑顔は天使だけど、さっきのは理解不能なので説明をしてほしい。

 先輩、180センチはあるよ? それをヒュンッッて投げたよ? 
 なぜ、襲った? なぜ投げた?
 なぜ、拍手???

 さっぱりわらかないので、わかるように説明をお願いします!! 

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