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────1・可視交線────
33性質③
しおりを挟む「ええ。アオは昔から少し目を離すと、いろんな問題提げて帰ってくるので。先輩方がアオに興味がおありなら、いっそのことこちら側にと思いまして」
「んなっ?」
翠さん。それはどういう意味?
じんわりと過去に思い馳せしんみりしていた蒼依にとっては、翠の言葉は青天の霹靂である。
懐かしみ、そしてこれからまた関係を築き直していこうと単純に思っていたのに、翠の方は少し違ったものを含んでいるようだ。
「アオ、反論はなしです。横に歩いていると思ったら一駅先で知らない人と一緒にいたりとか、そういうのは一度や二度ではないですからね。あの頃のこと忘れてはいないでしょう?」
「でも、だって。……小さかったし?」
ここで、さすがに何もなかったとは言えない。本当に害をなすことがあったわけではないのだが、突然消えられた方としたらその言葉はタブーだ。
「心配するこちらの身にもなってください」
「うん。ごめん」
だから、素直に謝る。
こればかりは注意していても、そうなってしまう。気づけばそうなっていたというのが正しく、そうなったらもう自分の力ではどうしようもない。
翠からしたら、どんくさくて聞き分けのない幼馴染であったと思う。それでも、毎回必死で探しに来てくれた。
そういったことを繰り返し、翠も蒼依がどうしてそうなのかも、言葉にはしないだけで薄々気づいているように思う。
翠は吐息をついて、いまだに置かれた手にぎゅっと力を込めた。憤懣を押し込めるように、軽く唇を噛み締める。
その様子に、蒼依はそっと手を外し今度は自分から翠に手を重ねる。自分の不甲斐なさが身に染み、胸が痛い。
「そういったのは減ったよ?」
「だったらいいのですが」
握られた手を見ながら視線を合わせない翠に、蒼依は昔日を懐かしむように目を伏せた。
そうなった時、いつも必死で泣きそうになりながら抱きしめてきた少年は、大きくなり時間が空いてもあの頃と変わらぬまま蒼依を案じてくれている。
「うん。ごめんね。翠がたくさん心配してたくさん手を引いてくれていたのは感謝してる。だから、大丈夫とは言えないけれどもしもの時は翠を頼りにしてるから」
エレベーターを降りる前に言った言葉。それは、きっとこういうことなのだろう。
嬉しくて、泣きたくなって、ぐぅっと締め付ける胸の痛みを我慢しながら、蒼依は精一杯の答えを返す。
「そうしてください」
力なく落ちた言葉に、自分が思った以上に、考えていた以上に、目の前の青年を傷つけていたことを自覚する。
そして、あの頃とはまた違うことも意識する。
すっかり気を取り直した翠は、蒼依の守護者であるかのように毅然とした態度で先輩へと視線を向けた。
「すみません。少し自分たちは時間が空いてしまってますので、このような話になってしまいました。とにかく、子供のころから自覚あるのかないのか、アオの性格と性質は少しやっかいで、昔から妙なのに好かれるんです。それは、人だけではなく、今回のように必要以上に目立つような事柄とかですね」
「ふ~ん。こうなったのも偶然でなく本来のアオイの持ってるものも大きいと言いたいんだな」
「そうですね。規模はマチマチですけど、気づいた時にはまたかという感じです。実際に二日も経たないうちにこれですから」
「そう言われるとそうだな」
桐生がふむと納得して、また面白そうな視線を投げてくる。
「妙に目を惹いたのもそういうのも関係しているのかな」
「そうそう。始業式の前に西園寺は見つけてたもんな。これは今年は本当に楽しくなりそうだな」
いやいや。先輩方そこで納得しないでくれますか?
そして、断じて面白くないですからね。
それに、昔からそう言われるが、こっちはそれに納得しているわけでもないのだ。
むむぅっとふてくされていると、翠が小さく小さく口端を上げて、蒼依にだけに聞こえるように顔を寄せた。
耳たぶに翠の熱い吐息がかかる。
「アオ。覚悟しておいてくださいね。今度は逃しません」
最後にわざとなのか偶然なのか、唇を掠めていく。
──っ!?!?!?!?!?
蒼依は顔を勢いよく翠の方へと向けると、何事もなかったかのように涼しげな顔で先輩の方へと向いた。
偶然? 気づいていない?
そのまま生徒会関係の話をしだした翠の横顔を眺めながら、蒼依はそっと先ほど触れた耳を触った。
覚悟。
逃がさないと、翠に言われたその言葉。
じわりじわりと蒼依の奥へと浸透し、ぎゅぅぅっと胸が締め付けられる。それと同時に、二年前にはなかった強気な態度に、言葉に、目が離せない。
姿も性格も一皮向けた幼馴染に戸惑いながらも、またこうして一緒にいれることが嬉しくてたまらない。
あの頃のように追いかけてくるのではなく、先回りするかのように先輩を巻き込んだりと、手段は違えど気にかけてもらえることに不謹慎なのに心が震える。
翠が触れた場所をそっとなで手を下ろすと、大きな窓から空を見上げた。
昨日と同じ陽気な日差しが、気持ちよさそうに降り注ぐ。
たった二日にしては濃く感情の揺れを感じたけれど、翠がいてくれると思うだけで頬を緩んでしまうのを止められず、軽くなった気持ちとともに蒼依は笑みを浮かべた。
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